……梨花ちゃんと聖矢の「その後」のお話
怒濤の?バーベキューを無事終えたあとのクリスマス
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「24日はとにかく厚着をしてきて。これでもかってくらい着込んで、完全防備で頼むよ?」 丁度イヴまでひと月になった頃、彼から今年のクリスマスの話を切り出された。イヴの24日の夕方からその翌日の25日の昼過ぎまでを空けておくようにっていうのは、その前から言われていたから大丈夫。でも、……完全防備って、何? その頃にはさすがに私もギリギリの感じ。これ以上話題が出なかったら、自分でどうにかしなくちゃと思っていたの。この不景気で、以前のように「半年前から予約しないと、人気レストランはどこも満杯」ってことはなくなったけど、それでもみんなが殺到するところって決まってるから。 うーん、何だろう。 聖矢くんは不思議そうに覗き込む私を瞳に映しても、やっぱり余裕の微笑み。この頃はいつもそんな感じで、ひとりきりの秘密を楽しんでる。きっと彼なりに、きちんとした考えがあるんだろうって思うけど……でもね、ちょっと口惜しいわ。
やっぱり、他とは違う特別の一日だと思う。 恋人たちのイベントは、一年を通して数え切れないほどあると思うわ。お正月の初詣から始まって、バレンタインにホワイトデー。さらにお花見にGWに夏休み……それに合わせてスケジュールを組むだけで、結構予定は埋まっちゃう気がする。 端から見ていた頃には「よくやるなあ」なんて思って白けていたけど、コレが自分のことになると全く考え方が違ってくるのがおかしい。クリスマスイヴの24日と翌日の25日。続けてスケジュールを空けるために、何ヶ月も前から調整した。わざわざ既婚者の多い仕事場をバイト先を選んだりしてね、その点はぬかりないの。もちろん販売関係もアウトね、丁度かき入れ時になっちゃうから。
―― じゃあ、本物のイヴはどうするのかしら? 多分この場所は最後のお楽しみに取っておくんだろうなと思ってたアミューズメントパークの中庭を歩きながら、私はこっそりと隣を歩く彼の横顔を盗み見た。絶対「切り札」はここだろうって思ってたから、友達に何度誘われても断ってたんだよ。だって、やっぱり出来ることなら最初の感動を一緒に味わいたかったもの。え? ここじゃなかったらどこなの? って、実のところ今の私はかなり混乱してる。 「うーん、さすがに金かけてるなって感じだね。一週間前でもコレなら、クリスマス・イヴの当日はどうなるんだろう。正月三が日の初詣のように、もみくちゃになりそうだなあ」 夜空を覆い尽くしそうな光の天井。それを見上げながら歩くから、しょっちゅう前から歩いてくる人にぶつかってしまう。 当然のことながら、すれ違う人のほとんどが若いカップル。たまにびっくりしちゃうくらい露出度の高いワンピを着ている女の子とかいて、どっきりしちゃう。大丈夫かなあ、風邪ひいちゃうよと心配になるけど、本人は結構平気なのかも知れないわ。 ―― でも。 厚着だなんて、そんなの困るわ。当日のために何枚かのワンピースを見繕ってあるんだけど、どれも膝丈のノースリーブばかり。いくら襟ぐりや裾、袖口にファーがあっても、防寒の役目はほとんど期待出来そうにない。でも……タートルのニットにパンツの普段着じゃ、とてもクリスマスとは思えないわ。もうっ、聖矢くんは何を考えているのかしら。 手袋を片方だけ外して手を繋いでる。どちらともなく決めた、今年冬定番のやり方だ。去年の冬はふたりとも大学受験の追い込みの真っ最中。全世界が盛り上がるイベントに便乗出来るはずもなく、参考書や問題集とにらめっこのイヴだった。 鼻歌混じりに無数の光を見上げている横顔。じっと見守りながら、絡めた指先に力を込めた。
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指定された時間は、お昼ご飯が終わってすぐ。 待ち合わせ場所、笑顔で私を迎える彼はいつもと同じ笑顔だった。だけど、私の方はすぐにはそれに応えることが出来ない。その場にぼんやりと立ちつくしていると、聖矢くんの方がこちらに近づいてきて、私の手からバッグを取り上げた。 「車……で、行くの?」 トランクを開ける彼に、ようやくそう声を掛ける。だって、だって。ちょっと想像しなかった。泊まりの予定があるなら、少し遠出になるのかなとは思ったけど……いつものように電車とか使うんだって思ってたし。 「うん、その方がアクセスが楽だから。親父の車を借りてきたんだ」 どうぞって、ドアを開けてくれるのはごくごく普通の白い乗用車。ええと、セダンって言うんだっけ。促されるままに助手席に座っちゃったけど、これって初めての経験だ。聖矢くんとは一緒に合宿所で免許を取ったんだけど、それ以来ハンドルを握っていることすら知らなかったわ。 「ええと……、お父さんの車を借りちゃって大丈夫なの? お家の人たち、困らない?」 エンジンを掛けて、ミラー確認。サイドブレーキを解除して、方向指示器を出して。結構手慣れてる感じで、ちょっとびっくり。聞けば実家に戻るたびに乗り回してたっていうじゃない、そんな話聞いてないのに。 するすると滑らかな車線変更。進行順路を教えてくれるカーナビが、高速までの道行きを示している。 「あの、もしかして……スキー場?」 方向から考えてそうかなとふと思いついた。この頃ではみんなの予定が合わなくなってご無沙汰だけど、ちっちゃい頃はレジャー好きのパパに連れられて、夏は海や山に冬はスキーへと頻繁に通ったっけ。何だか懐かしいなあ……。 「ふふ、駄目だよ。内緒だって言っただろ? そうやって、色々訊ねるのは反則。目的地に着くまでは楽しみに待っていて」 そう言いながら、すごく楽しそう。もう、何なの。聖矢くんってば、本当に子供みたい。もうこのところはずっとうきうきそわそわして、私はすっかり置いてけぼりになってるわ。 「―― あ、そうだ」 これ、よろしくねってお財布を私の膝に乗せて。それから思い出したように訊ねてくる。もちろん、視線は前を向いたままだけど。でも、こうやって運転しながらおしゃべり出来るって、すごい余裕だなとか思うわ。 「今日、梨花ちゃんをお借りしちゃって、家の方は大丈夫? お父さんとか、さすがに怒ってないかなと不安なんだけど」 パパの名前を告げたところで、少しだけ緊張したみたい。ふふ、そうよねえ、夏のバーベキュー。あれ以来、聖矢くんはパパと会ってない。一度ウチに立ち寄ったことがあったけど、あの時はパパの方が会合で外出中だったのよね。たしか、免許の合宿の帰りだったっけ。 「あ、……それは全然平気なの。だって、今夜はふたりとも、取引先のご招待で神戸に行っちゃってる。向こうで泊まるって言ってたわ。何かのイベントに出席するんだって」 やっぱ、気になっていたんだろうな。私の返事を聞いて、聖矢くんの肩の力が抜けた気がする。 うーん、最初から教えてあげても良かったんだけど、でも聖矢くんもやたらと色々今日のことを秘密にするし。そうなってくると私の方も、意地悪したくなっちゃったのよ。……ちょっと、可哀想だったかな。 パパたちの予定はもう何ヶ月も前から入っていた。でも、クリスマス間近だったら、お店の方だって忙しいでしょう。パパのやってるのは雑貨屋さん、ちょっとしたプレゼントにはもってこいの品物が揃っているんだもん。 「ふうん、クリスマスにご夫婦で出掛けちゃうなんて、さすがだね」 カーステから流れてくるクリスマス・ソング。もしかしてこれも演出のひとつ? フロントガラスの端っこには小さな小さなクリスマスリースがくっついていて、その他にもクッションとか足置きのマットとかがさりげなくクリスマスっぽくなってる。やだなあ、こんなのまで揃えたのかしら? お家の方が変に思わなかったかな。 「4時間くらい掛かるから、何だったら寝てていいよ」なんて言われたけど、それどころじゃないわ。あまりかしこまってると、運転に不安があるように思われて良くないかな。でもでも、こうやってふたりきりで車に乗ってるのってすごく不思議な気分なの。何気ない会話も、いつもよりももっとくすぐったい。
雪の国までの距離を示す電光掲示板。その隣に、今夜の天気がチカチカと点灯する。うーん、やっぱスキーなのかな。そんな風に考えながら、窓の外を見たら。ちらちらと粉雪が舞い降りてきた。
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インターを降りてから暫くは、静かな山道をなだらかに上っていた気がする。スタッドレスのタイヤに履き替えてきたから平気だよと言われても、やっぱり少し不安。だって、聖矢くんはまだ若葉マークでしょ? 高速でもちゃんとスピードを出してるから、こっちの方がドキドキしちゃったわ。 ようやく辿り着いたのは、山裾に建つ小さなロッジ風の建物。夏だったら高原のペンション……って感じかな。でも真冬の日没後は何とも寒々しい。かろうじて庭中にクリスマスのイルミネーションが飾られていて、お祭りムードを匂わせてる。もしかして、今日はここに泊まるのかしら? すでに何台か車が止まっていて、どれも首都圏のナンバー。お客さんは他にも何組かいるんだ。ちょっと意外。 「荷物をフロントに預けたら、少し歩かない? その間に夕食を準備してもらおうよ」 聖矢くんの言葉に一応頷いて見せたけど、内心は少し嫌だなと思っていた。 だって、外はちらちらではあるけれど雪が落ちている天候。しかも辺りは真っ暗で、灯りもぽつんぽつんって頼りない。これで綺麗なイルミネーションの中を歩くとか言うなら、ロマンチックだと思うよ? でも、ここは本当に何にもない場所なんだもの。 一体、どうしてこんなところまで来たの? うっすらと降り積もった雪のすぐ下は土。とてもウインタースポーツを楽しめる感じじゃない。雪は降る、でも観光にはならない中途半端な土地というイメージ。私、ずっと期待してたのに。すごく楽しいことが待っているに違いないって。そりゃ、聖矢くんが連れてきて暮れた場所なら、どんなところでもいいと思うけど……けど、これはあんまり。 それなのに聖矢くんと来たら、ふて腐れた私にも全然お構いなし。建物の裏が遊歩道になっているんだって言って、どんどん歩いて言っちゃう。しかもその手には、フロントで借りた懐中電灯。色気も何もあったもんじゃないわ。
「え……、これに乗るの?」 やがて、小さなトタン屋根の小屋にたどり着いて驚く。ええと、……そこにあったのは二人乗りのリフト。スキー場でよく見かけるアレだ。他に待ち人もいない中で、タバコをくゆらせていた作業服のおじさんに聖矢くんはチケットのようなものを差し出した。 「どうぞ、ごゆっくり」 そんな声に見送られながら、坂を上っていく。きっと晴れていれば綺麗な星空が見えるんだろうな。けど暗闇にいくら目をこらしてみても、白い粒になった雪がはらりはらりと舞い降りてくるだけ。もちろん、周りも真っ暗。眺めを楽しむって感じでもない。こんなところ、上っていったってただの暇つぶしにしかならないよ? 「ここ、昔は普通のスキー場だったんだって。だんだん雪が少なくなって、とうとう経営が成り立たなくなったらしいよ。だから、こんなのが残ってるんだね」 聖矢くんの説明に、なるほどと思う。そうか、地球温暖化現象ってやつね。私たちの親の世代は今よりももっともっと冬が寒かったって聞いてる。関東の南の方でも何センチもある分厚い氷が張ったり、つららが出来たり。雪だって車が走れなくなるくらいのが、一冬に何度も降ったって。 そんなことをぼんやりと考えているうちに、終点。そこにもやはり警備員の人が待っていて、降り口へと誘導してくれた。 山頂の建物を出ると、進行方向の矢印の看板が目に入る。細い道を林沿いにしばらく進んで、急に目の前が拓けた。
「……あ……!」
その瞬間。思わず、かすれた声で叫んでいた。だって、……これは何? 山のてっぺん。たった一本の大木にがキラキラと輝いている。真っ暗闇の中、そこだけが昼間のように明るく照らし出されて、色とりどりの電灯が点いたり消えたりしていた。ええと……一体何メートルあるんだろう、この樹。ちょっとしたビルくらいはありそう。まあ、そこのところは比べる対象がないから何とも言えないけど。 「ふふ、驚いてくれた?」 そうやって訊ねる聖矢くんも眩しそうに目を細めてる。飴色の輝きが辺りを染め上げていた。よく見ると、樹の周囲には他にもちらちらと人影が見える。みんな突然現れた光の大木を息を呑んで見上げていた。 「スキー客が来なくなって、地元の観光協会もどうしようかと思ったんだって。それで、こんな企画を思いついたらしいよ。クリスマスシーズンだけの期間限定のイルミネーション。10年くらい前からやってるらしいけど、口コミで今では随分広まってるんだって。リピーターも多くて、毎年のように訪れている人たちもいるって聞いたよ」 実は先ほどのペンションは聖矢くんの大学の友達の実家で、この話を入学当初に聞いたときから今年の予定を決めていたんだというから驚き。ずっとずっと内緒にして、私をびっくりさせようとしていたんだね。本当、今年見たどのクリスマスイリュージョンよりもすごいよ。あんなにたくさん眺めて来たのに、それでも今夜のこの場所が一番素敵に見えるなんて。 「そう……なんだ」 もっと気の利いたことが言えればいいのに、私と来たらただただ呆けるばかり。せっかく色々準備してくれたのに、これじゃあ申し訳ないね。上手く言葉がつなげなくて、また押し黙ってしまう。そしてしばらくはまた、目の前の樹をふたりで眺めていた。やっぱり、片方だけ手袋をはめずに手を繋いで。白い息がふたりの周りに舞い踊ってやがて闇に消えていく。 「……嬉しいな」 ぽつりと、そんな言葉が唇からこぼれた。頭で考えたのではない、心からそのまま溢れ出た音。よく分からないけど、……それでもこうしてふたりで同じ輝きを見ているこの瞬間が幸せだと思った。 「梨花ちゃん?」 こつん、って額の触れ合う音。優しい光に照らされた瞳が、真っ直ぐに私を見つめてる。視界で確認した訳じゃないけど、くっついたおでこと指先と、そこから聖矢くんの想いが全部伝わってくる気がした。 「……キスして、いい?」 きっと俺たちのことなんて、誰も見てないから。そう言われたけど、やっぱり恥ずかしい。視線を足下に落としたままで小さく首を横に振ると、彼はわかったよって言うかわりにくすっと笑った。 「じゃ、……このまましばらくこうしていようか?」 頷くかわりに、指先を深く深く絡ませた。 知らないうちに涙が溢れそうになる。すぐそばに、目の前にいる聖矢くん。ぎゅっと抱きつきたい気持ちを必死で抑えた。そんな風にしたら、きっとこの想いが止まらなくなる。こんな風に私をいつも優しく包んでくれる彼を、一時も離せなくなってしまいそうな自分が怖い。誰かを好きになる気持ちの奥深さを知るたびに、私はまた臆病になる。 遠い空の上。どこからか鈴の音が聞こえた気がした。こんな風に静かに伝え合う気持ちを与えてくれた神様に心から感謝したいと思う。広い心を持つその人は、きっと今も遙か上空からたくさんの人々を見守っているんだ。 ―― 時間が、欲しいと思う。 これだけ与えれば十分じゃないかと思われそうだけど、私と聖矢くんがゆっくりと近づいていくためにはもっともっと長い時間が掛かりそうな気がする。まだまだ足りないものだらけで泣き虫な私だけど、聖矢くんとずっと一緒に歩いていくための勇気をこの腕に抱え続けたい。こうして共有する大切な時間を得るために私は毎日を生きている。ずっとずっと、そんな風に過ごしていきたいな。
ふわりと吹き込んできた風に、粉雪が舞い上がる。一瞬唇に舞い降りたひとひらが、かすかな余韻を残して消えた。
*** *** ***
そして案内された部屋。アイボリーとココアブラウンでまとめられた内装も屋根裏部屋のように斜めになった天井も天窓も、まるでずっと昔から住んでいる場所のように馴染んだ。
「共同風呂だけど、温泉になってるんだって。すごく暖まるらしいから、入りに行こうか?」 曇ったガラス窓を指で拭って、外を眺めながら聖矢くんが言う。こんな風に彼の部屋以外の場所に泊まるのは、夏の免許合宿以来だ。ふたりで過ごす夜ももう当たり前になったのに、こうして場所が変わると妙に落ち着かなくなるのはどうしてなんだろう。 「ええと、……その。その前に、いい?」 いつ切り出そうか、ずっと迷っていた。なかなかタイミングが掴めなかったけど、今がチャンスかも。これを逃したら、明日の朝まで一気に進んでしまいそうな気もするし。 「これ、気に入ってもらえるか分からないんだけど……」 ブルーの包み紙に銀のリボン。小さな箱をおずおずと差し出した。彼も多分期待していたんだろう。そう驚いた様子もなく、受け取ってそのまま包みを開いてくれる。 「へえ……何か意外。でも、とても綺麗だね」 プラチナのデザインチェーン。男の人にもかろうじていけるかなっていうギリギリの感じだった。小さなプレート付きで、そこにローマ字表記で名前と血液型が彫り込まれている。ついでに贈り主である私のイニシャルも。 「あのね、実はお揃いなの。このデザインなら、他のネックレスとかを一緒に着けてもうるさくないし……これならずっと一緒にいられるかなって」 タートルのセーターの襟元から、自分の分を引っ張り出す。携帯ストラップとかブレスレットとか、他にも色々候補はあったんだけど、結局はこれに落ち着いた。男の人でもね、さりげなくこんなお洒落なら許されると思ったんだ。 「そうかあ、ありがとう。嬉しいよ」 聖矢くんはにこにこしながら何度もチェーンを眺めたあと、コートのポケットを探って包みを取り出す。こちらは赤とグリーンの正統派クリスマスカラーだ。やはり平べったい箱。 「本当はね、……もっと大きいのがいいなと思ったんだけど、なかなかコレって言うのがなくて。だから、とりあえず保留で」 出てきたのはやはりプラチナのチェーン。でも先にペンダントヘッドが付いてる。小さな……ベビーリング。ころんと小さな石は、濃いブルーのサファイヤだ。 「何となく誕生石がいいなと思ったんだけど、やっぱり梨花ちゃんの好みが分からないと決められなくて。だから、それは……またいずれ、ふたりでじっくり選びに行けばいいかなって思ってね」 ふいにきゅっと握り取られた左手は、何かを暗示していたんだろうか。そこにはまってる、いつかのリング。彼がいつも気にしてるのは知ってた。すごくすまなそうに見つめる視線。でも私は全然平気だよ。聖矢くんの最初の贈り物はいつまでも特別。どんな高価なジュエリーでも、ぜったに敵わないの。 「メリー・クリスマス、梨花ちゃん」 かすかに聞こえるのはクリスマスソングのオルゴール。それに乗せて歌うようにそう告げた聖矢くんが、私をそっと抱き寄せる。他に誰もいないふたりきりの空間。お互いの心音を確かめるには、やっぱりこんな空間がいい。 待ちこがれたキスを受け止め合って、それからゆっくりとベッドの上に崩れていく。ちらりと覗いた襟元に、お揃いのチェーンを見つけて、私は彼の首に腕を回すと強く強く抱き寄せた。たったひとつ、最後に残る祈りを願いながら。 ―― このぬくもりが、永遠に私の元に戻ってきますように。
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