TopNovel未来Top>女神サマがやって来たっ!


…片側の未来☆梨花編おまけ…
+ 万鈴さんのれぽぉと +

 

 

「うわ〜んっ、大変大変っ!! お姉ちゃ〜〜〜〜〜んっ!!」

 その朝、私を叩き起こしたのは、妹の愛緒(あいお)のけたたましい叫び声だった。

「ううう〜〜〜んっ……」
 ゆさゆさと揺られても、すぐには瞼も開かない。お願い、もうちょっと寝てたいんだけど。っていうか、予定もないから、今日は一日中惰眠を貪るんだ。そう決めたし、愛緒にもそう言っといたじゃないの。

 

 久しぶりに実家に戻ってきて、昨日は夜遅くまで友達と呑んだ。普段はなかなか会えない仲間に再会できるから、やっぱり地元がいいなと思う。イントネーションの違う言葉に囲まれて、ボケと突っ込みに、もまれて生きてると、楽しいんだけど――やっぱ、たまに標準語が懐かしくなるのよね。

 ……あ、「標準語」なんて言うと、また嫌な顔をされたりするんだけどね。「自分らが基準だとは思うな」って、きちんと言葉にして反旗を翻すのがあっち流。

 

「起きて、起きてっ!! 大変なのよぉ〜〜っ!!!」

 この春で高校3年生になる妹。私とは2歳違いになる。この不景気にどうしたことか、我が家は6人兄弟。末っ子の弟なんてようやく小学1年生。どうにかしてと言う感じだ。まあ、弟ならこのくらいけたたましくても許す。でも、あんたは花も恥じらうセブンティーンでしょ? もうちょっと落ち着きなさいよね。

「あによ〜っ、うっさいわねえ……」

 ぼーっと目を開けると、視界に飛び込んできたのは血走った二つの瞳だった。受験生のくせにばちばちにまつげパーマなんてしちゃって、浜アユを目指しているらしいけど、どう見ても壊れかけたマネキン人形。しかも顔を真っ赤にして眉もつり上げて、さながら鬼の形相だ。

「もうっ! お姉ちゃんは寝起きが悪いんだからっ! とにかく起きてっ、お兄ちゃんが帰ってきたのよ、いきなりっ!!」

「う――……兄貴が?」

 だから何だって言うのよ、そりゃ正月以来の再会だし、受験合格したんだから「おめでとう」とか言うのが筋なんだろうけど。別に熱烈歓迎するほどの輩じゃないよ。一体、今日の愛緒はどうしたんだ。

「とにかくっ! 下に降りれば分かるってっ!! 5分っ、5分で支度してよっ! それ以上は待てないからっ!!」

 畏れ多くも姉に向かって、なんたる横暴。いい加減にしなさいよね、と口を挟む暇もない機関銃のようなしゃべり。気が付くと、ベッドの下の床に尻もちをついていた。

 

***   ***   ***


「は……、はあ……」

 きっかり、5分後。

 のろのろとリビングに降りていった私は、階段を下りたところで固まってしまった。一体ぜんたい何が起こったのだろう? ええ、ここって本当にウチのリビング? 今日から、いきなりTVのスタジオに改装されたんじゃなくてっ??

 ようやく、愛緒の慌てぶりの理由が分かった。というか、あの状況で騒げる彼女は度胸が据わっていると思う。私なんて、寝起きで頭が働かないせいもあるけど、声も出ない。

「よぉっ、万鈴(まりん)、久しぶり〜っ!」

 兄貴の声がするんだけど、一体どこにいるのよっ!? 姿を確認することも出来やしない。

 だってだってだってっ!!! 何なのよ〜っ、眩しすぎて目が霞んでるわよ、私っ。どこからか、スタジオライトが当たってるのかと確認したけど、ここは普通に昼間の光が差し込む当たり前の建て売り住宅のリビングダイニング。そんなものがあるわけない。

 ――じゃあ、何? これはっ……!

 ゆらゆらと揺らめく蜃気楼。向こうに見えるのは、やはり陽炎なんだろうか。そう思っていたら、輝きの正体がゆっくりと微笑む。間違いなく私を見て、きらきらと光の粉をまき散らすみたいに眩しく。

「こんにちは、お邪魔してます」
 甘くてアルトな落ち着いた声。膝丈のスカートから、すんなりと伸びた脚。ストッキングの広告みたいに綺麗。100均で母親が買ってきたスリッパが、まるで一足3000円の高級ブランドに見えてくる。

 ……駄目っ、とても顔を上げられる状態じゃない。目眩を起こして倒れちゃったらどうするのよ。心臓がばくばくと高鳴って、それでもようやくそろりそろりと視線を上げていく。

 膝に置かれた手の甲。白魚のような、という表現が似合う人に本当に会えるなんて。白いだけじゃない、長くて綺麗な指に、形のいい爪。ほんのりピンクのネイル。手首に、細いブレスレット。

 身に付けているのは、デニムのワンピース。袖無しのシンプルなかたち。裾にきらきらとスパンコールみたいなのが縫いつけてあって、ちょっとエスニック。3月の始めだからさすがにそれだけでは寒いのだろう、部屋の中でもショールを肩から掛けている。その上に、さらさらと落ちた髪。真っ黒で、まっすぐで……ひやぁ、すごくやわらかそう。枝毛なんてあるわけもなく、つやつやと自然の輝き。

 ――肌が真っ白で綺麗なのに、どうして髪の毛は真っ黒なんだろう……。シミひとつない腕を辿っていくとその先に、綺麗な肩のライン。そして……ようやくしっかりと視界に納めたその人は、もう、普段はお目にかかれない、もしかしたら一生に何度もすれ違うこともないと思われるほどのすっごーい美人だった。

「何寝ぼけてるんだよ、だいたい休みだからっていつまで寝てるんだ? ええとな、……この子は槇原梨花ちゃん。ちょっと近くまで来たからさ、たまには顔見せしようかって思ってさ」

 ほっそりした彼女なのに、その目のくらむような姿に、私の兄貴はすっかりと霞んでいる。もうぼんやりとしか確かめられないほどに。あああ、影が薄いなあ。ただでさえ、貧相な感じだったのに、どうしてこんな人の隣にいるのよ。一体どうしたのよ。

「あの、こちら。皆様で召し上がって下さいね」

 輝きの乙女はまた微笑んで。唄うような声で、白い箱を差し出す。見た目はケーキの箱みたいだけど、……お店の名前とかそう言うのが入ってないなあ……?

「父のお店に出しているハーブ入りのケーキとクッキーなんです。お口にあうといいのですけど」

 遠慮がちに腕を伸ばしてこちらに手渡してくる。ひいいいっ、なんて細い腕っ!! 折れちゃいそうだよ〜、なのに病的とかそう言うのじゃないんだよね。ちゃんとしなやかに「生命力がみなぎってます」って感じで。

「うわっ! これはわざわざっ! お心遣い、ありがとうございますっ!! はいっ、頂きますっ!!」

 腰を90度に曲げて、受け取る。ああ、なんてがさつなのかしら、私ってば。一瞬触れた指先がひんやりして、女同士なのにどきどきとしてしまった。

 

***   ***   ***


「ななななっ、何なのよっ、あれはっ!!」

 私は愛緒がお茶の支度をしているキッチンに転がり込んでいった。ああ、ようやく正気に戻ったわ。当たり前の地味な顔を見てホッとする。そんな私を、妹はこの上なく憐れんだ、でもとても同情した目で見ていた。その指先に、またまた私は驚いてしまう。

 うわぁ、何よぉ。母親のコレクションしている何とかって言うアンティークのティーセットなんて出してるっ! でも、そうだよなあ、どう見てもリビングの彼女にペットボトルのお茶は似合わない。出来ることなら、特別のリーフできちんと入れた紅茶でおもてなししたいと思う。おそろいのティーポットの蓋を震える手で持ち上げた。取っ手がバラの蕾になってるんだ。

 正直、これに直接触れたことはない。でも、今使わなくていつ使うんだ。今日のために買ってあったと思えるほど、この状況に似合っている。

「何なのよって……何なんでしょうよ。こうやって自宅まで連れてくるんだよ? お兄ちゃんの彼女に決まってるじゃないの」

 悟りをひらいたような妹の声に、私は口をあんぐりと開けてしまった。

「うそぉ……」
 冷蔵庫の影から、気づかれないようにリビングを覗く。やはり、TVの公開録画の見学みたいだ。あれって、クラスにひとりとか学年にひとりとかのレベルの美人じゃないよ。町内一、いや、ミスなんとかに選ばれちゃうくらいの上玉。

 ちらっと見たときに分かったんだけど、お化粧っ気もないの。いいとこ色つきリップを引いたくらい。なのになのに、あのきめの細かい肌っ! 絶妙なバランスを持って整った顔立ちに、びっちりと生えそろったまつげ。しかもくるりんとちゃんと上向いてるし。黒目がちの目は濡れていて、今にもぽろんとこぼれそう。

 一応ジョシダイセーの私。キャンパスにだって、綺麗に着飾った学生がいっぱいいる。中にはタレントみたいに地元のTVに出てる子もいるみたい。そう言う人はそれなりに可愛くて華がある。

 ……でもさあ、違うのよね。あそこにいる彼女はすっごく遠くを歩いていても、眩しくて振り返ってしまうくらいの美しさだよ。嘘だあ、兄貴があんな彼女を見つけるわけないじゃないっ! 一体、どうしちゃったのよっ!

「もしかして……犯罪紛いのこととか、そう言うのに手を染めたんじゃないでしょうね!? やだ〜よりによって身内から警察のお世話になる人間が出るなんてっ!」

「ううう、違うと思うけど……」

 愛緒も一応は否定しながら、それでも自分の中にも同じような不安があったらしい。

 やかんのお湯が煮立つまでの間、私たちはにらめっこするみたいにうーんと腕組みして待った。時々、背後のリビングを覗いていたんだけど……天女様のような美人は煙と共に消えるなんてこともなく、兄貴と楽しそうにおしゃべりを続けていた。

 

***   ***   ***


 ――正直。兄貴は情けない奴だ。私とは年子で、ずっと一緒に学校に通った。一番上の男だからと両親もそれなりに手を掛けて金を掛けて、私たちに行かせなかったような塾に入れたりして。一度は「西の杜」というこの界隈でも有名な私立進学校に入学した。その時の、両親のはしゃぎようと言ったらなかった。子供心にも白けたものを感じ取ったのを覚えている。
 しばらくして兄貴は学校の授業に付いていけなくなって、地元の中学に転校した。それでも成績はそれなりに良かったはずだ。だって、町内でも「西の杜」に合格するなんてとっても珍しいんだから。それなのに、かつての神童は、私がその中学に入学した時には、他の生徒に埋もれた2年生になっていた。もちろん、高校もその辺の3番手くらいのところに。さらに、2浪もして、とうとう私が追い抜いてしまった。

「上條の、妹だ〜っ!」

 どこへ行っても、そんな風に指をさされていた。コレで、カッコイイ兄貴だったら自慢の種にもなっただろうけど、悲しいかなそんなことがあるわけもなく。私はもう最初から「傷物特売」シールを貼られたトマトのように情けない気持ちでいなければならなかった。

 ま、気が楽と言えば楽よね。出来る兄弟を持つと、何かと大変みたいだし。私なんて、担任からも上級生からも「上條の妹にしては出来がいい」って、言われちゃったしね。

 ようやく、大学に進学して、関西に行って。兄貴とも別れた。ホッとして、しばらくはその存在も忘れていたのに、どういうことなのよっ、一体何があったのよっ! 聞いてないよっ!!

 まさかまさか。酔っぱらった勢いで押し倒して、傷物にしちゃったとかっ!? それとも、あの特上美人の知られざる弱みを握って、脅しているとかっ……自分の兄貴なんだから、そんな悪党とは思いたくないけどっ、でもさ、信じられないんだよ。どういうことなんだよ〜〜〜っ!

「あれ〜?」

 その声に振り向くと。先ほど、手渡された「お土産」の箱を愛緒が確かめている。ただの白い箱だと思ってたけど、よく見たら側面にぼこぼこした模様が付いていた。英単語みたいだな。

「ねえ、お姉ちゃん。『Apricot Green』…って、あの伝説のお店だよね? そう言えば、さっき名前が……」

 ――そうかっ! 気が付いた。もしかして、あそこの人かっ!

 私は実際に行ったことないけど、クラスでもたびたび噂になるスポットがあった。何の変哲もない住宅街の一角に、こぎれいな雑貨屋さんがあって。みんな目の色を変えて、色々なグッズを買い漁っていたっけ。おしゃれなアンティーク雑貨や、ナチュラルな手作り品、そしてアレンジフラワーなんかも人気だった。

 ……確か、個人個人のファンクラブとかあったよ。もちろん私設だし、本人の許可なんて取ってないだろうけど。ウチの男子、会員証、持っていたもん。ええと、子供が3人いるんだったよなあ。

 オーナーの顔はよく知ってる。有名だもん、すごく。芸能人顔負けの甘いマスクで、近所のおばさんはこぞってお店に通うんだって。ティールームとか、いつも満員で。……でも、違うなあ、確か一番上の娘さんはオーナーによく似てるって聞いてたけど。じゃあ、もうひとりの方かな?

 ……でも。となると、ますます、兄貴との接点が見あたらない。浪人生がバイトで知り合うとか、そう言うのもなさそうだし。ああん、どうしよ〜、まずいよ〜っ!!

 気づくと、グーにした手のひらがじっとりと汗ばんでいる。どうして、こんな日に限って、両親共に留守なのよ。私たちに全てを押しつけないでよねっ!

 

 私の背中で、ピーッとやかんが音を立てた。

 

***   ***   ***


「へえ……じゃあ、やっぱりこの春から大学に進学されるんですね?」

 ティーカップを口に運ぶその仕草も決まっている。うっとりとその姿を眺めながら、私は緊張も解けないままガチガチになって、それでもどうにか会話をしていた。

 聞けば、兄貴の連れてきたこの彼女……梨花さんと言うんだけど、現役で大学に受かったという。なんと私よりも年下っ! ひえ〜、信じられない落ち着きよっ! しかも「県立山ノ上高校」っていうものすごい進学校に通っていて、予備校は「栄進光」。ばりばりの理系で、都内の大学の獣医学科に合格したという。
 確か、獣医さんになるのってすごく大変なんだよね。まず、大学が少ない。全国でも10いくつしかないって聞いてる。そこに、日本中のエリートが集結するから、すごい倍率だし、とても現役合格なんて難しいはずだ。って、ことは……それくらいの秀才っ!? うわん、美人のくせに頭もいいなんてっ! これで運動神経も良かったりしたら、どうしたらいいのっ!

「ええ、そうなんです。聖矢くんと一緒に都内に決まって良かったですよ、一応地方も受けたりしてましたから」

 いやいや。あなたなら、それほど難しいことではないかも知れない。それよりも、隣に座っている馬鹿面の兄貴のほうが心配だったのではないだろうか。二浪した上に、どうなるんだと両親も心配していた。ひとり暮らしをしていて、あまり家には寄りつかないし、戻ってきてもぼーっと暗いし。最初の浪人の時だって、現役の私よりもみんな兄貴のことを心配してるんだもん、嫌になったわよ。

 合格した大学が想像したよりずーっとレベル高くて、一体どうしたんだろうと思っていたのよ。何なの? いつの間にか、いろいろと上手くいっていて。やっぱ、おかしいよっ! 兄貴、全ての幸運を使い果たして、死に神に取り憑かれているんじゃないだろうねっ! あああ、冗談にならない。マジで不安だ。

「と言うことで。ほらな、愛緒も今年受験だし。なんか進路に悩んでいるようだったから、ちょっと相談に乗って貰おうかと思ってさ。どうなんだ、予備校の春期講習とか、行くんだろ? 模試の結果とかあったら、見せろよ」

 うっわ〜〜〜んっ! 何してるのよっ! か、肩なんか抱いちゃってっ! もう、不謹慎なんだから、何考えてるのよっ。こんな綺麗な人に触れるときにはちゃんと手を良く洗って、除菌してからにしてっ!

 余裕こいてる兄貴の代わりに、私が小さく縮み上がってしまう。もう嫌っ、どうしてこんなことになるのよ〜っ! 兄貴がどんな彼女と付き合うのかなとか、そりゃ、妹として色々想像したわよ。だってさ、兄貴の彼女って、もしかすると私のお義姉さんになるかも知れないんだよ? 得体の知れない変な女だったら、断固として反対しようとか思っていた。

 ……でもまさか、こんな状況は考えたことなかったわよ〜っ!!

「ええと〜、コレなんですけど……」
 愛緒が2月に受けた模試の結果を出してくる。もちろん、梨花さんの前に。

 私は内心、ホッとしていた。良かった〜もう進学していて。こんな人に自分の成績を見られるなんて、恥ずかしすぎ。ああ、愛緒、あんなに真っ赤になっちゃって……。

 梨花さんは、真面目な顔で見入っている。やがて、ふむふむと頷いて、にっこりと笑顔になった。

「ここと、ここの大学なら、友達が進学するから。講義の内容とか、学内の様子とか色々聞けると思うわ? 何だったら、こっそり見学するのもいいかもね。実際に体感すると、一番良く分かるから。何でも相談してね、協力するから……」

 うわ〜っ、何だかいちいち感激してしまうんだけど。実は気さくな人なんだな。こんなに整っていたら、ちょっと近寄りがたいかなとか思うんだけど、そんなじゃない。だよね、兄貴なんかと付き合っているんだから、それなりに忍耐力も必要だろうし。

 

 ……ああん、でもでもっ! どうして、兄貴の彼女なんてしてるんだろっ。信じられないよ〜っ!

 

 こうして、ふたりとテーブルを囲んで面と向かっていると。すごく分かるのよね、いろいろと。

 私、あまりカッコイイ男子と付き合うのはやめるわ。こうやって並ぶととにかく比べちゃう。兄貴だって、愛緒の話だとここ半年くらいでびっくりするくらい垢抜けたって言う。だけど、こういうのは比較対照の問題で。いくら兄貴が成長したって、相手がコレじゃあ……それに、これから大学生になればさぁ。女の子って、もっともっと綺麗になるんだよ? 大丈夫なのっ、兄貴っ!!

「りっ、梨花さんって……いい匂いがしますねっ! シャンプーは何を使ってるんですかっ?」

 愛緒がどもりながら、そんな質問をしている。ああ、そう言えばそうだ。しつこくない、透き通った花の香りがさっきからしてる。そうか、シャンプーだったんだ。

「ええと……パパのお店のものを使ってるの。何でも業務用のを特別に卸しているみたいなのよ。良かったら、今度持ってきましょうか? リンスがなくてもさらさらになるの――じゃあ、来週でいいかしら?」

 きらきらと笑顔を振りまきながら、そんなことをさらりと言う。ふたりの会話を聞きながら、私は冷め切った紅茶を胃に流し込んでいた。

 

 ――また、来るんですかっ!?

 

 そう突っ込みたかったけど、誰も乗ってくれそうもないのでやめた。うそぉ……、こんな状況に置かれたら、私胃炎になっちゃいそう。だいたい、兄貴っ! なんで平気なのよっ!! こんな彼女がいたら、いつも緊張してバリバリに固まっていそうよ?

 いや……待てよ? 兄貴だって、今年成人式を済ませてる立派なオトナ。もしかして、この彼女とよろしく……してるのっ? そうなのっ!? やだ〜っ! 彼女と兄貴のムフフシーンなんて想像付かないっ!  うわん、それなのに、映像が回る〜どうしたのよっ、私はっ!

 

「えっ、えっとぉ〜、紅茶のお代わりいれてきますっ! ごゆっくりしていて下さいねっ!!」

 雑念を振り払うように、立ち上がる。重いティーポットを一瞬手から滑らせそうになって、ひやりとした。

 ああ、早く向こうに戻ろう。いや待てよ? こっちにいたら緊張感でいいダイエットになるかも知れないわっ……ごっちゃごっちゃに入り乱れる思考の交通整理をしながら。

でもまだ、私は頭の隅っこで、コレが夢の続きでありますように――と願っていた。

 

 

おしまい♪(040120)

 

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