成瀬映画に登場する風景(86)
『あらくれ』(1957年) ③ NEW 2015.11.2
『あらくれ』の中盤。
一度返品された洋服を「役所」に納品に行ってすべて届けてきた帰りのシーン。
空になったリアカーをひく小野田(加東大介)とお島(高峰秀子)。
この時点ではまだ夫婦になってはいない。
このロケ場所はあくまで推定だが場所はちょうどJR「鶯谷駅」ホームの上のあたり。住所だと上野桜木1丁目。
写真右は「国立博物館」の中の「応挙館」の裏あたり。左は「寛永寺霊園」。
この道の曲がり方、木々の感じは相当似ている。
現在歩道になっている部分も合わせると道幅もほとんど一緒だ。
映画『あらくれ』は、東京パートでは上野、谷中、本郷などのロケーションが多いので
それもこの場所ではと推定する理由の一つ。
映画では右が石垣と高い塀になっていて、現在は柵になっているのが最大の違いといえる。
これは撮影当時(1956-1957)にあって、その後柵に建て替えられたと考えるしかない。
左の寛永寺霊園の塀は現在も映画当時の面影を残している。
このロケ場所(あっていればの話だが)の特定も多分初めてではないかと。
この写真の前方をまっすぐに行って左に曲がると「JR鶯谷駅南口」。
右に曲がると「国立博物館」の正門に出る。
逆方向に行くと「寛永寺」「上野中学」がある。
DVDもないので小さく画面写真を。
加東と高峰はこの後ここでリアカーを止めて、タバコ休憩をする。
「店を持つにはいくらくらいかかるんだろう」との会話。
高峰が派手な恰好をして、開店したばかりの洋服屋の宣伝チラシを大学の校門の前で学生たちに配る。
これは当時の東京芸大のロケーションで間違いないと思われる。
撮影当時、東宝入社前で東京芸大美術学部の学生だった石田勝心監督から生前
「あらくれのロケが芸大の門のところで行われていた」事実を直接聞いたことがある。
写真は音楽学部。この通りを挟んだ逆側が美術館もある美術学部。
中の建物は映画撮影当時とはかなり変化している。撮影されたのは58年前なので当然だろう。
それにしても成瀬映画に限らず、小津映画でも他の監督の映画でも
昔の日本映画には上野公園界隈のロケーション撮影が実に多い。