清里での展覧会に行ってきました 《手が生み出す木彫の世界》 手で見る 小原二三夫 × 目で見る 緕R賀行

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 5月2日から4日まで、清里で開催中の「手が生み出す木彫の世界  手で見る小原二三夫 × 目で見る桑山賀行展」(詳しくは木彫展の案内: 手が生み出す木彫の世界  手で見る小原二三夫 × 目で見る桑山賀行展)に行きました。ゆっくりと旧知の方や初めての方と作品について、また美術についてなどいろいろ話したり、3日には山梨日日新聞、4日には山梨放送の取材があったりと、充実した3日間でした。
 5月2日の昼前にJR小海線の清里駅に到着、清里駅は野辺山駅に次いでJrの駅で2番目に標高が高く 1300m近くもあるとか。空気がひんやりと澄んだ感じです。偶然に藤沢の点字図書館の方とも一緒になり、迎えに来てくださった桑山先生の車で会場の清里の森・彫刻ギャラリーGAKOUへ。早速ギャラリーを案内してもらいます。とても落ち着いた空間で、計30点くらいでしょうか、私1人で歩きながら触って鑑賞するのにもちょうど良いくらいで作品が配置されています。
 一休みして間もなく、三重県桑名市から山上さんという方がこられました。山上さんといえば、今から15年前、2003年に関西バードカービング展で10数種の鳥たちの作品を触らせてもらった方です(関西バード・カービング展。山上さんは長らく遊園地の企画をされてきましたが、数年前に退職してNPO法人 子どもアイデア楽工)。山上さんは長らく遊園地の企画をされてきた方ですが、数年前に退職し、子どもたちの想像力と創造力を育てるためのさまざまな体験的なプログラムを行うNPO法人 子どもアイデア楽工を主宰し、また各地で講演などもして自からの新年をひろげています。また、『たった4つの言葉が、子どもの能力を引き出す!』(PHP研究所)という本も出しています。この日も、私のためにバンとトラツグミの2点のバードカービングをわざわざ持参してくださいました。
 バンは、長さ30cmくらいで、胴の部分が太く感じられます(クイナ科の鳥だとのこと)。右脚の前の3本の長い指を広げて(指は10cmくらいもあった)、水面か湿地に降り立った時の姿勢のようです。左脚は右脚にそえるように爪先立ちのようになっています。両翼は閉じていて、尾羽が斜め上に高く10cm近くも揚げられています。くちばしは5cmくらいで、やや下向きです。顔をやや左に傾けていて、右の頸から肩の辺が盛り上がり、また筋肉のようなぽこぽこした盛り上がりも胸の辺りまで触ってよく分かります。
 トラツグミは、長さ30cmくらい。幾層にも積み重なった枯れ葉(銅板で作られている)の上に、脚を胸の下で折りたたむようにして這いつくばるような姿勢で、くちばしを下に向けて葉をくわえています(葉っぱをどけて虫を探している様子を表しているとのこと)。両翼は閉じ、尾羽はすうっと後ろに伸びています。
 
 私の作品は、「落ちる」「風の音」「笛の音」「鳥のように」「なかよし」「考えるII」「囚われの身」「どうぞ」「風:なびく・ゆらぐ」「花バースト」「合掌」「かにさん散歩」「花風車」の計13点です。(これらの作品については、解説と写真を木彫作品紹介に掲載しています。)
 ギャラリーに来られた方々には、私も自分の作品について解説するのですが、これがやりにくいというか、難しいです。私が作品で伝えようとしたことと、皆さんが見たり触ったりして受け取ることにかなり違いがあるからでしょう。実際、私が作り手ではなく1人の鑑賞者として自分の作品を触ったとすれば、全体としては「ふうん、そうか」と思うくらいで、そんなに触って良い作品だとは思わないでしょう。作品が出来ていったん自分の手から離れると、その品は観る人たちによってそれぞれ作品としてとらえられそだっていくような気がしていますので、あまり自分の思いを伝えるのには躊躇があります。それでも、何だかよく分からないものについては、説明したほうが良いということでしょうか?
 その点、桑山先生がしばしば私の作品について説明しているのを聞いていると、何がとくに注目されることなのか少し分かってきたりして、よかったです。例えば、「風:なびく・ゆらぐ」については、このような作り方は、とても出来そうにもないので、だれも思いつかないだろうとか、「かにさん散歩」はとてもかわいいとか、「なかよし」についてはバランスや手の重ね方とかがうまくいっているとか話されていました。その他では、「笛の音」は皆さんに好評で、見ているだけで音を感じるようだとか言っておられる方もいました。植物の好きな方は「花バースト」がよかったと言っていました。私はまた、自分の好きな「どうぞ」や「合掌」についても少し詳しく説明したりしました。
 「落ちる」はちょっとインパクトのある作品のようでした。歩道をブロック塀沿いに歩いていて、急に左脚が穴のような所に落ちてしまった時の情景を作品にしたものです。左側のブロック塀と波板の間の隙間に左脚が落ち、ほとんど右膝だけで全体重を支えるような姿勢になって、右膝が激痛に襲われショックのようになりました。救急車が呼ばれ、車道にあるのは救急車からやってきたストレッチャーです。
 山梨日日新聞と山梨放送の取材では、各作品についてざっと説明したあとに、コメントをもとめられました。私は、先生に材料をお願いする時には、頭の中ではほぼ形のイメージができあがっていて、材料が届くとほぼその頭の中のイメージ通りに彫っていること、イメージすることは、見えるとか見えないとかに関係なく、だれもが潜在的に持っている力であって、いろいろな作品などを自分の身体で体験し自分の感覚で感じることでイメージする力が育ち、また表現しようとする意欲もでてくるのでは、といったことを話しました。
 
 次に先生の作品です。20点近くあったように思います。私は先生の作品に会うのがひとつの目的で清里にきました。以下、先生の作品についての私の観賞記録です。
*8月4〜5日にも清里に行って先生の作品を触りましたので、いくつか追加や修正をしました。
*10月8〜14日、静岡市役所 静岡市民ギャラリー 第1展示室 (静岡庁舎本館1階)で「第4回 心で観る彫刻展 緕R賀行 作品とともに」が開催され、清里で展示されていた作品の中から、桑山先生の作品20点(その中の2点は清里では展示されていなかった)とともに、私の作品も7点展示させていただきました。(7点出品。「落ちる」「鳥のように」「なかよし」「考えるU」「風:なびく・ゆらぐ」「花バースト」「花風車」)静岡の展覧会では、各作品について解説文もありましたので、それもできるだけ付け加えました。
 
「十五夜お月さん」 これは折り紙をテーマとした作品のひとつです。直径20cm以上ある丸い満月の中央に兎の折り紙があります。折り紙らしく、3角のきれいな面がいくつも重なり組み合わせたようなつくりになっています。後ろにとがった2つの耳、両足などがよく分かりました。
「雲上の月見U」(静岡のみ) 直径20cmほどの金属のリングがあり、満月を表わしています。その前に、長さ20cm弱のうねえーとカーブした雲のかたまりがあり、その上に折り紙の兎が乗っています。兎の耳は細長い三角です。
「とんがり帽子」 この作品は、日本のなつかしの童謡の歌詞に描かれている情景を彫刻にした「日本の歌シリーズ」の1点です。手前に男の子が、右手に棒を持って、こちら向きに立っています。男の子の向こうには丘へと細い道が続いています(この道は遠近法的に示されていて、丘を上がるほど細くなっている)。丘の上には、とんがり屋根の家が3軒あり、その真中の家は時計台なのでしょうか、高く飛び出ていて四角錐の屋根になっています(各家には、窓なども触って分かる)。ちなみに、このとんがり帽子の風景は、桑山先生の生まれ育った常滑市の原風景だということです。
「とんがり帽子U」 上の作品のミニ版のような感じで、幅・高さとも10cm余の鉄?の枠の中に入っています。両側が垣根のようになっている道が丘の上へと続いています。向って左側の垣根の手前に、鳩が4羽、羽を接するようにしてとまっています(この鳩たちは2cmくらいととても小さくて、くちばしを確認して4羽であることが分かりました)。奥の丘の上には、とんがり帽子が3軒あって、その中央の時計台?は塔のように高くとがっています。
「蓮花」 高さ20数cm。8弁の蓮の花が開き、そのくぼみの中央の蓮華座に仏様が座しています。左手に宝珠(あるいは蓮の実のようにも感じた)を持ち、右手は手のひらを開いて上向きに立ててかるく前に出しています。頭の後ろには後輪があります。蓮の花がぱっと割れて開いた時に、中に仏様が座っているかもしれない様を表現したもののようです。
「蓮花:笛」 全体の大きさや形は上の作品とほぼ同じです。中央の仏様は、正座から少し腰を浮かせたような姿勢で、両手で細い横笛を斜めに持ち吹いています。また、頭の上から腕、蓮台へと環のような飾りがついています。蓮の花が割れてこんな姿が現われるとは、とてもいいですね。解説文には「蓮の花が咲いたとき美しい天女の笛の音が聞こえる気がして」とあります。
「正観音」 大小2点があり、大は高さ80cmくらい、小は高さ40cmくらい。ともに蓮台の上の立像です。左手に水差しのようなのを持ち、右手は手のひらを立てて前に出しかるく開いています(大のほうは、親指と人差指で環をつくっている)。頭の後ろには円い光背があり、その中央が上向きにすっととがっています。大のほうには、頭の正面と左右に飾りのようなのがあります。また身体全体がこちらにやや傾いていて、こちらにやって来るような感じがしました。解説文には「すべての災から救ってくれる仏像」とあります。
「不動明王(座像)」 岩座にあぐらのような姿勢で座していて、左膝に乗せた右足裏が触ってよく分かります。右手に矢のように先がとがったもの、左手に投げ縄のようなものを持っています。頭の髪はぎざぎざに立っていて、後ろには向って右になびいている光背があります。
「遺跡にて」 横70cm、縦60cmくらいの作品。向って左の古びた建物の前に、女の子が両手で膝を抱え込むようにして座っています。向って右側の建物の奥のほうには女の子が両手を下にすっと伸ばしやや右を見て立っています。とくに右奥の女の子が印象的です。
「遠き夢跡」 これも、遺跡の風景です。幅1.5m近く、高さ1m近く、奥行1.3mほどもある大きな作品です。回りは柱や壁のようなのに囲まれていて、煉瓦?のような模様が細かく表されています。遺跡のほぼ真ん中には女の子が座っています。遺跡の向って右端は階段のように建物が奥に続いています。解説文には「若いころに見たヨーロッパの遺跡に遠い歴史を思い制作」とあります。
「赤とんぼ」 とても大きな作品です。向って左側の床の上に山羊の大きな頭蓋骨があります(本物を3倍に拡大して制作したとか)。直径10cmくらいの、目が入る穴、50〜60cmくらい前に伸びる太い角、なかなか迫力があります。その右側には、高さ2m近くもある、枯れかけたひまわりが立っています。太い茎から、いくつも大きくて分厚い少し丸まったような葉が垂れ、また、直径20cmはある大きな枯れかかった花も垂れています。ひまわりの根元辺の枯れた葉が山羊の頭蓋骨に接し、その上には赤とんぼが羽を大きく広げています。生きている赤とんぼ、枯れているひまわり、死んでいる山羊、これらによって生から死、あるいは死から生への移り変わりを表しているようです。
「ひまわり」 上の作品と少し似た作品です。高さ50cmほどの台の上の手前に直径20cm弱のひまわりの花が落ちています。そのひまわりの向こうに高さ30cmほどの花瓶に入ったヒマワリがあります。このひまわりには枯れかけた葉が数枚、大きな枯れた花が1つ、そして枯れた葉の1枚に赤とんぼが羽を広げてとまっています。台の向って右側には、あちこち敗れかけた障子戸のようなのが立っています。
「海辺」 幅70cmくらいの浜辺の上に、難破船が打ち上げられて朽ちたのでしょう、ぼろぼろになった船体の前の部分だけが斜め上を向いて立っています。長さ60cmくらいはある船首部分が屹立しているのは、インパクトがあります。解説文には「小さいころ遊んだ海辺に朽ち果てた船があった。その光景に時の流れを感じて制作」とあります。
「丘」 直径40cm弱のお椀を伏せたような丘(その一部は大きく割れている)の上に、女の子が座り、その後ろにこんもりとした感じの木があります。解説文には「1本の木の下で少女は何を見つめ想いをはせているのか?」とあります。
 演者シリーズが5点ありました。たそがれて…(2003年): 高さ2m近くある大きな作品。正面に人形遣いの大きな顔、その左肩の上あたりに人形の小さな顔。人形遣いが左手のひらに人形を乗せるようにし、左肩で支えるようにしています。人形遣いの右手はまっすぐ下に伸びています。少し赤茶けたような色合いで、夕日をあびているように見えるようです。演者(2007年) (内閣総理大臣賞):前に人形遣い、その後ろに人形という変った配置になっています。人形遣いは目を瞑っていて、人形をどんな風に動かしたらと考えているのにたいして、後ろの人形がこんな風に動かせばいいんだよと教えてあげているところを表現してみたものだとのことです。演者V(2009年):人形遣いが人形を横向きに抱きかかえています。人形の片手がだらりと下に下がり、顔も下向きです。演者Z(2013年):人形が背のほうを上にして、今にも落ちてしまいそうに下向きになっています。顔も下を向き(その顔はとてもきれいでかわいらしいです)、着物の袖からちょっと出た両手も下向きです。それを、上から伸びて来た人形遣いの大きな両手が人形の後ろの襟元辺をぎゅっと掴んでいます。演者:演者が両膝を大きく広げて座り、その両膝の上に手を乗せています。人形が上から演者を見下ろしています。
「布袋とねずみ」(ブロンズ製) 高さ20cmくらい。布袋さんの右肩に小さなねずみが乗っていて、ねずみの長い尻尾が布袋さんの背中にうねえっと伸びています。ねずみは顔の前で小さな手を合わせているようです。布袋さんの右側には大きな袋があり、お腹もぽっこりふくれています。解説文には「子の年の干支として制作」とあります。
「母子」(陶器製) お母さんが膝を少し立てて座り、その膝とお腹の間に子どもがお母さんのほうを向いて座っています。子どもを包み込むような感じもします。解説文には「母の胸の中で……」とあります。
「まど」 幅・高さとも20cm余くらいの小さな作品。手前に、ブロンズ製で、椅子にのびやかに体を伸ばすように腰かけた男の子がいます(両足先は、右足を上にして重ねている)。その後ろの上のほうに、両開きの窓が内側に開いています。
「御手」(静岡のみ)幅20cm弱、奥行・高さとも10数cmほど。両腕が下から斜め上に10cmほど伸び、両手のひらが親指のほうを外側にして向こうのほうにぱっと広げられています。なんともかわいい、子どもの手の感じです。解説文には「手には多くの表情がある」とあります。
 その他、先生のお嬢さんの10歳ころの浴衣姿の像(高さ140cmくらい、耳の後ろで髪をくくっていた)や、ブロンズ製の高さ10cmくらいの小さな作品で、男の人が女の人を両手でぎゅっと羽交い締めのようにしている作品もありました。また、ブロンズ製の不動明王や観音さんの小さなレリーフもありました。さらに、先生のお父様のとてもきれいな陶の作品も見せてもらいました。大きな2つの波の上に兎が前足と後ろ足で乗っている作品で、全体の形、いくつも渦のように巻いた波、兎の毛並みなど触ってとても好ましく感じました。
 
 私は先生の作品が好きで、こうして1人で歩き回りながらいろいろな作品を楽しむ時間を持てたことはほんとうに幸せを感じます。
 木彫展はまだ6月から10月までの第1週の土曜・日曜には開催されていますので、お近くの方、木彫作品に興味のある方は立ち寄っていただければうれしいです。私は8月の第1週の土・日曜には清里に行く予定です。皆さまとゆっくり作品を観、歓談できることを楽しみにしています。

 以下、木彫展の案内です。
《手が生み出す木彫の世界》 手で見る 小原二三夫 × 目で見る 緕R賀行
会場: 清里の森・彫刻ギャラリーGAKOU (清里の森 森のプラザ 2F)
住所: 〒 407-0301 山梨県北杜市高根町清里 3545-1
         清里の森管理センター Tel.0551-48-3151
会館日: 2018年5月2日(水)〜6日(日)
     6月から10月までは、第1週の土、日曜会館
時間: 10:00〜17:00
*ご入場の際に、ギャラリーの維持費としてお一人様300円のご協力をお願いしております。(中学生以上)
*詳細についてお問合せは TEL 090-3048-3648 にお願いします。
 
(2018年5月9日、8月10日、10月22日追加)