第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(5)



 階段を上ると、塔のような作りの建物の中に出ることができた。ここがナジミの塔なのだろう。
 塔の真ん中を目指して歩き続ける。
 しばらくすると、左手に下へと下りる階段を見つけた。
 どうやら、別の地下に降りることができるらしい。
「どうする? 降りてみるか?」
 俺はみんなにどうするか訊ねてみた。
「降りてみたら何かあるかもしれないな」
 レイラはそう言って、ユズハを見る。
「ここのことが何か解るかもしれません」
「お宝があったりして……」
 ユズハもミリアも反対はしなかった。
「じゃ、降りてみよう」
 俺が先頭に立って、下へと続く階段を降りることにした。
 下に降りると、人が独り机の前に座っていた。奥には、ベッドがある。
 いったいここは、なんなんだ?
「おお、しばらくぶりのお客さんだ! うれしいなぁ」
 男は俺たちに気がつくと、嬉しそうに近寄ってっ来た。
 久しぶりのお客って……ここは、お店なのか?
「こんにちは。旅人の宿屋へ、ようこそ」
 男はにこやかに話し掛けてくる。
「こんなところに……宿屋があるなんて……」
 驚いて声をあげるミリア。他のみんなも驚いているようだ。
「昔はここに、見学に来る人が多かったんですが、
 魔物が現れてから来る人が少なくなりましてね」
 宿屋の男はそう言って、懐かしそうに遠くを見つめる。
「見学って、ここは……」
「お客さん、知らないで来たんですか? ここはナジミの塔と言って、昔は観光場所だったんですよ」
 宿屋の男の言葉に、俺たちは顔を見合わせる。
 やはり、ここがナジミの塔だったんだ。
「で、お客さん。泊まっていくんでしょう?」
 そうだな、洞窟で結構戦いみんな疲れているようだから……。
「もちろん、泊めさせてもらうよ」
「まいど!」
 俺たちはお金を払うと、奥のベッドに寝かさせてもらった。
 ゆっくりと休んだ俺たちは、宿屋の男にバコタという盗賊の言っていた老人のことを訊ねた。
「老人? 確か、塔の最上階に老人が住んでいるというのを聞いたことがあるな。
 でも上に行ったことはないから、確実ではないぞ」
 宿屋の男はそう言って、苦笑いをする。それだけの情報でも、何も無いよりはましだ。
 他のみんなも同じように考えているようだ。
「じゃ、気をつけていきなよ」
 宿屋の男に見送られて俺たちは階段を上がっていった。

 1階を探索した後、2階へ上がる。2階では、階段を上り間違えて行き止まりへ。
 その際、宝箱の中から小さいメダルを見つける。
 確か小さなメダルを集めているという人がアリアハンに居たな。何故か井戸の中に住んでいたが。
 戻ることがあったら渡しに行くか。何かくれると言っていたしな。
 再び2階へ戻り、別の階段から3階へ。宝箱を見つけながら、上へと続く階段を探す。
 しばらく歩いて、なんとか階段を見つける。外から見た感じだと、次が最上階だと思われる。
 そんな期待を胸に階段に近づいたところで、魔物に襲われた。
「蝶に人のような顔があるぞ」
「あれは人面蝶です。魔法を使ってくるので気をつけてください」
 俺の言葉に、即答するユズハ。
 そういうことなら、魔法を使われる前に倒してしまわないと。
 そう思い、剣を抜いて人面蝶に向かって走り出した。
「マヌーサ」
 だが、人面蝶の方が素早く、接敵をする前に魔法を掛けられてしまった。
 靄がかかったような視界になり、人面蝶に攻撃が当たりにくくなった。
 剣を振るうが当たらず、逆に人面蝶の攻撃は当たりまくる。
 ユズハやミリアも苦戦している。
「くっ」
 なんとか紙一重でよけたが、このままだとこっちがやられるのも時間の問題。
 なんとかしないと……。
「カイト! 目で見るのではなく、気配を感じるんだ」
 レイラからアドバイスが飛んでくる。
 どうやらレイラは、この状態でも何とか人面蝶を倒しているようだ。
「目ではなく……気配を感じる……」
 俺は目を閉じ心を落ち着け、神経を研ぎ澄ました。
 レイラの剣を振るう音とともに、羽音が聞こえてくる。
「そこかっ!」
 横一線に剣を払う。見事に人面蝶を真っ二つにする。
「はあっ!」
 どうやら、レイラたちも倒し終わったようだ。
 戦いが終わると視界が元に戻る。周りを見ると、みんな無事のようだ。
「魔法がどうにかできる仲間がいないと辛いわね。
 カイト、あんた魔法に対抗する魔法を早く覚えなさいよ」
 ミリアが無茶なことを言ってくる。
「お前が魔法使いになれば、すむことだろう」
「何で私が魔法使いにならなければ、いけないのよ。だいたい、なれるわけがないでしょ」
 そう言ってミリアが、俺の頭をバコッと殴る。
「殴ることないだろ」
 頭を擦りながら、文句を言う。
「なれないこともないぞ」
 突然、レイラが話に入ってくる。
「この世界のどこかに、転職をさせてくれる神殿があるという噂を聞いたことがある。
 商人から戦士へ、武道家から僧侶へという感じで転職できるらしい」
「そこに行ってミリアもちゃんとした遊び人にでも…ヘブシッ!」
「そこに行けば、戦士になれるのね。武道家もいいかしらね」
 俺のことを殴って黙らせ、そんなことを言う。
「私は、僧侶のままでいいです」
「あたしも、戦士から代わるつもりはない」
「ま、その神殿にいくようなことがあれば、そのとき考えればいいんじゃないか」
 俺はそう言って、立ち上がる。
「さ、早く階段を上ってしまおう。また、魔物が現れても困るからな」
 俺の言葉にみんなが頷きを返した。
 階段を上がると、部屋の中にいた。
 きちんと整理され本棚やベッドなどがあり、俺たちを驚かせるのに充分だった。
「どういうこと?」
 ミリアが誰に言うでもなく、そんなことを口にする。
 部屋を見回すと、中央のテーブルに一人の老人が座っていた。
 この老人が噂の老人なのだろうか?
「あの……」
 話し掛けてみるが、返答がない。耳が遠いのかなと思い、近づいてみることにした。
「おじいさん?」
 今度はユズハが声をかける。だが、やはり反応がない。
 おかしいと思って覗き込むと、コックリコックリと寝ているようだった。
「お客が来ているというのに、寝ているなんて失礼なおじいさんね」
 ミリアが文句を言う。
 俺たちが来るなんて解らなかったんだし、ドアから入ってきたわけではないから仕方がないと思う。
 俺がもう一度、声をかけてみるとパチっと目を覚ました。
「おお。やっと来おったか」
 俺の顔を見てそういう老人。俺たちが来ることを知っていたのか?
「名をなんと申す?」
「カイトです」
「ほう、カイトというのか。
 わしは幾度となく、おまえさんに鍵を渡すの夢を見ていた」
 そう言って老人は、側にあった小箱から小さな鍵を取り出す。
「だからおまえさんに、この盗賊の鍵を渡そう。
 どうじゃ、受け取ってくれるかな?」
 そう言って、鍵を差し出す老人。
 なんだかよくわからないが、くれるというのであれば貰っておいて損はない。
 だが、あとでお金を請求するなんてことないよな。
「ありがとうございます」
 そう言って、老人から盗賊の鍵を受け取る。
 これで、開かなかった扉を開けることができるんだな。
「ところでカイトよ」
 受け取って喜ぶ俺に、老人が再び声をかけてくる。
「この世には、おまえさんの性格を変えてしまうという不思議な本が存在すると言う。
 うっかり読んでとんでもない性格にならぬよう気をつけるが良かろう」
 性格の変わる本? そんな本、本当にあるのか?
「ではゆくがよい、カイトよ。わしは、夢の続きでも見るとしよう」
 老人は言いたいことを言うと、再び眠りについてしまった。
 俺たちは寝ている老人に礼を言うと、部屋から出ることにした。



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