TopNovel未来Top>キスから、夢まで。・2


…片側の未来☆梨花編その2…
+ 2 +

 

 

「道場に通いたい」

 私がそう言いだした時の、パパとママの驚いた顔と言ったら。まあ、なかなか衝撃的な告白になるだろうなとは思っていたけど、ここまでびっくりするなんて。

「そ、そうかあ…。まあなあ、やりたいと思う気持ちは大切だからなあ、…だな、千夏」

 いつもは人に意見を求めたりしないで、ちゃんと自分の頭の中で判断するパパ。珍しくママに同意を求めたことからも、私が突飛なことを言ったのだなと気付いた。まあ、そこはパパ。そこら辺のお友達のパパよりはずっと理解があるし、分かってくれる。

「女の子だから、と言うのは良くないしな。まあ、体力作りにはいいだろう。武道は礼儀作法も教えてくれるって言うし。そうかそうか、…じゃあ、菜花と一緒にふたりで行くか?」

 小学校に上がる年だった。柔道や剣道の道場は就学年齢になってから入門させてくれるところが多い。ある程度、集団生活の基礎を身につけている子供の方が、飲み込みが早いのだ。そして、意外なことに小さい頃からやっていればいいというものではないらしい。1年生から始めた人が3年掛かって習得することを、3年生から始めた人の方が1年でクリアしてしまうこともよくあるらしい。
 とは言え、まだまだ小さな私をひとりで道場通いさせるのはちょっと不安だったのだろう。パパはすぐにお姉ちゃんと一緒に通うことを勧めた。

 正直、それはやだなあと思っていると、そのことを口にする前に横で話を聞いていたお姉ちゃんの方から先に言ってくれた。

「え〜…、あたしは行きたくない。だって、塾もあるし――」

 ああ良かったと思う。

 私よりも3つ年上のお姉ちゃんはその時、4年生。近所にある私立中学に行きたいと塾通いをしていたのだ。6年生の冬に受ける試験のために、もう頑張らなくちゃならない。本当に受験制度って大変。ただ、中高一貫教育だから、高校受験がいらない。しかもとても優秀な進学校だから、学校のフォローもすごいんだ。絶対に有名な大学に進学出来るって言われてる。

 …まあ、良かった。お姉ちゃんと一緒じゃ、何にもならないもん。

 私はどうにかして手に入れたいと思っていた。お姉ちゃんがいない自分だけの空間。「菜花ちゃんの妹」と言われなくて済む場所を。

 

 柔道の道場はつーんとすえたイグサの香りのするところだった。畳をびっちり敷き詰めた小体育館くらいの広さに20人ほどの子供たちが汗を流している。どすん、ばたん、と言う音が上がるたびにぶわっと熱気まで伝わって来るような気がした。

 いくらYAWARAちゃんこと谷(旧姓・田村)亮子さんを初め世界の強豪と互角に渡り合える実力のあるメンバーが日本の女子柔道を広めてくれてるとは言っても、まだまだ女の子の間には馴染みの薄い感じ。私が行くことになったのは、岩男くんが通っていたちっちゃな道場だったから、女の子なんて全然いなかった。先生もちょっと困った顔をした。相手がいないと練習にならない。
 練習していた男の子たちも私が入っていくとぎょっとして振り向いた。中には知っている顔もいる。同級生の男の子も数名いた。ここは主に小学生が通うための場所。中学で部活動に入る前に基本を身につけるという感じで。だから、体の大きな岩男くんはその時4年生だったけど、道場の館生の中ではとくに大きな方だった。

「男の子と組むの…嫌じゃない?」

 角刈りで怖そうな眉毛の先生は、心配そうに私の顔をのぞき込んだ。でも、そんなこと全然平気だと思った。ここには私を「菜花ちゃんの妹」って、呼ぶ人はいない。たくさんいるお姉ちゃんの取り巻きの男の子たちは柔道なんて興味がないみたいだもん。何でもママが危ないからよしなさいとか言うんだって。サッカーとかテニスとかそう言う方がいいみたい。

「平気ですっ! 頑張ります」

 嬉しかった。それから週に2回の道場通いが私の一番大好きな時間になった。嬉々として出かける私をパパやママは不思議そうに見ていた。そして、お姉ちゃんはちょっと羨ましそうに。すごく得意な気持ち。自分だけ特別になったそんな空気に酔いしれていた。もちろん、口に出してそう言ったりしなかったけど。

 

***   ***   ***


「岩男くん…ちゃんと来てるの?」
 時々、お姉ちゃんにそう聞かれることがあった。そんなときのお姉ちゃんは何だかとても寂しそうで、うるるんな空気が辺りに漂っていた。

「うん、いつもいるよ? 今度、大会があるからね。すごく張り切って練習してるよ?」

 何でもない感じに、そうやって言い返す時の不思議な優越感。私は別にすごく自慢気にしたり、そんな風に言ってないのに、お姉ちゃんはすごく悲しそうな顔をする。仲間はずれにされたひとりぼっちの表情。

 …じゃあ、練習を見に来れば?

 そうやって言えば良かったのかな。でも言えなかった。だって、お姉ちゃんが道場に見学に来たりしたら男の子たちがみんなお姉ちゃんの方を見ちゃう。今まで、みんなで和気あいあいとやっていたのに。その釣り合いの取れた感じが乱れるのが許せなかった。

 それに、知ってた。お姉ちゃんはだんだん岩男くんと仲良しじゃなくなってきたんだ。別にケンカをしたわけではないらしい。でも学校の行き帰りも一緒じゃないし、塾とかも別々に通ってるんだ。

 お姉ちゃんはそれをとても寂しく思っている。しゅんと肩を落としながら岩男くんの道場での様子を訊ねてくる姿は、妹の私から見ても可哀想だなとか思った。

 …でも、嫌。お姉ちゃんにいい思いなんてさせない。

 


 いつだったか。お夕ご飯のあとに、お姉ちゃんがパパのところに算数のノートを持ってきた。どうしても分からない問題があるという。

「う〜んっ…」
 小学校も高学年、そして中学受験対策の算数はかなり難易度が高い。さすがのパパも首をひねったまま固まってしまった。

「喉のこの辺まで出かかってるんだけど、…どうだったかなあ。千夏、こう言うの分かる?」

 そう言ってママの方にノートを差しだすけど、ママもくるんくるんと首を左右に振った。ママは子供の頃から算数が苦手だったというから仕方ない。私も一応そのノートをのぞき込んだ。

「…あ」
 図形の証明問題。三角形のかたちを見た時にぱぱっとひらめいた。――これ、知ってるっ!

 つい最近、道場で岩男くんが同級生に聞かれてすらすらと答えていた。その時に私はそこにいたから、問題の解き方を全部覚えていたのだ。何てことはない、線を一本引けばすぐに分かる。だから、私は何にも言わないで、鉛筆を取ると図形の上に補助線を引いた。

「あ、あああ〜っ! そうかっ! すごいなあ、梨花は。もしかして、数学の才能があるのかな?」

 何にも知らないパパはすごく感激してる。私は本当のことは言わないで黙っていた。

「数学は年齢なんて関係ないと言うからな。アメリカなんかでは小学生の数学博士もいるとか聞いたことあるぞ…梨花もそんな風になったらすごいよなあ。いや、恐れ入ったっ!」

 たくさんたくさん誉められて、すごくいい気分だった。お姉ちゃんにも感謝されて、自分が偉くなった気がして。

「私、いっぱい勉強する。そしたら、お姉ちゃんが分からない問題を教えてあげるね」

 思わずそう言ってしまった。これには訳がある。だって、問題を考えている時に、パパの口から一瞬こんな言葉がこぼれたのだ。

「岩男くんなら、これくらい簡単に分かるよな。そうだ、今から電話して聞いてみればいいんじゃないか?」

 びくんと、心臓が跳ね上がった。

 そんなこと、したら大変。岩男くんがお姉ちゃんに勉強を教えてあげるなんて。そんなことして、ふたりがまた仲良しになったらどうするの。何も出来ないのに、岩男くんの隣にいるなんてずるい。そんなの絶対に許さない。

 頑張って、算数が得意になろうと思った。そして、お姉ちゃんに教えてあげればいい。岩男くんとお姉ちゃんが近づくのは出来るだけ阻止したかった。

 


 自分の中にふつふつと湧いてくる薄暗い気持ち。私はすごく嫌な女の子になっていく。でも、譲れない。

 だって、私は頑張ってる。道場にだって、青あざを作りながら、それでも必死に通ってる。お姉ちゃんはそれだけの努力もしないで、いいとこ取りをしていいわけないんだ。道場での岩男くんは私だけのものなんだから。

 だんだん意地になっていくのが分かっていた。みんなから仲のいい姉妹だって言われていたし、本当にそうだったんだと思う。でも…いつもいつも、複雑な心を抱えたまま過ごしていた。お姉ちゃんがいると、私は輝けない。いつも二番手になってしまう。光の影になってしまう自分が悲しかった。

 

***   ***   ***


 学年が上がるごとに、最初はとんとんだと思っていた男の子たちとの体力の差が歴然としてきた。すごく口惜しい。
 最初に、手加減はしないでいいと言った。女の子だからと贔屓されたり、力を抜かれたりするのはやだったから。男の子たちもきっと難しいんだと思う。下手に力を抜くと負けちゃうし、だから必死にやるしかないんだ。

 どうしてだろう。体格的にはそんなに差がないと思うのに。骨格とかそう言うところが違うみたい。指の力とかそういうのかな? 掴んだ時のぎゅっという力が強い。同じだけ練習してるのに、私の指には同じだけの力が入らない。高学年になるころには、もう何をしても敵わなくなってきた。

 

 すごく口惜しくて。

 ある日、練習が終わったあと掃除当番で畳を雑巾がけしていたら、ぼろぼろと涙が溢れてきた。もうひとりの当番の男の子が自分のぶんの掃除を終えて帰ってしまっても、私は畳の上に四つんばいになったまま起きあがれなかった。

 からからから。

 その時、道場の玄関の引き戸が開いた。ああ、誰か入ってきた、何だろう忘れ物かなあ…そう思いつつ、柔道着の肩の部分で顔を拭う。泣き顔を見られるのは嫌だった。

「…あれ? 梨花ちゃんだったの?」

 その声を背中に聞いた時、私の身体がぴくんと反応した。

 …だって。私のことを「梨花ちゃん」と呼ぶ人はここの道場に来る人間でひとりしかいない。みんな私のことを「槇原」と名字で呼ぶ。師範の先生も、同じ館生もみんな。

「岩男…くん?」

 ゆっくりと上体を起こして、振り向きながら正座するかたちになってた。道場の入り口に立っていた彼はちょっと頬の辺りを歪めてから、どすどすと畳の上を進んできた。

 開襟のシャツにラベンダー色のスラックス。いかつい体型にはちょっと似合わない気もするけど、どこから見てもエリートっぽい西の杜学園の制服。

「どうしたの? 今、帰り?」

 ぱちぱちと何度か瞬きする。

 だって西の杜に進学してから岩男くんが道場に来ることは本当に少なくなった。まあ、6年生を卒業する時に道場でも修了証書を渡してくれる。今、岩男くんは西の杜の柔道部でさらに鍛えている。腕なんか、私がぶら下がれるくらい太くて。シャツの上からでもこんもりと盛り上がった肩の筋肉が動くのが見える気がする。

「うん…前を通ったら灯りが点いていたから。誰かいるのかなと思って入ってみたんだ。梨花ちゃんだったんだね」

 そう、岩男くんだけ。岩男くんだけが私のことを「梨花ちゃん」と呼んでくれた。最初にここに連れてきてくれたのも岩男くん。だから、みんなは私たちのことを兄妹か従兄妹かと思ったんだって。どこか雰囲気が似てるって言われることもあったし。ほんとのとこ全然似てないのにね、不思議なんだけど。

 …あ、やだな。

 岩男くんの声を久しぶりに聞いたら、また涙が溢れそうになる。誰の前でも泣くもんかと思っていたけど、この人の前ならいいかなと言う気がする。岩男くんはほんとのほんとにお兄ちゃんみたい。同級生の男の子なんて子供っぽくて全然頼りになりそうにない。でも岩男くんは違う。しっかりしてるし、頭もいいし、柔道だってすごく上手。小学生の大会でも、小さな道場の館生とは思えない好成績を収めてきた。

「梨花ちゃん、足さばきとかすごく上手になったって。この前、師範の田村先生に会った時に言ってたよ。このまま中学や高校で実力を発揮出来ないのは残念だって」

 私が泣き出しそうなのは知ってるのに。岩男くんはそれを見てみない振りしたまま話をする。押し殺した息づかい、こちらを気にしてくれているのが感じ取れた。

「うっ…、そんなじゃないもん。もう駄目なんだもんっ…! 下級生にも投げられちゃうこともあるし、このごろでは腰が引けてばっかりだって、先生にも注意されて…」

 そこまで一気に言ったら、ぼぼぼっと涙が溢れてきた。ああん、どうしよう、止まらないよ〜。慌てて膝を抱えて、顔を埋めた。あとからあとから、口惜しい気持ちが溢れてくる。

「頑張ったってっ…、上手になれない。今にみんなに抜かされちゃう。やだ、こんなのっ…!」

 

 自分に自信がなくなってくると、周りのみんなが急に大きく立派に見えてくる。それは道場でも小学校でも同じだった。

「姉弟なんだから」とパパとママは私のことも塾に入れてくれた。お姉ちゃんが西の杜に入ったのだから、私も弟の樹も、と思ってくれているみたい。パパが脱サラしてお店を始めて色々大変なのに、毎晩家計簿とにらめっこしながらも一生懸命してくれる。

 学校での成績は常にトップクラスだった。ほとんどの運動だって誰にも負けない。「何をやっても一番になる」って言われていた。でも…それはなかなか不安定なポジション。振り向くとすぐ後ろをたくさんのクラスメイトたちが追いかけてくる。だから止まれない、勉強も頑張らなくちゃ行けないし、運動だってちゃんと練習しないと上達しない。

「梨花ちゃんは、すごいよね」と言われれば、もっと頑張ろうと思う。それに…先生方は言うんだ、口を揃えて。

「お姉さんの菜花ちゃんは西の杜に合格したんだから、妹の梨花ちゃんだって当然ですね。まあ、今のままの成績なら合格間違いなし、さすが菜花ちゃんの妹ね」

 私は先生に笑顔で答えながら、心が冷たく冷え切ってくのを感じていた。

 …どうして? お姉ちゃんの妹であることがどうして関係あるの? 私は私、槇原梨花というひとりの人間なんだよ。なのに、ひどい。お姉ちゃんの妹である私は、お姉ちゃんよりも出来ないと認めて貰えない。お姉ちゃんと同じじゃ駄目なんだ。

 頑張らなくちゃ、頑張らなくちゃと思うと、肩がガチガチに凝ってくる。小学生なのに肩こり。パパの湿布を貰ったりしてた。

「柔道って、大変なのねえ…」
 何も知らないママはため息混じりに言う。みんな知らない、私がどんなにプレッシャーを感じているか。がんじがらめになって、息をするのも辛いほどなのを。

 お姉ちゃんが卒業してしまった小学校でも、相変わらず「菜花ちゃんの妹」と呼ばれる。さらに弟の樹が下級生にいるからその面倒もきちんと見てあげないといけない。慣れないお店の仕事であたふたしているパパやママの代わりに、宿題を点検したり明日の支度を手伝ったりした。時には急に必要になった文房具をふたりでお店に買いに行ったり。

 道場は唯一の逃げ場だった。…なのに、そこですら、私は駄目になりそうになってる。

 

「どうしたの? …柔道が嫌いになったのかな」

 岩男くんは静かにそう言った。突き放すわけでもなく、かといってべたべたと慰めるわけでもない。ふんわりと周りの空気ごと抱きしめてくれるみたいな優しい口調だった。

「…ちがっ、そうじゃないけどっ…!」

 私は慌ててかぶりを振った。だって…そんなじゃない。自分でやりたいって決めて、パパとママにお願いして、岩男くんにここに連れてきてもらった。自分の気持ちで選んだことを後悔したりしたくない。

「そう…、なら良かった」
 喉の奥で、ちょっとだけ笑う。

「黒帯まで、頑張るんでしょ? だったら、やれることはたくさんあると思うよ…?」

 黒帯は、有段者にだけ許されている柔道着の帯のことだ。それまでは白い帯。柔道着はほとんどが白いから(最初は生成りに近いんだけど、洗濯しているうちに洗剤の中に入っている漂白剤で白くなってしまうんだよね)くっきりした黒帯がすごく映える。それだけで強くなった気がするし。もちろん、岩男くんも黒帯を目指している。満14歳から段審査を受けられる。10月がお誕生日の岩男くんはもうちょっとでその資格に手が届くのだ。

 中等部に進んでも、部活をやりながら時間をやりくりしては道場に来て、後輩の指導に当たっている。ゆくゆくはきちんとした指導者になりたいと私には話してくれたんだ。ウチみたいな小さな道場は教える師範の先生方もボランティアの様なもの。みんな高校の先生とか、市役所の職員とか…そう言う人たちだ。岩男くんもそんな先生方のように、子供たちに柔道の素晴らしさを教えていきたいんだって。

「よく先生にもいわれてるでしょう? 西町の道場に行って、稽古をつけてもらってきなさいって。知らない人の中に入るのは嫌かも知れないけど、西町道場には女性の指導者の方もいらっしゃるし、きっと勉強になると思うよ?」

「う…ん」

 本当はそんなに「柔道」が好きだった訳じゃない。もちろん、やるからにはそれなりの評価も欲しかった。先生方が勧めるままに級審査を受けてきたけど、別に有段者になりたいとかそれほど強く望んでいた訳でもない。もちろん、黒帯を巻いたら格好いいなとか思っていたけどね。

「誰だって、伸び悩む時期はあるんだから、いいじゃない。梨花ちゃんは梨花ちゃんらしく頑張って行けばいいんだよ。辛くなりすぎないようにね」

 岩男くんには。何でも分かってしまう。私の心の中、何に悩んでいるかまで。レントゲンで心の中を撮されているみたいだ。あたたかいなと思う、誰よりも心を満たしてくれる存在。

 

 ――私だけのものにしたいな。

 

 でも、本当は知っていた。岩男くんが誰のことを見ているか。口にしなくたって、分かってた。だって、それが感じ取れるくらい、私は岩男くんのそばにいたんだもん。

 

 いつの間にか涙は止まっていた。それどころか私はにこにこしてる。

「一番じゃなくちゃ、駄目だから」と自分に自分で言い聞かせている時、私は始終ピリピリとした空気に包まれていた。先生に誉められるほどの成績を取っていたお姉ちゃんはいつも春の日溜まりみたいに笑っていた。ふわんふわんのお姉ちゃんがにっこりすると、それだけで周りの人はすごく嬉しそうな顔をする。

 ああいう風に出来ればいいんだな、と頭の中では理解してる。でも想像するのと実際にするのでは違う。私には微笑みを周りに振りまくだけのゆとりがなかった。それに…そんなことで無理しても、いつだって「菜花ちゃんの妹だから」と言われそうで嫌だったし。

 

 岩男くんは私のぐらついた心を、きちんとした場所に戻してくれる。もしも岩男くんとずっと一緒にいられたら、きっと私はすごく幸せになれる。

 そのためには。私は一体、どうしたらいいのだろう…?

 

<<BACK   NEXT >>

 

Novel Index未来Top>キスから、夢まで。・2