成瀬映画に登場する風景
『女の歴史』(1963年) E NEW 2019.8.8
『女の歴史』は「現在」と「長い回想」が繰り返されてストーリーが展開する。
映画の中盤、「戦時中の暮らし〜幸一(宝田明)の出征」の回想がある。
成瀬映画には、登場人物が手に取った郵便物の表の住所をアップにするショットが多く登場する。
本作では、幸一(宝田明)が手に取る差出人の書かれていない封筒。住所には「下谷区坂本町1-53」とある。
ネット検索で調べたところ、下谷区坂本町は実在した町名で、坂本町1丁目は現在の「台東区下谷1丁目、根岸1丁目」で
JR鶯谷駅前の一帯となる。
映画の中の家や路地はもちろん世田谷の東宝撮影所の近くに建てられたオープンセットだ。
戦時中の話であり、成瀬映画には珍しく夜間の空襲シーンまである。
本作の美術監督・中古智の設計による、下町の路地を細部までリアルに再現したオープンセットは見事だ。
書籍「成瀬巳喜男の設計 美術監督は回想する」中古智/蓮實重彦 筑摩書房 のP242-243には
このセットのデザイン画と写真が掲載されている。
現在のJR鶯谷駅の近くという設定だと、ロケ地写真Aの西日暮里「諏方(すわ)神社」(幸一の出征シーンのロケ地)も
場所としてリアリティがある。現在でも歩いて行ける距離にある。
「諏方神社」は管理者が生まれ育った場所の近くであり小学生時代の遊び場だったので、この地域の土地勘はある。
余談だが、「諏方神社」は、現在放送中のNHK大河ドラマ「いだてん」にも登場する落語家・古今亭志ん生が
西日暮里の自宅から歩いて来て稽古をしていた場所としても知られている。
また、7年ほど前のパナソニックのデジカメの綾瀬はるか、佐藤健出演のTVCMにもロケ場所として
使用されていた。これはユーチューブで視聴可能。
戦時中〜戦後の回想シーンの後半は、幸一の妻・信子(高峰秀子)、義母・君子(賀原夏子)、
信子の息子・功平(少年時代=掘米広幸、青年時代=山崎努)の疎開先の田舎が主舞台となる。
この疎開先がどこだか不明だったが、以前録画したブルーレイで観直したところ、
高峰秀子のナレーションで「(栃木県)栃木市の先」とはっきり言っていた!
実際に栃木県栃木市の先(北?)でロケーションされたかどうかは不明。
(本作の撮影された昭和38年当時であれば『鰯雲』ロケ地の厚木郊外あたりでも同様の風景に思える)
本作は脚本家・笠原良三のオリジナルシナリオだが、笠原良三は栃木県足利市の出身のようなので
実際に栃木県をシナリオに指定していたのかもしれない。
日本中どこにでもありそうな山村の風景なので、この画面写真でロケ場所を特定するのは不可能だ。
農作業をしているのは高峰秀子と賀原夏子。