2002年2月14日にお遊びでUPしたバレンタイン小話。 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ 今年一番の寒波に見舞われた日本列島。それはここ、東京の郊外、高級住宅地も例外ではない。
目の前の美少女はその顔を上げると蜜柑の籠の上を経由して手を差しだした。 「はい、朔也。バレンタイン、おめでとう」 期待はものすごくしていたが、実際に目の前に出されると緊張する。 「…もしかして、手作り、とか?」 「あ、今、ものすごく嫌そうな顔したでしょう? いいわよ、いらないなら返して! これは他の人にあげるから!」 「…そんなことないけどさ〜今までの経験上、チョコは市販品の方がおいしいんだよな…」 取り戻すことが無理だと悟った咲夜は、そのままぷいと横を向いてしまった。そして口惜しそうに呟く。 「…せっかく人が3日がかりで研究したのに…失礼しちゃうわ…」 それでも一籐木のお嬢様がチョコレートと格闘していたと思うと、微笑ましく思えないこともない。普段、料理らしい料理を作ったことがないと言うからなおさらだ。朔也は知らないうちに頬が緩んでしまう。 「さ〜くやちゃん♪」 「なんでしょうか? さくやくん」
実のところ、2次試験はかなり厳しい。合格が出ている咲夜とは天国と地獄の距離がある。こんなところで油を売っていていいはずないが、とりあえず家庭学習期間だ。平日の日中に一緒にいる。 いつもは惣哉の策略でなかなか2人きりになどさせて貰えないが、今日は「ちゆ先生」のマタニティー講座の日だと言って、愛車で出掛けてしまった。自分が咲夜の警護をしていることはすっかり忘れている。 どうするんだ、惣哉。息子に着せるのかそのワンピース。おカマを養成か!? 気のせいか、この所、ちゆ先生の髪が薄くなった気がする。気のせいだといいのだが、さだかではない。
ただ、惣哉が留守だとは言っても、お手伝いさんの幸さんが30分おきにお茶のお代わりを聞いてくる。やはり伏兵はいるのだ。幸さんは忍者のように忍び足でいきなりふすまを開けるので侮れない。
「僕さ〜どうせなら、チョコよりリボンを付けた咲夜が欲しいなv」 ばしっ! 咲夜はいやらしい動きでまとわりついてくる手をきっぱりと払いのける。 「…そう言うことはまずは、合格してから、言っていただきたいものですわ」 でも今更、それぐらいでひるむ朔也ではない。 「え〜じゃあ、合格祝い? ホント?」 「…そんなこと、言ってないでしょう!?」 「ねえ、指切りしよ! 約束やくそっく〜」 「…しません! まずはその山のような数学の課題をどうにかしなさいよね!」 咲夜が来るたびに確実に増えていくこの課題。確かに朔也もせっせと片づけるのだが、…いっこうに減らない。 「誕生日のプレゼントでもいいからさ〜」 「私たちの誕生日は次は再来年です! 今年はプレゼントなしなの! …きゃあ!」 がばっ! 後ろから抱きつく。そこまでは考えてなかったらしく、咲夜はバランスを崩して背中から倒れ込む。 「離しなさいよ〜! 何考えてるのよ、野蛮人!!」 …とか言いつつ抵抗しないじゃん。すうっと顎の下をなでると、首をすくめる。少し怯えたような瞳がそそられる。ちょっと口は悪いけど、やっぱり可愛いんだよな、このお嬢様。 「は〜い、息抜きにちょっとだけお味見ね〜」 朔也は笑いたいのを堪えながら、そっと顔を近づける…。
「ただいま〜!! ケーキ買ってきたよ〜食べよ!!」 勢いよくふすまが開いて、「おなかにスイカを入れてみました」状態の千雪が叫んだ。 「あららら…」 惣哉はまだ、車を片づけているらしい。さすがに状況を把握した千雪は一瞬ひるんだが、すぐにっこりと微笑んだ。 「駄目だよ〜朔也君。こう言うときは鍵を閉めなくちゃ…」
外はさらさら粉雪。白い雪の向こうに秘められた物語が静かに眠っている。でもそれはそれ、これはこれ。 東城家特製の客間にで〜んと設置された掘り炬燵で、こんな感じの2月14日。
2002年2月14日(7月25日再編集)
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