『雪崩』(1937年) 1 NEW 2024.6.5
黒澤明監督が1本だけ成瀬映画の助監督を務めた『雪崩』。
これは黒澤監督の自伝「蝦蟇の油 自伝のようなもの(岩波現代文庫)」にも記述されていて有名な話だ。
実は黒澤監督の盟友=本多猪四郎監督も本作の助監督を務めている。下記URL参照。
本多監督は『乙女ごころ三人姉妹』『鶴八鶴次郎』と成瀬映画には3本ついている。
本多猪四郎オフィシャルサイト バイオグラフィ
大佛次郎原作、成瀬監督自身の脚色の本作だが、成瀬監督の作風でよく使われる「市井の人たちの日常生活の哀歓を淡々と描く」
とは対照的に、豪邸に住むブルジョア家庭の主人公=五郎(佐伯秀男)と妻(霧立のぼる)、元恋人(江戸川蘭子)の恋愛模様を
描いた作品だ。特に五郎と父(汐見洋)との会話は、哲学的、観念的な台詞が多い。
映画全体のリズムもぎこちなく、内容も重苦しくあまり出来がいい作品ではない。
しかし、本作には随所に「はっとさせられるような」魅力的な屋外の映像の場面がある。
下記の、五郎(佐伯秀男)が雨の中コートと帽子姿で、当時の丸の内(一丁倫敦=いっちょうろんどんと言われた街並み)
の道を渡り、公衆電話で電話をかけるシーンは、本作で最も美しい映像と言えるだろう。
このコートと帽子の佐伯秀男の姿は、1937年の日本映画とは思えない雰囲気。まるで外国映画だ。
アルフレッド・ヒッチコック監督『海外特派員』(1940)の有名なアムステルダムの雨の殺人シーンでの特派員ジョニー(ジョエル・マクリ―)、
そしてジャン=ピエール・メルビル監督『サムライ』(1967)のアラン・ドロンを彷彿とさせるように感じるのだが・・・
画面には「丸の内2丁目」とあり、後方には当時の丸ビル(三つの窓のレイアウトからほぼ間違いないだろう)が映る。
丸ビルに通じる道は現在は無いが、この道は現在の「丸の内3rdストリート」だと思われる。
グーグル地図のブルーラインは、画面に映る当時の丸ビルへ通じていた道の推定場所。
知人のSさん(匿名希望)が見つけてくれた、1948年の国土地理院の航空写真には、画面写真と同じように丸ビルへの道が映っている。
現在の丸の内ビルディング。低層階の3つの窓のレイアウトは再現されている。
丸の内3rdストリート(千代田区丸の内2丁目)。左上=皇居方向。右上=画面写真の丸ビルへの道の推定場所(ビルの間から少し現在の丸の内ビルディングが見える)。
下2枚=東京駅方向(左右逆だが画面写真と同方向と推定)。