TopNovel未来Top>女神サマによろしくっ!・2


…片側の未来☆梨花編… + 2 +

 

 

 一体、何が起こったんだ。どうしたらいいんだ、どうするべきなのか。

 彼女が去った部屋で、しばらくは呆然と直立不動で動けずにいた。そのあと……俺がしたことと言えば、情けないことだが、財布の中身を確かめることだった。「援交」という耳慣れた言葉が脳裏に浮かんだのだ。毎日のようにニュースで「不祥事」とか言って、警察の職員とかが免職になったと報道されているアレだ。そりゃ、女には不自由していた。何しろ彼女が途切れてんだから。だけど…。

 まさか、俺は。

 酔った勢いで、こともあろうに女子高生を買ってしまったんじゃないだろうか? 相場なんて分からない、あんなの基準があるわけではないし。もしかして、財布の中から万札がごっそりなくなっていたら…。しかし、財布の中はそのまんま。昨日飲み会で使ったはずの分もなくなってない。しこたま飲んで潰れて、それで誰かに建て替えさせたのか? そういや、昨日は見境がなくなるほど飲みまくった。

「ううううっ〜〜〜〜〜〜……!」
 ああっ、それを思いだしたら、また頭がぐるんぐるんと回り始めた。げろげろ、「二日酔い」だ〜今日が休みだからって飲み過ぎたな、さすがに。

 そのまま、もう一度ベッドに倒れ込む。次に目覚めたら、全てが悪夢であって欲しい。悪酔いが見せた幻覚として、全部片づけてしまいたかった。

 

***   ***   ***

 

 翌日。まだすっきりしない頭を抱えつつも、真面目な俺は予備校へ向かう。何しろ、今年は3度目の正直の浪人だ。年子の妹は今年現役合格して、俺を追い抜きやがった。しかもその次の妹も高2になっている。こんなところでいつまでも足踏みしてるわけにはいかないのだ。

 悪夢で済ませようとしたあの出来事は今朝も現実として俺の前に横たわっていた。朝、目覚めて瞼を開いた時、俺が最初に見たのは長い髪の絡まった自分の手だったのだから。ひえええっ、と思って、慌ててタオルケットをどけてみる。まあ、ごっそりと言うわけではないが……拾い集めると10本。30センチの定規では計りきれない長さの髪の毛が発見された。

「……ひいいいいいっ……!」
 朝っぱらから脱力。もう、どうしたらいいんだ。だいたい、あの女はどこのどいつなんだ!? あんな美人、俺は知らないぞっ! 見たこともないぞっ!!

 あんなにあっさりしていたんだから、もう二度と会うこともないかも知れない。でも…。

 未練がましく、その発見した髪の毛をセロテープで丁寧に壁に貼り付けた。

 


 むっとする残暑の街並みから、避暑地のようにクーラーの効きまくった建物に入る。

 そこにはもう講義を受けるたくさんの生徒たちが集まっていた。うげ、どうしてそんなに日焼けしてるんだ、目の前の男子。お前、受験生だろう? なにバカンスを楽しんでるんだ? 現役3年生みたいだけど、その分じゃあ、来年もここに通うことになるぞっ!! ああ、あっちの女子も水着のヒモのあとがうなじの下に…。

 そんな風に情けなく人間ウォッチングをしていると、ふいに声を掛けられた。

「いよっ、元気ィ〜!?」

 こともあろうに後ろから、肩に顎をかくんと乗せてくる。ひげ面のただですら暑苦しい男。俺の腐れ縁とも言える大谷だ。高校から一緒のこの男は俺と共に2浪目。去年、1浪だった頃にはたくさんいた仲間もすっかりいなくなってしまった。気付けば、このむさ苦しい男とふたりで取り残されたのだ。俺を見限って去っていった女も今では花の女子大生。どうせ、サークルとかで青春を謳歌しているんだろう。ちっ、嫌な女っ!

「暑苦しい〜、離れろよっ!」

 ……と。ふと、思いだした。

「なあ、大谷。俺の飲み代って、誰が立て替えてくれてんだ? 俺、払った覚えがねーんだけど…」

 そーだ、そーだ。昨日は高校からの仲間との飲み会だった。メンバーの誰かの誕生会という名目だったと思う。何せ、今年で二十歳。オトナの祝いと称して、ただの飲み会を繰り返してる。
 もちろん、ほとんどの奴らは進学して、お気楽な生活を送っている。サークルやら合コンやら、本当に楽しそうだ。どこどこの女子大の女は腰軽でお持ち帰りオッケーだったとか、どこの女はブスばっかだったとか、言いたい放題だ。聞いてるだけで口惜しい。いいよな、ブスだって何だって、暗い部屋でイイコトすりゃ同じじゃん。女なんて、顔を隠せば似たり寄ったり。

「……ふに?」
 大谷はむさ苦しい顔をしかめて、考えてる。コイツも昨日は丸一日、惰眠を貪っていたクチか。顔にしまりがない。困ったもんだ。奴は一頻り、醜い百面相をしてから、ぽんっ、と手を打った。

「あああっ! そうだっ! ……おいおいっ、思いだしたぞっ!!」

「……っわわっ、何だよっ、てめえ」

 いきなり灯りがばばっと点いたようにわめき出す男を制する。ぎょえ〜、そこいらじゅうの奴らが振り向いてるっ! 俺たちは何だか、ただですら目立つらしいのだ。そりゃ、ほとんどが1浪の奴ら、夕方からは現役の3年生も通って来るという予備校だ。だんだん「浮いている」という単語が背中に貼り付いている気がしてきた今日この頃。

「お前さっ! あの美人、どうしたんだよっ!? あの現役女子高生っ!!」

 

「―― へ……?」

 俺が呆然としていると、奴は後ろから技を掛けてくる。ぐぎぎぎっと背骨がのけぞる奴だ。

「ぎゃあああっ! 何するんだっ! 離せっ……!!」

 しかし、大谷の締め付けはすごい。このまま窒息してしまったらどうするんだと言うくらいだ。しかも男臭くてキモい。どうせならふくよかなお姉ちゃんに締められたいもんだ。

「離して欲しけりゃ、話せっ!! ほらっ、次の店がなかなかリザーブ出来なくて、時間待ちで入ったショップで、隣にいたあの子だよっ! お前、絡んでいただろっ……、で、次の店に着いたらいなくなってるしさっ。正直に言えよっ!! あれから、どうしたんだっ! あの子は誰なんだっ!! ……いつの間に!」

「……っんなことっ! 俺が知るかっ!?」



 ―― はっと、した。それは、大谷も同じだったらしい。俺たちは身体を密着させたまま、ひとつの場所を見つめていた。

 ……あの子、だ。


 水色のチェックのひだスカート。白い開襟のシャツ。襟の見返しのところと半袖の折り返しがスカートと共布になっていて、胸にレモン色のバッチを付けている。昨日の朝、俺が見たのと同じ格好だ。理想的なカーブを描いた横顔。黒くなびくロングの髪、膝上15センチのところからすんなりと伸びた足。学校指定の水色のソックス。

 長い渡り廊下の突き当たり。50メートル以上向こうの通路を事務室に向かってまっすぐに突っ切って歩いていく。彼女の周りにキラキラと金色の光の輪が広がっていくみたいで。本当に、すげー美人。特級の女だ。そうじゃなかったら、こんなに遠くからでもはっと気付くことはないだろう。


「……ここの、生徒だったのか……?」

 んな、馬鹿な。あれほどの女をどうして今まで見落としているんだっ!? 信じられねえ、いくら悩める受験生であっても、女のランク付けは必須条件だ。何しろ、いい女と一緒に受ける講義は張り合いが出る。だから、4月から必死でチェックをいれて、夏期講習には出来るだけレベルの高いクラスに申し込むようにした……もちろん、女の子のレベルだ。
 そんなことにかまけていたら、今年も危ないってっ!? …馬鹿言っちゃ、いけない。そういう「楽しみ」がなくてこの長いトンネルをどうやって抜けられるというのだ。正直2年目は辛い。ささやかな幸せにすがるしかない。現役生だって、ちゃあんと頭にインプットされてる。でも、遠目に見るあの美女は俺のデーターのどれをも塗り替えるような水準だった。

「……は、話をすりゃあ……!」
 大谷も俺同様に驚いている。どうでもいいが、首に回された腕が苦しい。このままじゃ、本当に締められてしまうっ……!!


「―― 違いますよ、先輩方」

 ……と、後ろから、大谷ではない第三者の声が響いてきた。俺たちは声の方向を振り向く。ついでにぺちぺちと大谷の腕を払った。可愛い女の子にしがみつかれるのは気持ちいいが、こう言うのは頂けない。

 するとそこには、俺たちの後輩・1浪中の男子生徒が立っていた。小柄で黒縁眼鏡、マッシュルーム・カット…いかにも、いかにもと言う感じだ。何だろう、あの小脇に抱えているB5版のハローページみたいな本は。色とりどりの付箋が貼ってある。
 彼は俺たちの顔をにこにこと嬉しそうに眺める。そして、アンチョコなんて見ずに、朗々と読み上げた。

「あの子はここの生徒じゃないです。隣りの栄進光予備校の生徒で、まだ現役の県立山ノ上高校3年生。名前は槇原梨花ちゃん、身長は160.2センチで体重は47.5キロ。ちなみにスリーサイズは―― 」

「うわわわわわああっっ!!」

 ハッとして振り向く。げええっ、もういないじゃないかっ!! ウチの生徒じゃなければ、大変だ。どうしてここまで来たのかは知らないが、もう二度と会えなくなるかも知れない。そりゃ、顔を合わせるのは怖かった。衝撃な出逢いだったのだ。向こうだって俺のことをどんな風に捉えているのか分からない。あれ、下手したら警察沙汰だし……。

 ―― でも。

「あっ! おっ、おいっ!! どうしたんだっ、上條っ!! もう講義の時間っ……!」

 大谷が慌てて声を掛けてくる。でもその頃には俺はもう、ダッシュで走り出していた。

「わりぃっ! 代返頼むぜっ!!」
 振り向きもせずに、そう叫んだ。……彼女に、会いたかった。会って、どうするのか考えてない。でも……もう一度、会って話がしたかった。

 

***   ***   ***


「え〜……、ええと……」

 とりあえず、事務室を覗いてみたが、もう彼女の姿などどこにもなかった。……と、予鈴が鳴り響く。急ぎ足になる生徒たちが次々に教室の方へ吸い込まれていく。人気のまばらになった吹き抜けのエントランス、その視界の一番遠くに回転ドアから出て行く背中が見えた。

 ―― いたっ!!

 俺は息が上がった身体を追い立てるように走り出す。だだだっと、ドアまで進み、閉まりかけた間から身体を滑り込ませる。建物の外に出ると、きょろきょろと周りを見渡した。


「……梨花ちゃんっ!!」
 思わず大声で叫んでしまう。どういうことなんだ、何て逃げ足が早いんだ。……って、彼女は何も俺から逃げていた訳じゃないが…。

「……っちっくしょう〜〜〜っ! どこへいっちまったんだよ〜!!」

 膝に手を置いて、がくっと腰を折る。だれた身体をいきなりフル回転させたら、どっと疲れが来た。ああ、信じらんねえ。いくら運動不足とはいえ、こんなでいいのかっ! 俺はまだ誕生日が来てないから、ばりばりの10代なのにっ!! じりじりと脳天に突き刺さる日差し。ああ、最悪……。

 

「……あの?」

 ふっと、目の前に影が出来る。のろのろと顔を上げた。そこには、間違いなく昨日の朝に見た彼女が立っていた。

「……あ……」
 もう、どこにもいないと思ったのに。ふと見ると、手には定期を持っている。あ、そうか、すぐそこの地下鉄に乗ろうとしていたのか。あっという間に見えなくなったと思ったら、階段を下りていたんだ。

「何か、ご用でしょうか?」

 彼女はいわく付きのはずの俺を前にしても何もひるむこともなく、黒目がちの目でしっかりとこちらを見つめる。瞬きするとまつげが揺れる。ほんっと、コレ、天然物なのかなあ……? 疑いたくなるほど整っている。でも間近で見ても化粧っ気のない綺麗な肌や唇を見ていると、とても顔に手を加えたようには思えない。

「あ……ええとっ……その……」

 うわ。見つめられたらそれだけで血圧が上がってしまいそうだ。こんな第一級の美人、彼女にしたことはもちろん、こんなに近寄って話をしたこともない。どうして、世の中にこんなに綺麗な子がいるのか不思議でたまらない。しかも山ノ上高校だろ? もう東大・京大に現役で10数人入ってしまうと言う有名な進学校だ。公立なんだから、金を積んだって入れねえ。本当の秀才だ。

 彼女は、話の続けられない俺をじーっと見ていた。表情を崩すことなく。それから、ちらっと自分の腕時計に目をやる。それからすっと片腕を伸ばすと、俺の肩をぽんぽんと叩いた。

「……え?」

 ハッとしてまじまじと見つめてしまうと。彼女は穏やかな表情のまま、ふんわりと微笑んだ。

「こんなところで突っ立ってたら、ひからびちゃうでしょ? ちょっと、その辺に座ってお話ししませんか?」

 

***   ***   ***

 

 どうしたもんかと思っていたら、彼女の方が先導して、少し歩いたファーストフードに入った。すたすたと歩いていって、勝手に自分の分の飲み物を頼んでいる。アイスコーヒーだ。さっさと会計を済ませると、俺のために場所を空けてくれた。

「……ええと……」

 メニューを見ながら悩んでしまう。ひとり暮らしだし、朝飯なんて食ってない。でも、いきなりこんなところで……そう思ってると、隣から声がする。

「どうせ、朝ご飯抜いたんでしょ? モーニングセットでも食べておかないと体に悪いわ。ホットケーキとチーズバーガーどっちがいいの? ほら、サラダも付けた方がいいわよ?」

 気がつくと、俺のトレイの上は山盛りになっていた。ついでに千円札を出したのにいくらも戻ってこない。サンキューセットとかで売っている店じゃね〜のかっ!! まあ、並べられた物を「やめます」とも言えず、重いトレイを手によろよろとテーブルに着いた。


「で、話って?」

 ぷす。ストローを取り出して、紙コップに刺して。一口飲むと彼女は口火を切った。ちらと時計を見る。でも焦っている風でもない。

「え……、あのっ……、その、時間っ?」
 目の前で時計を見られると気になる。何か予定でも入っていたのだろうか? こんなところで引っかかっていていいのか。呼び止めておいたくせに、今になって気になってしまう。やってから後悔する、いつものことだ。

「あ、いいの、別に」
 彼女は首をすくめると、ほらほら食べなさいよと身振りで俺を促した。

「夏期講習に遅れちゃうかなって。いいよ、もう間に合わないから。午前中、さぼっちゃう」

「は……?」

 俺が話が読めないで困っているのに気付いたのか、彼女が説明してくれる。

「今日はここに、この前の模試の結果を貰いに来たの。何だか間違えてデーターが流れちゃったんだって。送ってもらうのも面倒だし、丁度途中だし? ホントはこの先の駅で降りて、栄進光に通ってるのよ」

「……はあ」
 安っぽい味のハンバーガーにかぶりつきながら、頷く。

 さっきのオタクくんの情報は正しいらしい。っていうか、あいつ、身長体重の次はスリーサイズまで知っていたぞっ! どういうことだっ、聞きそびれた(少し口惜しい)。にしても、学校がすごければ、予備校もランクが違う。栄進光なんて受けに行って落ちたんだ。今時の少子化で予備校に入るのに試験があるなんて嫌になる。

 

「で、話って、何?」

 テーブルに肘をついて、小首を傾げる。美人は何をしても美しいと言うが、何気ない仕草ですら思わず息を飲んで見つめてしまう。さっきから、彼女を目の前にして、言葉らしい言葉が出てこない。

「え……、えとっ……。あの、その……。このたびは……その、とんだことを……」

 あああああっ! 情けねえっ!! 打ち合わせのない記者会見のようにしどろもどろだ。たくさんのマイクやカメラを前にしたらコレでも致し方ないが、俺の目の前にいるのは彼女ひとりだ。しかも涼しげな落ち着いた感じで座っている。焦っているのはこっちだけ。

「……え?」
 彼女は、昨日の朝のこと何て、知らないと言う感じで平然としている。


 どういうことなんだっ! 仮にも女の子がっ! しかも高校生がっ、ひとり暮らしの男の部屋に素っ裸で寝ていてっ!! こっちはこんなに焦っているのに、どうしてあんたは平然としてるんだっ!!

 心臓がどくどくと血液を排出する。すごい鼓動。身体からにじみ出る汗。


「あのっ……、だからっ! 俺っ……一昨日の晩、君に……」

 何をしたのかは覚えていない。でも何かしたはずだ、確かに取り返しのつかないことを。そうじゃなかったら、あんな朝を迎えるわけがない。

「―― ああ」
 それなのに。彼女はまだ、平然としている。大きく頷くと、言葉を続けた。

「何だ、あんなこと。気にしていたの? いいじゃない、別に」

「……そんな……」

 こんな風にきっぱりと言い切られてしまうと、どうしていいのか分からない。はいそうですね、と引き下がればいいのか、彼女もそれを望んでいるのか? でもっ……押しも押されもしない、優等生高校の生徒、こんなにあっさりとしているのか? 今時の女子高生はこんなにすごいのかっ!?

「話それだけ? だったら、もう行くわよ。どうでもいいけど、それは全部食べなさいよ? 健康の基本はきちんとした食生活。ひとり暮らしだったら、そのくらいきちんとしなさいよね」

 そう言うと、彼女はさっさと立ち上がった。自分のトレイを持って歩き出そうとする。俺はハッとして顔を上げた。

「―― あっ……! ちょっとっ!! 待てよっ!」


 必死に叫んだので、狭い店内に俺の声が響いてしまった。驚いて振り向く彼女の他に、店中の客と店員がこちらを向く。そうだ、店に入った時から、異常なほどに注目されていた。ちらちらと途切れなく視線が四方八方から飛んでくる。俺の人生で今までなかった事だ。

 要するに、彼女といるからこんな風になるのだ。端から見ればカップルに見えないこともないのだろうから、こんな美人に連れ添った俺には好奇と羨望と嫉妬の視線が突き刺さる。


「……えっと、あの……」
 どうにか、どうにかしなければ。言葉を必死で思い浮かべる。どうにかして、この気持ちを、彼女に伝えなくては。

「君はいいかも知れないけど。俺の方は……その、そう言うの良くないと思うわけで……」

「え?」
 またもや、的を射ない俺の言葉に、彼女が不思議そうに反応する。ああ、綺麗だ、ひとこと呟く言葉までがキラキラしていて。周りの空気をしゃらんしゃらんと奏でている。

「そのっ……出来ることなら、……ええと、何というか、双方が納得出来るような……」


 どうしていいのかは分からない。でも、彼女を傷つけてしまったのだとしたら、それは償わなくてはならないと思う。このまま、精算せずに終えるのはすごく後味が悪い。方法は分からないけど、どうにか、ごめんなさいの気持ちを表したかった。


「はあ」

 彼女は、俺の前にもう一度、座った。テーブルにトレイを置き直す。それから、吸い込まれそうな瞳でじ〜っと俺を食い入るように見つめてから、ふっと顔を崩した。

「もしかして。私と、付き合いたいの? ……ナンパしてたりして?」

「……へ?」


 どーしてそう言う展開になるのかっ! よく分からないけど、よく分からないままで、俺はどどっと体中から汗の噴き出てくるのを感じていた。そりゃ、こんな美人が彼女だったらすげー事だと思う。でもあるはずのないことだ。望むなんて、あまりにも図々しいし。

 床屋に行ってないから、伸びかけのぼさぼさの髪。かき上げながら、額の汗も拭う。その間も彼女の視線が俺に向かっているのをぴりぴりと感じ取っていた。あああ、どうしたらいいんだあっ!!


「いいよ?」

「……!?」
 驚いて顔を上げると、彼女のにこにこと微笑む顔があった。すごい色っぽい。艶やかで、華やかで。なめらかで。もうどうやって表現したらいいのか分からない。あまり間近で見ると、緊張して言葉がなくなってしまう。

 

「付き合ってあげる。私、あなたの彼女になるわ」

 目の前にいるはずの彼女の発する言葉が、俺の耳に届くまで…ものすごく時間がかかった。


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