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…After Storys, 1…
『もうひとつの夜』 その2

 

 

2002年9月1日(日)の夜…さらにつづく。

「あんっ…、やだっ、何してんのよ〜」
 首をちょっと持ち上げて、胸元を覗き込む。見てはいけないものを見てしまった。日和の胸を好き勝手にしている男が、頬ずりを繰り返してる。ちょっと変態的な行為に見えた。ものすごく恥ずかしい。
「う〜ん、気持ちいいよ〜日和ちゃんの胸の中。パフパフするともうたまらない感じ。いいな〜、やっぱある程度のボリュームはあった方がいいと思ったんだ。日和ちゃん、いつも胸の線ばっちりの服で誘惑してくれるんだもんな〜思わず飛び込みたくなるの、我慢するの大変だったんだから」
「や…やああっ! やめてよ〜もう、何考えてんのっ!!」
 必死で身をよじって逃れようとするのに、もう、がっちりと組み敷かれていてびくともしない。
「ふふ、さっきからいい感度してたもんな。こうしたら、どうなる…?」
「え…あっ!」
 蕾の周りのほんのり色づいた場所を丹念に中央に向かって舐め上げる。どろどろとした唾液が身体をつつっと流れていくのも艶めかしくて。もう片方は丹念に摘んでしごいていく。くるくるとやわらかく回してほぐすみたいに。
「やあ、あんっ…うっ…!!」
 やがて、全てを口に含まれて吸い上げられたとき、日和の口からは悲鳴にも似た喘ぎが漏れていた。

 本当は出したくなかった、だって、すごく恥ずかしい。感じていることを知られてしまいそうで。それなのに、止めることなど出来なかった。それだけじゃない。足の付け根の奥の方がもう、溢れてきたものでどろどろしてきている。やだ、もうどうにかしてっ!!

「無理すんなよ、可愛い声上げてみろよ…? その方がずっと気持ちよくなるぜ。俺の方も嬉しくなってなお、燃えてくるしさ…」
 そう言いながら、なおもせめたててくる。その執拗な動き。前後に揺れる身体に合わせて、太股に当たる異物感。それがあんまりに固くて、何なのか確かめるのも怖かった。
「あっ…、ああん…うんっ…はあっ…!!」
 身体に与えられる熱をどうにかしたいのに、その一方で背中を反らして胸を突きだして、求めてしまう。雄王の濡れたままの髪に自分の指を差し込んで抱きしめてしまう。もっと固いかと思ったその髪が信じられないくらいしなやかで指に絡みつく。
「いいよ、日和ちゃん。もっと感じてっ…もっと乱れて…」
 ぺちゃぺちゃと音を立てながら、頂を舌でつつく。
「ちょっとぉっ…! もう、嫌あっ! おかしくなっちゃう…やめて、頭が変になりそうなのっ!」
 出てくる言葉は涙声だ。頭の中で何かがはじけていく。自分の知らない部分をこじ開けられて行くようで。もうこれ以上の場所はないと思うのに、部屋は奥へ奥へと続いていく。
「そう言う言葉が出てくるウチはまだ駄目だろ? 余計なこと考えるなよ、気持ちよくなっちゃえよっ…!」

 こんなにしつこくされたら、本当にどうにかなっちゃいそうだ。背中に回った腕がどんどん降りてきて、腰に当たる。思わず、くねってしまう。こそばゆくて、どうしようもない感じで。

「ほーら、こう言うのはどう…?」
 耳元まで身体を押し上げて囁く。胸の頂の蕾を摘んだ両手が痛くないギリギリの感じでぎゅーっと引っ張ってくる。ひねりをくわえながら。
「あ、ああんっ…やんっ!!」
 身体がまたびくびくと揺れる。耳元の満足そうな笑い声。日和はもう半分身体が浮いてしまったようで、自制心がきかなくなってきていた。

 本当言えば。背中にも身体にも、あの男の付けた無数の暴力の後が残っていた。だいぶ薄くなってきたものの、気を失うほどに殴られたところは今でも押すと痛い痣になり、背中一面に裂けたような傷がある。力任せにベルトで叩かれた、その痕が幾重にも線を描いているのだ。
 誰にも見られたくないと思った。そんな中にいた自分を忘れたいと思っても、服を脱いで身体を見るたびに思い出してしまう。それなのにそのことすら、今は忘れかけている。自分が昔のままのきれいな身体で求められているような錯覚すら覚えてくる。そんなはずないのに…雄王の瞳にはどこまでも優しく熱い感情だけが宿っていて、それが嬉しくて仕方なかった。

 雄王の頭が胸を越えてするすると下に降りていく。すうっと寂しくなった上半身。荒い呼吸に胸が上下すると濡れた肌がひんやりと空気に触れた。まだ、じんじんしてる。感覚が残って漂う。雄王は日和の足元に回ると、足をぐっと開いてその中に入ってきた。日和は声にならない悲鳴を上げた。
 十分に潤って雄王を待ち望んでいる場所。そこまでは行かずに、太股に舌を這わせる。今度は腿で自分の顔を挟み込んでいる。この体勢が好きなんだろうか? 本当にずりずりと絶え間なく繰り返す…。

「…痛いっ!」
「え?」
 日和の意外なひとことに、雄王の腿を押さえる腕の力が抜けた。日和はとてもそっちの方を向くことが出来ずに、横を向いてかすれた声で訴える。
「髭が…当たるの。さっきも痛かったけど、…そんなにこすりつけないでよ〜!」
 腿がひりひりする。雄王の伸びかけた髭がそこら中にこすりつけられているから。必死の訴えに、しかし彼は軽く笑っただけだ。
「…今に快感になるって。こういう、甘噛みしたような痛みはもう気持ちよくなる材料なの。それよりさ、最高だよ、もう、日和ちゃんの足。きれいだよな〜ここなんか本当にきめが細かくて…すごくさらさらしてる…」
 そう言いながら腿に口づける。そこら中。吸い上げられて少し痛い。やがて彼はひときわ強く吸い付いてきた。
「…あっ…つっ…!! な、何? どうしちゃったの?」
 日和が思わず顔を上げると、世にも恥ずかしいアングルで自分の足の間から雄王のにやけた顔が見えた。ぼっと顔が熱くなる。
「ふふ、ここ。思う存分、味わうのが夢だったんだ…」
 さっき、吸い付いた場所を何度も何度も舐め回す。日和の右の太股の大きなほくろだ。ミニのスカートを履いたらぎりぎり見える場所。なかなかきわどい。
「やあっ…んっ…」
「やだな、恥ずかしがるなよ? もうさ、あんまり短いの履くなよな、知らないだろ? ジジィの教師まで日和ちゃんの足に見とれてやがんの、いい年してさ…。もう、男子生徒なんかあまりに刺激的で目をそらしていたもんね…」
「へ…?」
 知らない、そんなこと思っても見なかった。確かに自分でも脚のラインには自信があった。だから人に見せるのは楽しかったけど…?
「もう、バスタオル持っていって、見るなー!! って、巻き付けてやろうかと思ったよ。全くさ、悩殺するのは俺だけにして欲しいもんだよなっ…」

 そう言いながら、ちろっちろっと、だんだん舌が上がってくる。脚の付け根の方へ。そうなってくるともうそちらを正視することなど出来ない、日和はもう身体をシーツの上に投げ出して、ぎゅっと目を閉じた。艶めかしい感触だけが脳に流れ込む。見えてないのに、今、何をされているのかいちいち感じ取れるのだ。
 指は使わずに舌だけ。その刺激が日和の一番敏感な部分を割れ目に沿ってつつっと上がって、やがて宝物を掘り起こすように舌でつつきだしていく。多分、ふっくりと膨らみかけた小さな突起を。
「あ…、ふっ…!!」
 びくっと腰がしなる。でも腿をしっかりと押さえ込まれているからびくともしない。裏側からいきなり舐め上げられたのだ。もうたまらない。その一瞬の行為で、日和はあっと言う間に高みに押し上げられていた。

「は…はあっ…」
 ややあって、ようやく吐息が漏れる。もう、何やってるのよ、恥ずかしいじゃないの。日和がボーっとしているその刹那、動きを止めていた男がくすりと笑う。
「へえ、もうイっちゃった? やっぱ、女も裏側が弱いんだな〜ひとつ勉強になった」
「ば…っ!! 馬鹿っ!! もう、やだっ!!」
「赤くなっちまって…可愛いの。たまんねえな、もう…」
 自分の表情を覗き込まれているのが分かる。すごい、もう何を考えているんだろう、この男。
「日和…」
 涎だらけの口が、吸い付いてくる。それを素直に受け止める。一頻り、確かめ合う。下の方でどくどくと波打つ血管。その熱さを確かめている太い指。唇を解くと、満足そうに声を漏らす。
「すごい、もうずぶずぶ。入れていいよな?」
「う…やだっ、そのいい方。ひどい…」
「ひどくないぜ?」
 そう言いながら、ぐいっと腰を進める。あまりに固いものが入り口に当たる。久しぶりの感覚だ、どきんとする。受け入れようとしながらも、やっぱり怖くて。
「俺さ、嬉しくて仕方ねえんだよ? 日和っちゃんがこんな風に感じてくれて、俺のものになってくれるんだから…」
「も…もうっ…!」
 やめて、もう、そんないい方。何考えてんのよっ!! 卑猥なんだから…ああ、卑猥なことをしているのはこっちも同じなんだけど…。ぐるぐると考えながら、日和の方も混乱していた。でも、雄王が自分の中を少しずつ満たし始めると、もう余計なことは何も考えつかなくなった。

 どうして、こんなに…と言うような感触が自分の中を押し広げていく。今更、痛いとかそう言う感覚はない。あるのはただの挿入にあってもうのぼりつめてしまいそうな心地よさ。こすれながら入っていくじわじわという感触。すごく奥の方まで入り込んでくる。
「あっ…すげ〜…締め付けてくる。絡みついてくるんだけど…」
 そんなこと言わないで、そう言いたいのに。もう、下半身への感覚で体中が支配されている。全身で次の行動を待っている。その期待と不安が小さな振動になる。雄王の腕を掴んだ日和の手は小刻みに震えていた。
「う〜ん、日和。もう、最高にいいよ? 何だかあっと言う間にイっちまったら情けねえなあ…っ!」
 そう言いながら男の腰がリズミカルに動き始める。日和のことを考えながら、と言うよりは自分の感覚を求めているようだったけど。日和はそれでもどんどん満たされていった。
「…日和っ…日和ぃ…っ!!」

 雄王の首に回した腕が、絶え間ない振動を送ってくる。時々、苦しそうに呻いて、口づけてくる。胸を揉み上げて、吸い付く。その全ての行為に翻弄されていく。全てを任せて、そしてさらに高みに押し上げられる。額に髪が張り付いて雄王の肩にじんわりと浮いた汗の粒が流れていくのは分かった。クーラーを効かせたはずの部屋が息を弾ませている。荒い呼吸がどちらのものとも分からないほどに部屋の壁に響き渡っていく。

「ゆっ…雄王っ…! あん、だめっ…やあっ…!」
 ずるずると引き込まれる、あの引き潮の砂の上に足を置いた感覚。足の底が崩れて、引きずられていく…。
「ほらっ!! もっとだ、もっと滅茶苦茶になっちまえ、こうしたらどうだよっ!! ほらっ…!!」
 足を大きく開かれて、絶え間なく激しく打ち付けられる。雄王の身体から滴る汗。それが日和の白い肌に飛び散っていく。もうどれがどっちの汗なのか分からない。自分の中がぐちゅぐちゅと音を立てている。それが雄王に絡みついている。
「もう、だめっ…これ以上…あん、ああっ…!!」

 頭の中が全てショートした。真っ白になって、全ての感覚がなくなって。ああ、またのぼりつめてしまったのか、と思った。イクと言われる感覚だ、多分。もう、2度もこうなってしまうなんて…。
 朦朧とした頭が現実に引き戻されたとき、下腹部にはまだ、絶え間ない波が続いていた。
「馬鹿っ…!! もう、ひとりでイクなよっ! もう少し、付き合えよっ…!!」
「え…ええ? 嘘っ…!?」
 もう無理だよ、腰がガクガクでこれ以上は動けないっ! 日和にとって、自分がのぼりつめてしまったあとで、まだ行為が続くなんて経験はなかった。大体において、相手がイって終わり、と言うことがほとんどだったし。たまに自分が軽く一緒にイケるときもあったが、余韻に浸ることもなかった。そんなにセックスが好きではないと思っていた。

 身体を揺らす振動にまた身を委ねていく。今、もう全ての感覚がなくなったはずの場所が、また新しい刺激を覚えていく。もう自分がどうなってしまったのかも分からない。全身が違うものになってしまったようだ。愛させるだけのものに。
「も…ちょっと…、あ、もう…っ! 駄目だっ…!! 日和っ…!!」
 ぎゅうっと抱きすくめられる、腰の動きが止まる。日和はもう声を上げることすら出来なかった。でも全身がものすごい波にどっぷりと飲み込まれて、海底に引きずり込まれていく。それが恐ろしいほど心地よかった。

◇◇◇

「ひーよりちゃんv」
 ティッシュを貰ってお互いに後始末して。それで、本当はシャワーを浴びたいところだったけど、とてもそんな気力がなくて。けだるい身体をベットに横たえた。身体の節々が痛い。雄王の求める体勢ははっきり言ってかなりきつくて、無理があった。そして、雄王は当然のように裸のまま隣りに滑り込んでくる。
「…やだ、雄王、熱いっ!!」
 思わず、後ろに肘で突いてしまう。
 ただですら体温の熱い男が、激しく動いたあとでさらに上昇した感じ。浅黒い肌が赤く火照っていて、汗だってぬるぬるしてる。それなのに、腕を回して抱きすくめてくる。真夏のダブル毛布のようだ、我慢大会じゃないんだから…!!
「冬になったら、俺なしじゃ眠れなくなるんだから。今は我慢しなさい」
 そんなどうにもならないことを言って、すり寄ってくる。ムッとして顔を上げたら、すぐに口を塞がれた。また新しく確かめ合う。ひんやりしていた筈の口内はまた熱いもので満たされていく。

 あまりにのどが渇いたので、さっき瓶のお水を飲んだ。あれ以来怖くて、開けた瓶は飲みきるようにしている。おなかががぶがぶになって途中でやめたら、それを雄王がすっと手にして奪い取った。日和が口を付けて飲んだ瓶をそのまま飲み干す。そんな当たり前の行為が恥ずかしかった。

「日和ちゃん、身体固いよな、どうにかしないと…」
「へ…?」
「足を上げるたびに叫ばれて、参ったよ。もう、これから毎晩、柔軟体操するからな、エッチなことを極めるには身体のやわらかさも不可欠なのっ!」
「え? ええっ!? …なによぉ、そんなのしなくていいもん、極めなくていいもん」
 日和がぶるんぶるんと首を横に振る。何なんだ、自分が身体のかたいのは小学生の頃からなんだもの。今更どうこういわれたって困るんだからっ!
「駄目〜日和ちゃんは良くてもね、俺は嫌だ。もう、予習だけはバッチリなんだから、やりたいこといっぱいあるんだ〜楽しみだな〜!」
「よ…予習っ!?」

 あの大量のえっちビデオとものすごい写真集のことかい? そんなのと一緒にされてどうするのよっ! 向こうは商売なんだよ? こっちは素人なんだからっ!!

「あ〜もう、最高だったなっ! 日和のよがった顔、すげーそそられんの。独り占めして最高の気分っ!!」
「やあだっ!! …もうっ!!」
 がばっと起きあがった。だるいとか、もうそんなこと言ってらんない。タオルケットを身体に巻き付けると、雄王を乗り越えてベットを降りた。
「信じらんないっ!! 雄王、もう、嫌いっ!! どうして、そう言ういい方すんのよっ!!」
「ええ〜日和、その格好でどこ行くんだよ〜〜」
「私っ、ソファーで寝るっ!! やだ、もうデリカシーのない男っ!!」

「馬鹿っ…行くなよ〜〜!!」
 腕を取られて、後ろから雄王の膝に倒れ込む。ぎゅっと抱きすくめられると、はらりとタオルケットが落ちて胸がはだける。腰の下の辺りで、固いものがむくむくっと持ち上がってきた。ぎょっとして振り向く。雄王が照れ笑いして、口づけてきた。
「…ちょっかい出してきたのは、日和の方だからな。きちんと責任取って貰うぜ?」
「え…? ええっ…!? ちょっとぉ…!! 嘘でしょっ!? 明日、始業式で…あのっ…!?」
 ためらっている間に、さっさとシーツの上に倒される。唇を塞がれながら、胸を揉まれる。思わず、喘ぐ声が漏れてしまう。
「授業がなけりゃ、そんなに大変じゃないの。ほら、暴れなければ、すぐに終わるって。大人しくしなさい」
「や、やだ〜〜〜っ!!」

 その時。きちんと時計を見なかったけど、だいぶ夜が更けていたと思う。もう、その後、自分がいつ寝たのか記憶もさだかではない。ちょっと、選択を間違ったのだろうか? 頭の隅でそう思ったが、すぐ次の瞬間にとてつもなく心地よい快感の波に飲み込まれてしまっていた。

◇◇◇

「日和ちゃん、朝っ!! 遅れるぞ〜〜〜!!」
 あんまりにけだるい目覚め。身体が布団に沈んでいくように重い。すでにシャワーを浴びた雄王が、水滴を飛ばしながら揺り起こしてくる。
「き、きゃああっ!! どうして7時なのよっ!!」
 慌てて身を起こす。当然だけど、何も身に付けてない。ぼぼっと顔が熱くなる。慌てて、タオルケットを巻いた。
「…何だよ、今更隠すこともないのに…」
 雄王がくすくすと面白そうに笑っている。
「俺が起きたときも、起こしたんだけどさ。また寝ちまったんだな〜〜、本当に寝起きが悪いんだから、日和ちゃんは…」
「誰のせいだと思ってんのよっ!?」
 腰がガクガク痛い。立ち上がると膝もまっすぐにならない。なんともみっともない姿勢で、バスルームに飛び込んだ。次の瞬間また、叫び声を上げる羽目になる。

「きゃあああっ!! 何よぉ? これっ!!」
「あ〜ん?」
 半開きのドアから、雄王が覗いてくる。慌てて、折り戸の向こうに滑り込んで首だけ出す。
「脚っ…すごいのっ!! 膝から上…あのっ…!!」
 他の部分はそうでもない。でも太股の部分だけ、表も裏も…あの、これはいわゆる…キスマーク? こんなにあったら、長いスカートかパンツをはくしかないじゃないのっ!!
「もうね、日和は俺以外の男に脚を見せつけちゃ、駄目なの」
「えええ、何よっ! それ…」
 まさか、確信犯? ちょっと、ひどいよ。何枚も持ってないんだからね、長い奴…。ワードローブを頭に描きながら、大慌てでシャワーを浴びた。

◇◇◇

 バスルームから飛び出すと、リビングのテーブルではゆったりした感じで雄王がコーヒーを飲んでる。一応、日和の分もいれてくれてある。でも、もう、どう見ても朝ご飯を作る暇なんて、ないよお〜冷蔵庫の中身っ!!
「日和っちゃん…」
 雄王が楽しそうに笑ってる。そして、日和の頭の中を覗いたように言う。
「冷蔵庫、空にならなかったから、今夜もちゃんと来るんだよ? 分かってるだろうね?」
「えっ…?」
 日和は思わず息を飲んだ。
「ほらほら、時間。あとで迎えに行くから、とにかくアパートに戻って着替えて…」
「ちょっとぉ!! …ねえ、もしかして。そう思って、起こさなかったんじゃないでしょうね!!」
「さあね〜」
 ああ、もうちょっと、何か言ってやりたいっ!! でもっ…時間がないっ!! にやにやとこちらを見ている男をキッと睨んで、生ぬるいコーヒーをがぶ飲みする。それから、ばたばたと玄関まで行ってサンダルを引っかけた。そして、くるんと振り向く。
「じゃあっ! …行ってきますっ!!」

 そう言い捨てると思い切りよくドアを開ける。そして、生乾きの髪を朝の風にはためかせながら、一目散に外階段を駆け下りた。

このお話はおしまい。(020929)

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