桑山賀行の「心で観る 彫刻展」

上に戻る


 
 9月20日、桑山賀行先生の「心で観る 彫刻展」に行きました。
 会場は、静岡市役所静岡庁舎本館1階にある市民ギャラリー第5展示室で、静岡まで新幹線で行き、そこからバスで5分くらい、そしてバスを降りてすぐの所でした(市役所には新館と本館(旧館?)があり、ちょっと迷いましたが)。11時ころに会場に到着し、早目に昼食をとって、それからゆっくり鑑賞し、午後1時半からの桑山先生のギャラリートークを聴いて、3時過ぎに会場をあとにしました。昼からは見えない人たちもふくめ来館者はかなり増えて、ギャラリートークの時には、30人くらいおられたと思います(桑山先生と20年以上前から親交のある見えない方も数人おられるようでした)。
 
 今回の彫刻展は、NPO法人静岡県補助犬支援センターの主催で、赤い羽根共同募金の助成事業だということです。静岡県補助犬支援センターの方が、桑山先生が長年見えない人たちも自由に触って楽しむことのできる彫刻展をしていることに感銘し、ぜひ静岡でも開催したいということで実現したようです。
 いろいろな分野の作品計25点が展示されていました。全体を通してとくに感じたのは、まるで絵のように、ある風景が目の前にぱっと現われたような作品が多かったということです(遠近法を使っている作品も多かったです)。私は今少し木彫をしていて、例えば花とか鳥とか、ある1つの物を表現しようとしているのですが、木彫でも絵のような作品が出来ることに納得しました。
 以下に、あまり正確とは言えませんが、各分野ごとに作品を紹介してみます(ギャラリートークでの先生のコメントも一部合せて書いています)。
 
◆日本の歌シリーズ
 日本のなつかしの童謡の歌詞に描かれている情景を彫刻にした作品、計9点です。私の拙い説明だけではものたりないので、それぞれの歌詞も掲載することにします。
●「叱られて」
 手前に女の子がこちら向きに立っています。両手を後ろにして小さな四角い籠(買い物籠かな?)を持っています。女の子の後ろにはずうっと坂道(遠近法的に遠くなるほど細くなっている)が続いています。その先に木々(4個の連なった丸い塊)があり、その向こうに大きな太陽(直径10cmほどの円盤状で、赤く塗られていて夕日のようです)があり、太陽の手前には雲のようなのが横になびいています。
 
 [歌詞]
  叱られて 叱られて
  あの子は町まで お使いに
  この子は坊やを ねんねしな
  夕べさみしい 村はずれ
  こんときつねが なきゃせぬか
 
●「とんがり帽子」(「鐘の鳴る丘)」
 手前に男の子が、右手に棒を持って、こちら向きに立っています。男の子の回りは草原のようで、男の子は棒で草をなぎ倒しているようです。男の子の向こうには丘へと道が続いています(この道も遠近法的に示されていますが、その途中に急に窪んでいる所があります。このように途中に窪みや大きな切れ目があると、その後ろがより遠くにあるように見えるようです)。そして丘の上には、とんがり屋根の家が3軒あり、その真中の家は時計台なのでしょうか、高く飛び出ていて四角錐の屋根になっています(各家には、窓なども触って分かる)。ちなみに、このとんがり帽子の風景は、桑山先生の生まれ育った常滑市の原風景だということです。
 
 [歌詞]
  緑の丘の 赤い屋根
  とんがり帽子の 時計台
  鐘が鳴ります キンコンカン
  メイメイ仔山羊も 鳴いてます
 
●「花嫁人形」
 私は作ったことはありませんしよくは知らないのですが、手前に折紙の花嫁人形を形にしたものが立っています。頭は、これまた文金島田と言っても私はよくは知らないのですが、高く髪が結われています。花嫁人形の後ろには、屏風が4枚連なって立っています。
 
 [歌詞]
  きんらんどんすの 帯しめながら
  花嫁御寮は なぜ泣くのだろ
  文金島田に 髪結いながら
 花嫁御寮は なぜ泣くのだろ
 
●「鳩」
 手前に9本くらいの棒を連ねた、ゆるく湾曲した垣根があります。その棒の上に鳩が5羽向こう向きにとまっています。羽をすぼめているもの、羽を広げたもの、また3羽の鳩の広げた羽は一部重なっています。その向こうに女の子がこちら向きに立っていて、左手には鳩がとまっています。
 
 [歌詞]
  ぽっぽっぽ、
  鳩ぽっぽ、
  豆がほしいか、
  そらやるぞ。
  みんなで仲善く
  食べに来い。
 
●「青い眼の人形」
 頭にはかんかん帽のように広い帽子をかぶり、顔はふっくらした感じで、目はぱっちり開いています(その目は青く塗られているそうです)。人形のスカートが、横に広くふわふわと広がっていて、とても印象的です。なお、調べてみると、「青い目の人形」と言えば、日米間の緊張が高まるなか、1927年にアメリカから友情のしるしとして日本に送られた1万3000個近くの人形として知られていますが、「青い目の人形」の歌は、すでに1921年に野口雨情が作詞、1923年に本居長世が作曲して広く歌われるようになり、アメリカから送られた友情の人形はこの歌にちなんで「青い目の人形」と呼ばれるようになったらしいです。
 
 [歌詞]
  青い眼をした お人形は
  アメリカ生まれの セルロイド
  日本の港へ ついたとき
  一杯涙を うかべてた
  「わたしは言葉が わからない
  迷子になったら なんとしょう」
  やさしい日本の 嬢ちゃんよ
  仲よく遊んで やっとくれ
  仲よく遊んで やっとくれ
 
●「ふじの山」
 手前に風神と雷神、そのかなり向こうに富士山が配されています。富士さんの手前には、凸凹で示された雲海があって、風神と雷神はその雲海の上に乗っているものとして表現されているようです。向って右手前の風神は、両手で太い輪のような風袋を持っています。向って左手前の雷神は、両手に太鼓の桴(バチ)のようなのを持ち、その後ろの大きな輪に並んでいる8個くらいの小さな太鼓を乱打しているのでしょう。風神と雷神は、これまでに何度か立体コピー図版で触ったことはありますが、細かくてあまりよくは分からないままでした。今回の彫刻になった風神と雷神で、かなりはっきりしたイメージを持つことができました(なお、風神も雷神も、足の指は2本、手の指は3本でした)。
 
 [歌詞]
  あたまを雲の上に出し、
  四方の山を見おろして、
  かみなりさまを下にきく、
  ふじは日本一の山。
 
●「金魚の昼寝」
 ずんぐりした大きな金魚です。顔の下側にある口を少し開いています。両目はぎょろっと大きく飛び出しています。赤く塗られているようです。
 
 [歌詞]
  赤いべべ着た
  可愛い金魚
  おめめをさませば
  御馳走するぞ
  赤い金魚は
  あぶくを一つ
  昼寝うとうと
  夢からさめた
 
●「背くらべ」
 向って右手前に男の子がすっと立っています。頭には折紙のかぶとのようなのを被っています。なにも履かず、素足のようです。でも、よく触ってみると、かかとを少し上げています。男の子の右後ろには柱があります。柱の途中には線(おととしの背くらべで付けたきず)があります。柱の左側には少し離れて障子があり、柱と障子の間には敷居があります。
 
 [歌詞]
  柱のきずは おととしの
  五月五日の 背くらべ
  粽たべたべ 兄さんが
  計ってくれた 背のたけ
  きのうくらべりゃ 何のこと
  やっと羽織の 紐のたけ
 
●「赤とんぼ」
 向って右側は、木の枝のようにゆるく曲がった棒の先が2つに別れ、その向こう側の端にとんぼがとまっています。とんぼは、眼、翅、尾と、本物そっくりの形・大きさです。向って左側には男の子が立っていて、とんぼを見上げているようです。
 
 [歌]
  夕焼小焼の、赤とんぼ
  負われて見たのは、いつの日か
 
◆仏像
 仏像が4点展示されていました。いずれも、蓮台もふくめて高さ30cm前後の小さめのものです。そのなかでも気に入ったのは「仏掌」です。
●小観音
 すうっと立っている細身の像です。頭の上の冠のようなものの前のほうに、1cm余の座禅をしているような仏も触って確認できます。左手は、下に下げて手の甲をを外側に開いて水瓶を下げています。右手は、掌を前に向けて親指とひとさしゆびで輪を作っています。
 
●不動明王
 蓮台の上に座っている姿勢です。炎の形の光背を背に負うようにしています。右手に剣、左手に長いロープのような索を持っています。たしか、左目は見開き、右目は半眼だったと思います。
 
●小観音
 これも細身の像ですが、腰をくねえっと左側にひねるようにし、また両腕を前にやや広げるように出し、両手もかるくふわあっと開いています。なんか今にも動き出しそうな、踊りだしそうな感じです。
 
●仏掌
 両手首を合せて両掌を横に広げ、その上に蓮台があり、さらにその上に仏像が立っています。両手の各指はかなり太くて、まるでかたどって作った石膏像のように、とてもリアルです。仏は、両手を前に上げて掌を合せて祈っている姿です。頭の後ろには円い光輪があり、さらにその斜め後ろ上から、天衣なのでしょうか、薄い布切れのようなのが伸びてきて光輪と交差し、さらに両腕と胸の間を通って足元の前まで長く続いています。仏も、人の両掌から生まれ出るのでしょうか。
 
◆遺跡シリーズ
 今から40年ほど前、先生はヨーロッパを1人で旅行されたそうです。だれとも話さず、ただ黙々と町を歩き回ったようです。その時の印象が、それから20年くらいして(1990年代初め)このシリーズの作品となったということです。
●「道」
 手前に女の子が向こう向きに立ち、その前にステンレス板の道が続き、さらに急な階段に向っています。回りは高い煉瓦のような壁になっていますが、その壁は途中で大きく途切れていて、さらにずうっと遠くまで続いていることを強調しているようです。一番向こうは高い建物になっていて、入口や窓のような四角の穴がいくつかあります。
 
●異国の町
 全体が大きな椅子のような形になっていて、そこに女の人が座っています。一番向こうには木々があったように思います。
 
●「森への道」
 上2点に比べてやや小さめの作品です。ずうっと続く急な細い道の手前にきゃしゃなかわいい女の子がこちら向きに立っています。道の両側は高い壁になっていて、道の先は森に続いているようです。
 
●「道程」
 向こうまで続く道の両側は高い壁になっていますが、手前の右側の壁に人が座っています。(はっきり思い出せません)
 
◆魚シリーズ
 魚をモデルにした作品が3点ありました。
●「海の番人」
 これはカサゴをモデルにしているそうです。頭がとても大きく(横に広がってやや扁平)、ぶつぶつのような突起がたくさんあります。鰭が両横や上に大きく広がっています。
 
●「海の番人(花化粧)」
 これはミノカサゴをモデルにしているそうです。上のカサゴより小さいですが、胸鰭や背鰭の先が細く何本にも分かれてふわあっと曲線を描いて広がっていて、とても華やかで優美な感じです(でもこの鰭には毒があるとか)。
 
●海物語
 これはチョウチンアンコウをモデルにしているそうです。なんといっても変わっているのは、頭の上から斜め上に伸びた長い棒状の突起です。長さは20cm以上あり、先は下にくるうっと曲がっていて先端は半球状にふくらんでいます。調べてみると、これは「誘引突起」と呼ばれるもので、捕食するさいにここから発光液を噴出して獲物の目を眩ませているらしいです。口は上向きで横に長く開いており、歯が並んでいます。体にはあちこちぶつぶつした突起があります。体の下には直径5cmほどの平たい突起が付いていますが、これは、先生がこの魚が深海の底を動き回るためにはきっとこのようになっているのだろうと予想して付けたものだということです。(なお、チョウチンアンコウの雄は雌に比べてとても小さくて、雌に出会うとそれに取り付いて寄生し、そのうち雌の体に同化してその体の一部となってしまい、精子を供給するだけの器官になってしまうとか。)
 
◆「演者」シリーズ
 このシリーズは、もう十年以上前から制作し続けているものです(先生は、一つのテーマにつきだいたい5年くらいかけて制作しているとのことなので、それだけこのシリーズには先生の思い入れがあるのかもしれません)。今回は3点展示されていました。いずれも、今年5月に新宿で行われた先生の個展(桑山賀行 彫刻展)でも展示されていたものです。展示方法についてですが、この演者シリーズは全体が大きくて、普通の展示のように台の上に置いたのでは手で全体(とくに上のほう)を触ることができないので、床に直接置き、また回りをぐるうっと回りながら触ることができるようにスペースを設けていました。見えない人たちの触察にはこのような配慮はとても役立ちます。
 
 2006年制作の演者は、人形の後ろの人形遣いが、黒子のように、頭巾を被って顔を隠しています。上演が終わって拍手を受けているところらしいです。2007年制作の演者は、前に人形遣い、その後ろに人形という変った配置になっています。人形遣いは目を瞑っていて、人形をどんな風に動かしたらと考えているのにたいして、後ろの人形がこんな風に動かせばいいんだよと教えてあげているところを表現してみたものだとのことです(この作品は内閣総理大臣賞受賞)。そして、これまでに2度触ったことがあり私がとくに好ましく思っている2012年制作の演者も展示されていました。人形が左に体を傾け右上を見ている先に人形遣いの大きな右手が上から伸びてきています。人形遣いの大きな手が、人形に命を与えその動きをコントロールする「神の手」のようだとの思いをこめて制作されたもののようです。
 
◆ブロンズ製の作品
 ブロンズの作品が2点ありました(蝋で型を取っているため、一点物だそうです)。
●記念写真
 向って左側に、女の人が椅子にゆったりと座っています。向って右側には、男の人が直立不動で立っています。若いころの桑山先生ご夫妻の姿のようです。
 
●舞台
 舞台上に、女の子が5人立っています。それぞれの人には、胸の両側にひらひらと広がる四角い薄い板状のものが付いています。これは、浴衣を象徴しているとのことです。
 
 以上で、今回展示されていた25点を私なりに紹介しました。「日本の歌」シリーズや「遺跡」シリーズの作品は、まるで絵を触って鑑賞しているかと感じさせるような彫刻でした。また、「赤とんぼ」のとんぼや「仏掌」の両掌は、かたどりして作ったかと思うほどリアルな形でした。いずれも私にはとても出来そうにはありませんが、今年から始めた彫刻制作にもそれなりに参考にしたいと思っています。
 
(2014年9月24日)