すべてのはじまり(終)



「さて、ゼロは私たちの秘密を知ってしまったわけだが……」
「え、え、え?」
「秘密を知られたからにはそれなりのことをしてもらうか」
「記憶を消すとかこの世から消すとか……なんて良いかもしれませんね」
「そ、そんな……」
音楽室から部室に戻ってきた巫子たち。
今回の出来事を見られてしまったということで、零に対する処置を話し合っていた。
と零は思っている。巫子たちの結論はすでに決まっていて、そのことを告げる前に零で遊んでいるのだ。
「そんなに怯えることはないぞ。かすみの魔法でちょっと記憶を消すだけだ。
 なに、失敗してもちょっと馬鹿になるだけだ」
「それって問題あるじゃないですか!」
遊ばれているとも知らず、真剣に逃げようかなどと考えている。
ただし逃げてもすぐ捕まりそうな気がするのだが。
それでも必死になって逃げ道を探すのは零らしいといえば零らしい。
そんな零の様子を見て、そろそろだと目で合図を送る二人。
「他にも方法があるけど、それにする?」
「え、どういうのですか?」
「記憶を消さなくても良いし、この世から消されることもありません」
「ついでに言うと体に傷が付くこともない」
「そ、そうなんですか?」
選べないような選択肢を用意して困っているところに、救済処置を提示する。
自分に不利な選択肢から一転、好条件を提示されれば思わず選んでしまう。
そんな心理操作に見事にハマリかけている零。
ある意味悪徳セールスなどの手口といえよう。
「酷いですね。そんなことありませんよ」
「ん? なんのことだ?」
「いえ、こちらの話です。で、どうします?」
あくまで条件の内容を言わず承諾させようとする悪の手口。
みなさん、引っかからないようにしましょう。
で、引っかかりそうな零はというと……
「それにします」
簡単に引っかかってしまった。
「では、これでゼロは我が部の一員だな」
「………………」
「では入部届けに学年と名前を記入してください。あ、印鑑の代わりは拇印でかまいませんので」
「…………はい?」
「ですから、私たちの部に所属することになったんです」
「だれが?」
「秋田さんが」
「いつから?」
「今から」
「ええええええええーっ!」
大げさに驚く零。その反応を見て巫子たちは喜んでいる。
「いやです。絶対入部しません」
「それなら記憶を消すか?」
「それも嫌です」
「仕方がない、かすみ」
「はい。それではこれを使って……」
そう言って取り出したのは怪しげな人形。
どことなく零に似ている。
「これをこうして……」
何事かつぶやくと人形と同じように零が動き始めた。
「い、いったいどうなってるの?」
「この人形の中には秋田さんの髪の毛が入っているんです。
 で、魔術でこの人形で秋田さんを操る呪いの人形にしたんです。
 魔術を使ったのでそっくりでしょう?」
「自分の意思でサインをしてもらいたかったのだが、仕方がない。
 魔法を使わせてもらうことにした。
 というわけでかすみ。やれ!」
「はい。ではまず入部届けに学年と名前、拇印を」
「あ、止めて…僕は書きたくない」
力を入れて抵抗するが、零はボールペンを手にして入部届けに学年の名前を書き込む。
そして朱肉を親指につけて拇印を押す。
「はれて部員となりました。おめでとうございます。
 ついでにこれにもサインをお願いします」
「こうなったらやけですっ!」
そういうと自らサインをしてしまう。書いてある内容を確認をしていない。
「これで零くんは私の下僕です」
「は?」
呼び方が秋田さんから零くんへと変わる。
「これ、私との奴隷契約ですよ。中身を確認しなかったんですか?
 ちなみに契約不履行をした場合、魂を獲られますよ」
「だ、だれにですか?」
「契約の悪魔です」
「え、本当ですか!?」
「はい。悪魔との契約は代償に魂を獲られるんですよ?」
それを聞いた零は顔が青ざめてしまう。
「それ、ホントなのか?」
「さあ? どうでしょう」
かすみはそう言って微笑むだけで巫子にも教えない。
(コイツが一番恐ろしいかも)
巫子はかすみの笑みを見てそう思うのだった。
結局、零の意思とは別に入部が決まってしまった。
本当のところは分からないが、信じてしまった零は入部することを承諾したからだ。
こうして新たな部員が出来たオカルト研究部、別名オカルトGは新たな活動に踏み出した……
のかもしれない。
「ふふふ、念願の下僕が手に入りました。これで学園生活が楽しくなります。
 零くんは美形ですし調べたら頭も良く運動神経もありますし……良い下僕です。じゅるっ」


終わり

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