草むらの中、月が出て、生暖かい風が頬を撫でた。出ていこう、と決心した。見てしまったら、もういられない。
一つ違いの兄が、一月前から様子がおかしくなった。緑柱石ばかり食べて、家で寝ているようになった。茶色だった目はエメラルドみたいにぎらぎら光り、皮膚は青緑に変わり固くなった。
その不気味な姿に私はうろたえたが、当人は嬉しそうだった。
「俺は羽化するんだ」
村長が来て、祝いを言った。私達の両親も、羽化したのだという。たいへんに助かっている、と村長は言った。
さっき、兄は羽化した。私は別室に入れられていたけど、覗いてしまった。兄の背中が割れて、輝かんばかりの蝶の羽がでてきて、そのとたん皆の目が獣のそれに変わった。男達はいきなり兄を押さえつけ、羽をもぎとった。どうして、どうしてと兄は泣き叫んだが、皆は笑っていた。よくやった、高く売れるぞと村長は兄の肩を叩いた。これで五年は遊んで暮らせる、まったくお前はよくやった。
兄はぶるぶる震えて泣いていた。
私も羽化をする。そう遠くない日に。食欲が落ちてきたし、目は時々、光りの加減ですごい緑色に光るようになった。兄の食べ残しの石をありったけ鞄に詰めて、そっと出て行こう。皆、今夜はばか騒ぎにいそがしい。
誰にもやらない。
私は私の羽で飛ぶ。
月の光の中、わたしは草むらをゆっくり歩いていった。