成瀬映画に登場する風景

『噂の娘』(1935年) 2015.6.7  NEW2018.4.2 画面写真追加


映画の中盤、姉=千葉早智子、妹=梅園龍子、叔父=藤原釜足の3人が歩く橋のシーン。

10年くらい前に一度メールでその橋のロケーションについて情報提供をしてくださった方がいて、橋の名前と場所は知っていました。
深川にあった「一木橋(いちきばし)」と「丸太橋(まるたばし)」です。

この橋は小津安二郎監督の生家の隣にあったそうで
小津監督は日記の中で「P・C・Lの成瀬 丸太橋に撮影に来る」(昭和10年11月9日)と記しています。

今回、小津監督の全国的なファン組織である「全国小津安二郎ネットワーク」の初代会長で
現在は顧問をされている長谷川武雄さん(深川に60年以上在住)をある方に紹介いただき、
このロケ場所と小津監督の生家近辺を案内していただきました。これ以上正確なロケ地探しは無いです。

成瀬映画のロケーション場所探しは、風景はすっかり変わっていても
当時の雰囲気が少し残っていることが多いのですが、
今回のロケ地跡だけは現在の風景を見て映画の中のロケ地風景を想像するのは不可能といってもいいかと。
それくらいの変わりようです。

なお、『噂の娘』は現時点でユーチューブにアップされているので橋のシーンは確認できます。

『噂の娘』には一度しか登場しない「一木橋」「丸太橋」ですが、画面の中に何度も登場する映画があります。
それは清水宏監督の遺作の『母のおもかげ』(1959 大映東京)です。
出演は根上淳、淡島千景、毛利充宏(道夫役=子役)など。

この子供が主人公の映画はDVD化もビデオ化されたこともなく、上映機会も少ないですが
2011年に日本映画専門チャンネルの「ハイビジョン日の当たらない映画」
で放送され、私は録画しその後ブルーレイディスクにダビングして保有しています。
今回また観直しました。

倉庫や周りの風景は多少変わっていましたが、昭和10年の『噂の娘』の時と
比較しても、橋の形状や川の様子はほとんどそのままで映っています。
ハイビジョン放送なので映像はクリアーです。

それから道夫の通う学校は、今もある近くの「江東区立明治小学校」ではないかと。
これは断言できませんが。
小津監督が入学した小学校です。

あくまで推察ですが、清水宏監督は松竹時代から晩年まで親友であった
小津監督のゆかりの地をあえてロケ場所に選んだのかもしれません。


地下鉄「門前仲町駅」から清澄通りを清澄白河方面に行き、
首都高速深川線のところを左に曲がってしばらくしたところにある「一木橋」の跡。
『噂の娘』では3人が会話して、途中で止まり、また歩き出すとい典型的な成瀬演出が見られます。
鋼鉄製のアーチ型の橋です。
映画では写真の向う側から手前に向かって歩いてきます。
道路は昔「油堀川」だったとのこと。映画の中では道路の向こう側の並びは倉庫。
ここに昔「橋」があったというのは聞かなければ想像するのが困難です。




  


左の写真は上記の「一木橋」を渡って直角に続く「丸太橋」跡。
映画では叔父の藤原釜足と別れて、千葉、梅園の姉妹が会話を続けながら写真の向う側から手前に向かって歩きます。
この橋の下は「和泉堀川」という「仙台堀川」(これは写真の右側をしばらく歩いていくと現存)の支川とのこと。
仙台堀川にかかる現存する橋が、すでにロケ地紹介している『朝の並木路』(1936)に登場する「清澄橋(きよすみばし)」。
昭和10年当時、成瀬監督は深川近辺で頻繁にロケーションしていたことになります。
横のコンクリートから右に続くのが、川を埋め立てた公園。
この丸太橋の手前に小津家があったそうです。右の写真を見ると川の堤防のようなコンクリートが残っています。

        


  


上記左写真の「丸太橋」跡の道の信号を向う側に渡った場所にある元倉庫街。
映画では姉妹と別れた叔父の藤原が倉庫街の前を歩いていきます。
映画には白いビルのあたりに「ヤマサ醤油」のマークのついた白壁作りの倉庫が映っています。

このあたりの詳しい地図は江東区の「古石場(ふるいしば)文化センター」(門前仲町駅徒歩10分程度)の1Fにある
小津安二郎紹介展示コーナー」に置いてある「江東シネマ倶楽部だより 2013年4月号『噂の娘』特集号」
に掲載されています。長谷川さんが作られた地図はとてもわかりやすく、ともかくその情報量が凄いです!

今回案内していただいた長谷川さんはもちろん小津映画のファン、専門家ですが、
成瀬映画も大好きということで今後もいろいろと情報交換をさせていただきたいと思っています。

  


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