第一幕『カイトと仲間と盗賊と』(6)



 その後、俺たちは塔を降りて再び地下洞窟へと降りて来た。
 先ほど行かなかった通路を抜け、途中で宝箱を拾い洞窟の奥まで進む。
 奥には階段があり、上ると見知らぬ場所に出た。
 周りは木々に囲まれ何処かの森の中のようだった。
 戻ろうと言う案もあったが、森を抜けてみることにした。
 数刻、森を彷徨い抜け出ると、左手に見覚えのある村が見えてきた。
「カイトさん、あそこに見えるのはレーベ村です」
 ユズハはそう言って、俺を見た。確かにあれは、レーベ村だ。
「まさか、こんな抜け道があるとは思わなかったな」
 ミリアはそう言って、休んでいくかと訊ねる。
「そうだな、今日はレーベ村で休むことにしよう」
 俺の言葉に、ユズハが頷く。
「早く行って、休みましょ。ベッドに横になりたい!」
 ミリアはそう言って、俺を促す。俺は頷くと、レーベ村へと向かった。

 レーベの村に着いた俺たちは、一人の老人に出会った。
 老人は盗賊の鍵を持っているのを見ると、家に来るように言った。
 どういうことか解らないが、ついて行くことにした。
「その鍵を手にしているということは、お前さんがあのオルテガの子供かね」
 老人は家について座るように促すと、そう口を開いた。そして、部屋の隅にある箱を漁り始める。
「なぜ、父のことを?」
「かつてオルテガがアリアハンを出て行くときに、わしがその方法を教えてやったのじゃ」
 そう言って、ごそごそと何かを漁っている老人。何かを見つけると、俺たちの前に戻ってきた。
「お前さんにも、これを渡さなければなるまい」
 そう言って、大きな玉を机に置いた。
「これは魔法の玉と言って、この玉を使えば旅の扉の封印を解くことができるのじゃ。
 オルテガにも同じ物を渡し、アリアハンの外へと旅立ったのじゃ」
 父さんもこの玉の力で……。俺は置かれた玉を手に取り、感慨にふける。
「この玉を使う場所は、この村にいる兵士が知っている。宿屋にいるはずじゃ」
 俺たちは老人にお礼を言うと、部屋を後にした。
「気をつけて行くのじゃぞ」
 老人はそう言って、俺たちを見送った。

「アリアハンから出る方法が見つかって良かったです」
 ユズハがそう言って、俺を見る。
「アリアハンは島国で、船がないと出られないからな」
 レイラはそう言って頷く。
 アリアハンにある船は、他国との交易船である城の船しかない。
 普通の人が乗ることはできず、現在もバラモスの情報などを集めるために他国へ出払っている。
 旅の途中で聞いたが、レイラはこの船に護衛として雇われた父とともに幼い頃に乗ってきたらしい。
 ユズハによると傭兵だったレイラの父は、父さんとともにバラモスの討伐に出て帰らぬ人となったそうだ。
 母親はアリアハンに来る前に亡くなり、父さんの計らいでルイーダに世話になっていたようだ。
 だから俺とともにバラモスを倒しに行くことを決意したのだろう。
「何ボーっとしているのよ。旅の扉がある場所を聞きに行くんでしょう」
 考え事をしていた俺に、ミリアが文句を言う。
「早く宿屋に向かいましょう」
 ミリアに急かされ、俺たちは宿屋へと向かった。

 宿屋の1階にある酒場で、一人の兵士が酒を飲んでいるのを見つけた。
「あの人がそうなのでしょうか?」
「こんな時間からお酒を飲んでいるなんていい身分よね」
 ミリアが眉間に皺を寄せて、そんなことを言う。こんな時間と言っても、もう夕方だ。
「まあ、そういうな。あの人に情報を聞いたら、ここで一泊してから明日の朝出発しよう」
 俺の言葉にレイラたちが頷く。
「それなら、さっさと話を聞きましょう」
 ミリアの言葉に従い、俺は兵士に話し掛けた。
「あなたが、旅の扉の場所を知っている方ですか?」
「そうだが、あんたは?」
 酒を飲んでいた兵士は、俺の顔を値踏みするように見てそう言った。
「俺はアリアハン王より命を受けて旅をしているカイトです」
「そなたが、オルテガ殿の息子か。ふむ……オルテガ殿に似ているな」
 兵士はそう言って、酒を一気に飲み干す。
「私は、この村を警備しているアラゴだ。オルテガ殿を旅の扉まで案内したことがある」
 アラゴと名乗った男はそう言って、懐かしそうな顔をする。
「オルテガ殿が死んだとは、私は思っていない。きっとどこかで生きていると信じている」
 アラゴの言葉に俺は無言で頷く。
「旅の扉の場所だったな。ここより東に旅をし、山を越えると小さな泉がある。
 かつてはその地より、多くの勇者が旅立った」
 アラゴはまっすぐ俺の目を見てそういう。
「ここから東ですね。ありがとうございます」
「もう、行くのかね?」
「いえ、ここで一泊してから行くつもりです」
「そうか。なら、一杯いかがかな。オルテガ殿の話をしようではないか」
 俺はアラゴの申し入れに、快く引き受けた。
 俺の知らない父さんを知ることができる。それだけで、旅の疲れが取れる気分だった。

 レーベ村を後にした俺たちは、アラゴから聞いた東の泉へと向かった。
 魔法の玉を手に入れ、盗賊の鍵も手に入れた。
 これでアリアハンから他の地へと向かうことができる。
 旅は始まったばかり。バラモスを倒すためにも俺は……。
「なに格好つけてるのよ」
 俺の頭を叩き、文句を言うミリア。たっく、人がせっかく決めているというのに。
「似合わないんだから、やめなさいよ」
「これでも勇者なんだから、それらしくだな……」
「元不良がよく言うわ」
 ミリアはそう言って、もう一度俺の頭を叩く。
 昔からこいつは、人の頭をポカポカ殴りやがる。
 少しはお姫様らしくできないものなのか?
「妹のアイナはお姫様らしいというのに」
 ゴキュ
 俺の独り言を耳にしたミリアが、力いっぱい殴りつけた。
 今、ゴキュといったぞ。ゴキじゃなく、ゴキュと。
「カイトは不良をしていたのか?」
 ミリアの言葉を聞いたレイラが、驚きながら訊いてくる。
「私がお城から出なくなって、しばらくして不良グループに入っていたのよ。
 私がいる間はきちんとしていたのに……。躾が足りなかったのかしら」
「俺はお前のペットか?」
 首をさすりながら言い返すが、ミリアは涼しい顔をしている。
「何が原因だったんですか?」
 興味を持ったユズハが訊ねてくる。
 話してもそれほど面白くはないのだが、ミリアが余計なことを吹き込みそうなので自分から話すことにした。
 ミリアとは幼少の頃、遊び相手として遊んだことがあった。
 その後、ミリアは城から出なくなり、俺は一人でいることが多くなった。
 そんな時、街の住人が魔物に襲われた。レーベ村に行った帰りに襲われたのだ。
 城の近くのため直ぐに城の兵士がやってきたのだが、子供を残して両親は死んでしまった。
 生き残った子供は、俺の親父が死んだから両親が死んだのだと俺を責めた。
 仲間の子供も、親父が弱かったから自分たちは魔物に怯えて暮らす羽目になったと言った。
 最初は無視していたが、無視することもできなくなりそいつらをボコボコにしてやった。
 やられたそいつらは大人に嘘の告げ口をし、オルテガの息子は最低の息子だと言われるようになった。
 俺はそれが耐え切れず、俺に文句を言うやつがいれば全てボコボコにしていた。
 そのうち俺に近づくものはいなくなり、同じように街のはみ出し者と嫌われていた不良グループと街の中で暴れるようになった。
 そんな俺たちを更正させたのが、ルイーダ。身を挺して俺たちを諭してくれた。
 彼女にはその時にできた傷が今でも腕に残っている。俺はその傷を見るたびに、心が痛む。
「そんなことがあったんですね」
「カイトのお父さんが悪いわけじゃない。悪いとすれば、お父様ね。
 国王なのに民を守れず、魔物を一掃することができないのだから」
「国王様もよくやってるさ。
 とにかく俺はルイーダのためにも、母さんや爺さんのためにも親父の跡を継ごうと思った」
 俺の言葉に全員が頷く。
「とにかく、バラモスを倒してアリアハンの平和は俺が守る!」
「はい、はい。さっさと行こうね」
 ビシッと決めた俺の耳を掴むとそのまま引っ張るようにして先を進もうとするミリア。
 すいません、マジに痛いんですが。



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