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「海底国はどこにあるのか」
八百八橋様

昨年頂いてあって、発表がすっかり遅くなってしまいました。
読者様のおひとり八百八橋様より、興味深い検証文が寄せられました。
お年賀にかえて皆様にお楽しみ頂こうと思います。

全くの空想の世界である「海底国」ですが、お読みになって下さる皆様がとても素敵に思い描いてくださるので私はもうやることがない感じです(笑)。それではごゆるりとどうぞ。

◇◇◇

 

 秘色の語り夢シリーズの舞台である海底国はどこにあるのか?物語のあちらこちらにヒントとなるカギがあるので、海底国の位置を推定してみます。

 

1.集落

 海底国にはどんな集落があるのでしょうか?

 まず、竜王が住む、都(竜王の館)があげられます。

 都の他に二つの大きな集落があります。物語の流れの上で欠かせない「西南の集落」。この集落は亜樹、雷史、秋茜、余市の出身地であり、「玻璃の花籠」の舞台です。そして、もう一つの狂言回し的存在の集落が多奈、多尾の多の一族、青汰、瑠璃の青の一族の住む「北の集落」です。物語の舞台としてはほとんど出てこない「北の集落」ですが、多彩な登場人物を供給しています。

 柚羽は西南の集落出身ですが、西南の集落から3日かかる、かなりの田舎から出てきています。このことから、海底国にも首都圏、大阪圏、名古屋圏などと同じような「都市圏」とでも言うべき各集落の勢力範囲があり、柚羽は名古屋に対する木曽地方のような田舎から出てきているのであろうことがわかります。

 他の集落としては、満鹿の出身地である玻璃の産地「南峰の集落」、余市が反乱の鎮撫に遣わされた「西の集落」、そして「離の集落」、「瀬の集落」、「杜の集落」等の名前が出てきます。

 秘色の語り夢…沙羅の章のその三に『この地には竜王神殿の他にいくつかの庶民の住まう集落が点在している。その一番大きなものが「西南の集落」であり、追随しているのが「北の集落」であった 。』という記述が見られますし、傾…君の夢まで・1のなかで多岐が『他にもあまたとある集落の大臣家や長の家に嫁ぐというのが妥当だろう。』と言っておりますので、他にも多くの集落があるものと推測できます。

 

2.都の位置

 まず、他の集落との位置関係は考えずに都の位置を知る手がかりとなる記述を拾ってみましょう。

 まず、大まかな記述から拾ってみます。秘色の語り夢…沙緒の章、番外編・氷月夜に『海の、陸の人間が「深海」と呼ぶ水底に広がる「海底国」』とありますので、かなり深いところにあるのではと推測できます。ところが秘色の語り夢…沙緒の章・参において『今夜は満月にほど近いらしく、竜王の庭は月明かりに満たされていた。』という記述が見られます。月の光は思ったよりも弱く、水深が20mもあると届きません。ですから、海底国は全体としては深海にあるとは言うものの、都自体はかなり浅いところにあると思われます。

 玻璃の花籠・1の『国のほぼ中央に位置する御館に住まう「竜王様」』、「春の輪郭」中の『海底の国の中央より北側に位置する「竜王の御館」。』、沙羅の巻の3『東の庭の果てには海流というものが流れ込んでおり、陸上での季節の移ろいに合わせて微妙にこの地の気温(水温と言うべきか?)を変化させていた。』などという記述より、国の中心に位置するとともにやや北方であること、東の庭先には海流が流れていることがわかります。

 さらに東の祠の裏に「陸への通用門」があることから、都の東側には陸地があるものと考えられます。

 次に陸への通用門からでた陸上の様子です。沙緒の出身地であり、沙羅の巻において数章に渡り舞台ともなった岩守医院のある村は『50mくらい歩いた小高い丘の上から辺りを見渡す。左手側は視界に入りきれないほどのなだらかな海岸線がずっと遠くまで続いていた。もう一方は急な岸壁になっている。切り立った崖のすぐ下は同じ海とは思えないほどの荒々しい波が砕けていた。』、『「丁度この辺りで潮の流れが変わっているんですって」』、『「なだらかな海岸と濁流の巻く岸壁しかない。船を出そうにも出せないから、海があっても産業の糧にはならないって、お年寄りたちが言っているわ」』といった記述から、遠浅の海岸と崖が混在する海岸線を持つ地方だとわかります。さらに、岩守渓の沙緒にたいするせりふ『「とうきょうに…昭にいちゃんがいるんでしょう? きっと助けてくれるよ! あんな奴のところにお嫁に行っちゃ、駄目だ!」』から、都会に出るなら東京であって、大阪や名古屋などではない地方であることがわかります。

 さて、このキーワードから都の位置は推定できるでしょうか?注目すべきなのは海流です。日本をとりまく海流は黒潮、親潮、対馬海流の三つです。このうち、親潮のみが寒流で、黒潮と対馬海流は暖流です。東の庭先に流れ込む海流が季節によって温暖を変えることから、冬は寒流、夏は暖流にさらされる海域ではないかと思われます。また、渚のせりふに『「丁度この辺りで潮の流れが変わっているんですって」』とありますから、潮目があるのではないかと推測されます。日本海側は対馬海流が北海道の北の端まで流れているので潮目はありません。このことは都は太平洋側にあることを示します。

 太平洋側では親潮と黒潮の潮目は夏は宮城県の金華山沖、冬は千葉県の銚子沖にあります。捜索範囲はこれによりせばめられ、都はこのあいだの海岸線に近い位置にあると思われます。ところが太平洋岸は東に海があるので、西側に都とその周辺が入る程度の広めの海がある陸地(都の東側に陸地がある)は限られてきます。実際の所、この条件に当てはまるところは牡鹿半島しかありません。岩森医院からバスで一時間で総合病院のある市(石巻市)までいけること、単線(JR石巻線)の鉄道駅が近くはないがあること等から、「都は石巻市と牡鹿町の市境の近辺」の沖合いにあるのではないかという推測が確度が高いと思われます。。

 この推測を検証してみましょう。この海域は夏は黒潮にさらされるため、比較的暖かですが、秋から春にかけては親潮の影響で寒冷な気候であろうと推測され、まさに物語の記述にあいます。また、この位置であれば都の北に位置するはずの「北の集落」にいく北街道が、東の祠に行く東街道とともに竜宮の東の通用門からでることは、北街道がいったん牡鹿半島を回り込む必要があるためもっともです。「東の集落」が無いことは日本海溝があるため東へは広がれないためではないかと推測されます。牡鹿半島沖から西へ行くと松島、そして塩竃に出ます。塩竃には奥州一宮である塩竃神社があります。この神社は航海安全・国土開発・安産の神様です。「西の離れ祠」が『何代か前の竜王様の世に。なかなかお世継ぎに恵まれないことがあった。・・・・正妃様は…「願掛け」をする事にしたという。・・・・・「西筋の離れ祠」まで毎夜通った。・・・・ご懐妊なさっており、無事、お世継ぎをお産みになられた…。』というように安産に関係した神がまつられているという事実から塩竃神社と西の祠は同じ源であるという推論は決してうがったものではなく、この都の推定位置を支持しています。また、牡鹿半島は東北地方と言うことで東京に出るのも自然な土地です。

 このような検証より、都は間違いなく牡鹿半島沖にあると断言できます。

 

3.各集落の位置

 距離や位置の推測できる記述が多いのは「西南」、「南峰」、そして「北」の三集落です。

 玻璃の花籠・6の『昼前に立つと、竜王の御館にたどり着くのは薄暗くなってからとなる。大臣様は輿に乗るが、お付きの者たちは徒歩(かち)で付きそう。』、『「西南の集落」より真北に位置する竜王の居住まいは気候がかなり違う。』という二つの記述から「西南の集落」は都の真南に一日、玻璃の花籠・4の『「南峰の集落」は雷史の住まう「西南の集落」から丸一日南に歩いた所にある。』という記述から「南峰の集落」は都から西南の二倍ちょっとの距離あることがわかります。

 この記述を元に考えますと、「西南の集落」は『西南の集落は海底国の中でも温暖な土地だ。』であることから、黒潮に洗われ続けるであろう海域であると思われます。陸上の感覚では距離的には一日でいける距離では無いのですが、海底国では時空が陸と違うことから、「西南の集落」はどんなに北でも九十九里浜沖であろうと推測されます。柚羽の山間の村は、「山間」であることから日本海溝に近い場所なのでは無いかと推測されます。多分、「西南の集落」を東へ行った場所なのでしょう。海溝に近づくにつれ、「重力異常(?)」か何かの影響で時空のゆがみが大きくなり、陸から見れば短距離でも時間がかかるようになるのではないかと思われます。

「南峰の集落」は『「南峰の集落」は・・・更に暖かい気候』とあることから、「西南の集落」よりもかなり南の海域と思われます。さらに「南峰の集落」は都ー西南の距離を二倍以上南に伸ばした所と言うことで、小笠原沖ではないかと思われます。このあたりの海域であれば、年中温暖で、獲物も多いであろうとおもわれ、満鹿の説明する「南峰の集落」の記述にまさにぴったりと当てはまると思われます。ここで満鹿の実家ですが『ひとつきほどの暇を貰い、里に戻った。満鹿の里は南峰の集落の中でも更に奥まったところにある。それだけの休みを貰ったところで、実は移動する時間の方が長いくらいだった。』なのです。つまり、二日でいける集落の中心部からさらに少なくとも五日は離れた場所にあると思われます。柚羽の里がそうであるように、満鹿の里は「南峰の集落」圏ではあるものの、かなり離れているということでしょうか?このことは西の集落の位置とともに後ほど考察します。

 残るは「北の集落」です。ここでキーになるのは瑠璃のせりふ、『「北の集落はここ、都よりもまた北に位置します。冬の寒さは皆様に想像も出来ないことかと思われます・・・・・・・秋、急に寒くなると、咲いたままの花がそのまま氷の中に閉ざされてしまう現象が起こるのです。」』です。結氷するほど寒い海域となると、これはオホーツク海のあたりです。陸上的な距離的が非常に長いので、春の輪郭の中での多奈の回想『「竜王の御館」から、さらに徒歩(かち)で丸一日も北へ行く「北の集落」は夫の故郷であるだけでなく、自分にとっての 故郷でもある。』氷華の節・2の『彼女は時々里に戻る。1日歩けば辿り着ける近い距離なので、3日休みが貰えれば帰ることが出来るのだ。』という記述からすると判断がむずかしいところです。やはり時空の歪みにより、短時間で陸地から見た長い距離を移動できるのでしょう。ですから、海が結氷するほどの寒さという点から「北の集落」はオホーツクにあると断言できるかと思います。

 名前しか出てこない「離の集落」ですが、秘色の語り夢…沙羅の章・番外編2で『「離の集落」へのお務めで3日留守にした』という記述があります。3日で往復と任務を果たすことができると言うことで、距離的には「西南の集落」と変わらないかまたはもっと近いかと思われます。方角は出てきませんが、「離」というのがキーです。第一に考えられることは、これは陸地を挟んでいるため「離れた」イメージがあるのではということです。となると、津軽海峡を越えた日本海側にあると考えるのが妥当ではないかと思われます。第二に考えられるのは御所に対する離宮のように、都のごく近傍にあるのではないかという推測です。どちらが妥当な物であるかは、これからの物語の進行につれて明らかになるのではないでしょうか。

 もう一つ距離が明らかにされているのは「西の集落」です。西というからには西日本の方にあると思われますが、ここでも距離が問題になります。『西の集落は遠く、足を運ぶだけで半月もかかると言われている。』のです。ところが都から西南の距離をさらに13日余分に西へ行くと日本から飛び出してしまいます。柚羽の里で採用したのと同じ推論をここでも用いなくてはなりません。時空の歪みです。ここで、時空の歪みについて考えてみましょう。柚羽の里、満鹿の里、西の集落という三カ所への道のりは時空の歪みが顕著であると考えられます。この三カ所に共通するものは何でしょうか?柚羽の里の位置の考察で述べたように海溝や大陸などの影響ということも考えられます。筆者の個人的な直感では結界を生じる竜王の妖しの力は結界を生じさせるポイントからの距離で効果が変化し、時空を歪ませるのではと考えます。つまり、西南の集落に対する結界、南峰の集落に対する結界といった結界は集落の中心に掛けられ、中心から離れるにつれて、その力が強くなり、時空を歪ませるわけです。中心から離れるにつれて、同じ距離を行くのに時間がかかるようになるのではないかという推測です。時空のひずみのいちばん外まで行けば、そこはもう前に進めない、つまり、内からも出られないが、外からも入れない結界の境界を構成するのではないでしょうか?西の集落への道のりは長いため集落間を結ぶ結界の中間点あたりで時空のひずみが非常に大きくなり、時間がかかるのではないかと思われます。西の集落は玻璃の花籠・1の『国のほぼ中央に位置する御館に住まう「竜王様」』という記述と、他の集落と都の位置関係を考えると、紀伊半島沖あたりであるのかもしれません。それほど詳しく特定できないのが残念です。

 

4.おわりに

 筆者は残念ながら遠方に住んでいます。遠浅の海岸と岸壁を持つ牡鹿半島の西面にある村。近くにお住まいの方は、スキューバーでも試みてはいかがでしょうか?あなたも結界を破って、海底国を覗けるかもしれません。なお、この考察は2002年10月25日現在の秘色の語り夢(本編及び番外編)、玻璃の花籠、てのひらの春、氷華の節(3章まで)を元にしています。

◇◇◇

 

>>広瀬より感想です

 何しろ、空想の世界の出来事ですので。こんな風に深くご考察頂くと、もう笑うしかないという感じです。そうですね〜私自身は黒潮渦巻く(?)太平洋の近くに住んでおりまして、そのためか、湊や渚のいた浜もこの辺りかな? とか思ってます。八百八橋様の着眼点はなかなか鋭いです。湊たちの医大は東京だし、そのほかのことでも頷くところが多いです。

「西南の集落」はとても広い土地だと思います。ですから、その端の柚羽の里に行くよりも「南峰の集落」や都に行く方が早かったりするんですね。横に長い集落なのでしょう。

 これからもいろいろにお話は展開していくと思います。時々、初心に立ち返り、こちらの文章を拝見させて頂いて、頑張りますね。

 …最後に。いろいろと皆様にご存じのないお話のタイトルが出てきたかと存じますが…もしも「え?」と思ったら、まあ、メールでも下さいませ。ふふ。

 では八百八橋様、本当にありがとうございました。これからも、「海底国」の物語を宜しくお見守り下さいね。

(20030105)

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