第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(4)
ユズハが聞いてきたところ、男は魔法の玉は知らないが盗賊の鍵について知っているとのことだった。
ナジミの塔に住んでいる男が盗賊から取り上げた鍵を持っていると。
俺たちは話し合った結果、魔法の玉の情報は後回しにして盗賊の鍵を手に入れることにした。
そして俺たちは今、ナジミの塔に向かっている。
途中何回かモンスターに出くわしたが、それほど苦戦せずにナジミの塔のそばにやってきた。
だが、ナジミの塔は小島の上に建っていた。あそこに行くにはどうしたらいいのだろうか?
「カイト! 早く行く方法を考えなさいよ」
ミリアがそう怒鳴る。ユズハが慌ててミリアをなだめる。
「カイト、あそこに見える洞窟からいけるんじゃないか?」
周りを探索していたレイラが、入り口らしき洞窟を見つけて戻ってきた。
ほかに行く道がないとすると、あれが入り口に間違いない。
「あれが入り口ってことは、洞窟に入っていくということよね」
妙に嬉しそうにしているミリア。ユズハが理由を聞くと、
「やっと冒険らしくなってきたじゃない」
とのこと。
先が思いやられると思いながらも、前に俺とレイラ。
後ろにミリアとユズハという隊列で、洞窟の中へと入っていった。
ところが、洞窟に入ったところでいっかくうさぎが襲い掛かってきた。
なし崩しに戦闘になるが、こちらが不利だ。
「ユズハ、ミリアを頼む」
俺はそう言って、目の前のいっかくうさぎに剣を振るう。
レイラも目の前のいっかくうさぎと対峙している。
幸いにもいっかくうさぎは2匹だったので、何とかなりそうだ。
と思ったのが甘かった、奥から別のいっかくうさぎが現れた。
このままではやられてしまう。そう思ったとき、頭に文字が浮かび上がった。
咄嗟にその文字を口にする。
すると手のひらに、小さな火球が浮かび上がった。
「メラ!!」
俺は迷わず火球をいっかくうさぎに投げつけた。
狙いたがわず、いっかくうさぎに当たり火に包まれる。
それでもなお襲い掛かろうとするいっかくうさぎを剣でしとめた。
レイラも1匹を倒して、次に現れたいっかくうさぎを相手にしている。
加勢に向かおうと思ったが必要がないというので、ほかにモンスターがいないか警戒することにした。
「まさか、カイトが魔法を使えるなんて思わなかった」
戦いが終わり、一息ついたところでミリアが呟く。
「俺も使えるなんて知らなかった」
自分自身でもまだ、半信半疑だ。
「たぶんですが、これが勇者の資質だと思われます」
「「「ししつ!?」」」
「はい。昔の文献に勇者はいくつかの魔法が使え、勇者にしか使えない魔法もあると記されていました」
「どうやったら、魔法を覚えるんだ?」
「それは私にもわかりません。ですが、経験を積んでいけば、自然と身に付くのではないでしょうか?」
そういうものなのか? なら、オヤジも魔法が使えたということなのか?
「なんかずるいわね。魔法使いでもないのに魔法が使えるなんて」
ミリアが羨ましそうに言ってくる。
「まあ、遊び人のお前には無理なことだけどな」
「誰が遊び人ですってぇ〜!!」
ゴキッ!!
ミリアが俺の頭を力いっぱい殴るつける。止めてくれ、モンスターを倒せる力で殴るのは。
「まあ、考えていても仕方がない。もう少し休んでから先に進もう」
レイラがそう提案してくる。
「そうだな。塔に入るまでにもうすこし時間がかかりそうだ。
疲れているところをモンスターに襲われでもしたら、大変なことになる」
レイラの提案を受け入れ、もうしばらくここで休むことにした。
その後も何度かモンスターに襲われたが、何とか撃退することができた。
この洞窟のモンスターは結構強く、みんな疲れが出始めている。
休憩を取りながら進んでいるが、疲労が完全に回復するわけではない。
しかも休んでいてもいつ襲われるかわから無いので、緊張感から開放されることは無い。
洞窟に入ってどれくらい経ったか分からないが、階段を見つけ上ってみると新たな場所へ出ることができた。
「今までの雰囲気と違って、人工的に作られている」
レイラがそう呟く。確かに綺麗に整備された場所だ。ここがナジミの塔なのか?
「まだ…ナジミの塔ではないようですね」
いろいろと見て回ったユズハがそう告げる。
「それなら、さっさと先に進むわよ」
ミリアの言葉に促され、俺たちは歩き出した。しばらく行くと十字路があった。
「どっちに行く?」
そういういながらも、ミリアはまっすぐ進もうとする。
「右側に階段がありますが」
とはユズハ。確かに右を見ると、階段が見える。
「左はどこまで続いているかわからないな」
レイラの言うとおり、左はどこまでも続いている。
「まずは、まっすぐ進んでみるか」
悩んだ末にまっすぐ進むことにした。別にミリアが怖くて選んだわけではない。
「階段は後回しにしたほうが良いだろう。左は先が長そうだから後にしようと思う」
俺の言葉にみんなが頷く。では、先に進むとしよう。
しばらく進むと突き当たりにぶつかり、左に階段が見えた。右は行き止まりになっている。
仕方なく階段を上ることにした。上ると豪華な作りになっているところに出た。
さっきとはまったく違う雰囲気がある。
目の前には扉があり、いかにも何かありそうな感じがする。
「あれ? ここって……」
ミリアが首をかしげてそう口にする。
そのまま黙ってしまったミリアをよそに、俺は扉を開けようとした。
が、鍵がかかっているらしく、開けることはできなかった。
「なにやっているのよ」
考えるのを止めて、ミリアが近づいてくる。
カチャカチャ…
「開かないわね……」
カチャカチャ…
「鍵が無いと開かないって」
俺の言葉を無視して、力任せに開けようとするミリア。
ガキッ!
妙な音がして、扉が開く。
「さ、行きましょう」
先を促すミリアを、俺たちは驚愕の目で見ている。
「腐ってたのね」
その視線を感じて、そう言って顔を背ける。
どう見ても、腐っていたようには見えなかったのだが……。
「行くの! 行かないの!」
苛立ったように言うミリアに、俺たちは足を動かした。
通路に沿って先に進むと、牢屋が見えた。
「あ、ここは!」
ミリアが声をあげる。ここがどこだかわかるのか?
「おいっ! お前たち……はっ。ミリア様」
俺たちの声に気がついて、兵士がそばに駆け寄ってきた。
ということはここは……。
「どうやら、城の牢屋に繋がっていたみたいね」
ミリアがそう告げる。もしかして、あの通路は城の抜け道なのか?
「ミリア様、ここに来てはいけません。というより、どこからいらしたのですか?」
兵士がミリアに話し掛け、ミリアが困っている。
できればこのまま、連れて行ってくれるといいのだが。
「おいっ、ここから出せ」
牢屋にいた男が、俺たちに声をかけてくる。
「くそ〜、あのナジミの塔の老人め!
このバコタ様を牢なんかに入れやがって……。
おまけに鍵を持って行ってしまいやがった」
老人? 鍵? ナジミの塔に老人がいるのか?
「盗賊の鍵があれば、赤い扉を開けられたのに……ちくしょう!」
男は一方的に怒って、鉄格子を蹴りつける。
なるほど、さっきのような赤い扉を開けることができる鍵を、ナジミの塔の老人が持っているんだな。
それがあれば、同じような扉も簡単に開けられるわけだ。
「おいっ! ここから早く出せ!」
「静かにしろ!」
兵士が慌てて駆け寄って行く。俺たちは牢屋から離れることにした。
「いい事を聞いたな」
「そうですね」
レイラとユズハがそう呟く。俺もその意見には同意見だ。
「本当に、うるさいんだから。今のうちにさっきのところに戻るわよ」
ミリアが俺たちのところに近づいて、そう告げる。
「いけません。ミリア様はお戻りください」
「行くったら行くの! それとも、酷い目にあいたい?」
「そ、それは……ですが、私の立場も……」
「あなたが黙っていれば、問題ないわよ。いい、誰にも言うんじゃないわよ」
「…………」
兵士を黙らせ、さっきの道へと戻っていくミリア。
レイラとユズハも後を追うように戻っていく。
「カイト様、ミリア様を宜しくお願いします」
「無事に必ず帰ってくるよ」
「はい」
兵士に見送られて、俺もみんなの後を追った。
十字路に戻ってきた俺たち。
どこまでも続いている道に進むか、階段を上るか……。
「この方角からすると、向うの道はレーベ村だと思って間違いないでしょう。
アリアハンのお城がこの方向にあり、逆の方向にはナジミの塔への入り口。
ということは、奥へ続く道はレーベ村に向かっていると思われます」
説明しながら順を追って指差していくユズハ。
言われてみれば、ユズハの言うとおりかもしれない。
「ということは……」
「階段を上ればナジミの塔に着くはずです」
レイラの言葉を受け取って、ユズハが断言する。
「じゃ、さっさと階段を上って行くわよ。善は急げと言うし」
ミリアがそう言って、みんなを促す。
善は急げって……ミリアには似合わない言葉。
ゲシッ!!
「いま、失礼なことを考えていたでしょう」
考えを見透かされ、殴られてしまう。
う〜ん、顔に出るタイプなのかな、俺。そんなことを考えながら、階段を上っていった。
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続く