いくつもの愛をかさねて

Scene 8. 〜相棒〜

 

ぶつかり合う二つの魂

それは互いに互いを磨き合い

次第に輝きを増して行く。

信頼・反発

友情・不審

様々な想いに磨かれ

金剛石の如く強く輝く魂達。

しかしその輝きは

今だ至高のものには程遠く…。

彼等を至高に導く為の二つの想い

憎悪

そして

互いに隠した二つの想い。

二つの想いがぶつかり合った時

彼等は…?

 

 

Scene 8−M

 真下君が。

 撃たれた。

 窓を叩く豪雨。

 走る車に合わせ横に流れて行く雨が、外の景色を覆い隠す。

 窓を滑るワイパーの音。自分を乗せている公用車のエンジン音。そして。

『…都内各署に緊急連絡…』

 無線から流れる声。

『…男は20代後半。…黒っぽい服を着ている。右頬に傷あり』

―室井さん、警官殺しなんです…。

 青島の声が蘇る。

 真下警部を撃ったのはおそらく、この男。

『男は拳銃を所持している。不審者の職質には十分注意せよ。…繰り返す…』

 この男が、持っていた拳銃で真下警部を。

 撃った。

―捜査一課を動員して、検挙を…。

 …青島。

―お願いします。…室井さん。

 息が苦しい。体中の血液が全て逆流するような感覚。

 彼は、一体どんな思いで俺に連絡してきたのだろう。

 あの日、俺の澱んだ欲望のままの行動が、どんなにお前を傷付けたか。

 どんなにお前を、苦しめたか。

 それでもお前は…。

 

―室井さん!! 

 

 青島が俺に寄せてくれる、信頼。

 …俺はその信頼に答える事が出来なかった。

 …俺は、彼を信頼を裏切った。

 一度ならず。

 …二度までも。

 

 雨に滑るタイヤの音。軋むブレーキ。捜査員を乗せた自動車が、次々と到着する。

 廊下に響く足音。飛び交う指示。乱れ飛ぶ情報。

 喧騒に包まれた署内に、彼は。

 只一人、立っていた。

「…真下警部は?」

「……重体です」

 静かなる闘志。

 雨に濡れ、額にかかる前髪の下から覗く瞳。

 滴る水を受け鮮やかに輝く瞳に宿る、傷付きながらも獲物を追う肉食獣にも似た。

 誇り高き…本能。

 笑顔の下に隠されていた、もうひとつの彼。

 ―惹き付けられる。

 俺の邪な心の影など、この瞳の輝きの前にかき消されてしまう。 

 負けられない。

 この瞳に応えたい。

 触発される俺の闘争心。刑事としての、本能。

「私が全面的に指揮をとる。…もう上の者には何も言わせない!」

「……」

 

 彼が走り出す。

 私も歩き出す。

 想いは同じだ。

 犯人を、必ず逮捕する!!

  

 

Scene 8−A

 犯人を、必ず逮捕する!!

 6年前、和久さんの心に傷を残し、今再び真下を傷付けた男。

「安西という名で、右頬に傷がある男がセンターの検索システムでヒットした!…名前は」

 安西昭次。27歳。

「安西昭次の顔写真だ」

 室井さんの声が響く。スクリーンに映し出される男の顔。

 右頬に傷。

 広い会議室に漲る、殺気。

 和久さんも魚住さんもすみれさんも、誰も何も言わずスクリーンの男を見つめている。

 スクリーンに背を向け座る室井さんも。

 皆、思いは同じだ。

 必ず安西を、逮捕する!!

 でも。

「事件の被疑者をどういう経過で特定したのか…」

「服務規定の疑いが…」

 …こいつは一体何を言っているんだ?

 今一番大事なのは犯人の逮捕じゃないのか?

 アンタ達も、警察官だろう!

「問題になるよ」

 無機質な冷たい瞳。通じない、言葉。

 これが。

 ―組織。

 室井さんが戦い続けている、もの。

 やりきれない思いと怒りを抱えたまま、捜査は続く。

 進展は、ない。

 主のいない机が、仕事を与えられないパソコンが、ナニヲヤッテイルノ?と問いかけてきてるようだった。

 無意識の内にパソコンを起動する。回線に接続されたパソコンが膨大なメールを表示する。

「大丈夫ですか?」「犯人許さねぇ!」

 ただの無機質な文字の羅列を、こんなに暖かいと思った事はなかった。

 真下、お前幸せ者だぞ?

 広大なネットの向こう側で、お前のことを心配している奴らがこんなにいるんだ。

 …早く帰ってこい!

 ふと、膨大なメールの中に埋もれた一文が、おれの神経に触った。

「…?!」

『写真の男、見ました』

 …安西だ!

 探しつづけた手掛かりだった。 

 見つけた。

 もう逃がさない!

 必ず…必ず逮捕してやるっ!

  

 その日。

 俺は。

 初めて引き金を引いた。

 

 …人間に向かって。

 

 

 

Scene 8−M

 引き金を引いたのは…。

「ぼくです」

 青島が安西と接触した。

 偶発的な接触は安西の逮捕には及ばず、それどころか…。

「どうして威嚇射撃をしなかった」

「そんな余裕ありませんでした」

 警察官になって初めて銃を持った時の事を思い出す。

 鈍色の弾丸。手の中の鉄の塊。その重さに驚いた。

 玩具ではない。ただ眺めるだけの飾りではない。

 武器。

 身を守るため。いや、人を傷付け殺す為の、道具。

 それを自分に向けられたら。

「余裕があるとかないとかじゃない。もし一般人にあたっていたら、警察の威信は一気に崩れるところだった」

 …アア。ソノトオリダ。

 脳裏に浮ぶ幻影。モシモ…。

「撃たなきゃ青島くん殺されてた」 

 心臓から紅い血を噴き出させ倒れる青島の姿。

 何時か見た幻影。

「日本の警察官は、たとえ撃たれても撃ってはいかんのだ」

 …アア。イワレナクテモ、ワカッテイル。

 火薬と血の匂いが鼻につく。

 モノトーンの思考の中で、…の血だけが、紅い。

 モシモ、撃たなければ、青島ハ死ンデイタ。

 現実と幻影が交差する。

 心臓が、悲鳴を上げていた。

「室井君。まさか君は捜査員に対して、被疑者を見たら発砲するように発令してた訳じゃないだろうね」

「…してません」

「なら、発砲の件は青島くんの個人判断なんだね?」

 そうしなければ、彼は死ンデイタ。

「室井君。今ここで青島君を処分したまえ」

 ショブン?ダレヲ?ナンノタメニ?

「君は現場の刑事達を指揮する立場だ。君が処分しろ」

「…捜査のほうが先ではないでしょうか」

 ヤメロ。イウダケムダダ。

「捜査は現場がやっているだろう。私達にはこの問題の方が重要なんだ」

 ホラ、イウダケムダ、ダッタロ?

「あんた達、最低だわ…」

 マッタクダ。…何もかもサイテイだ。

 心臓の悲鳴が、ますます大きくなって行く。

 

 …もう。…たくさんだ。 

 

「…発砲はその時の状況に十分留意して、可能な限り発砲以外の方法で検挙すべきだと私は考えます」

 青島の体が硬直する。

「…これは青島刑事一人のミスだと思います」

「…!!」

 その瞬間、彼の顔に驚きの表情が浮び、やがて傷付いた顔へと変わり、数秒後には怒りへ取って代った。

「…あんたには頭が下がるわ」

 恩田刑事の侮蔑を込めた声が聞こえる。

「口の聞き方に気をつけたまえ」

 今の私は、一体どんな顔をしているのだろう。

 心臓の音が、やけに大きく感じる。

「処分を決める。来い」

 青島は動かない。激しい怒りの篭った瞳で私を見ている。

 だが。

「来い!!」

 私は渾身の力で青島を引き摺り出した。

「離してくれっ!」

「言うことを聞け!!」

「聞けるかっ!!」

 振り払われる手。苛烈なまでの青島の怒り。

 殴り掛かりそうな彼の胸倉をつかみ、全身の力で押さえつける。

「聞け!!」

「…っ!」

 怒りの中に、何故か泣いている青島の顔が見えたような気がした。

 解かっている。

 俺も、同じだ。

「この事件は俺がやるといったろう」  

 怒りに染まっていた瞳が困惑の色へと変わる。

「もう上の者には何も言わせないと」

「…室井さん?」

 胸倉を掴んでいた手を外す。手の震えが止まらない。

 心臓の音がいやになるぐらい響いてくる。でもこれは、悲鳴じゃない。

「さっきのは、はったりだ。君の真似をした」

 困惑が理解へと変わっていく。

「私も足で捜査する。…特捜本部などくそくらえだっ!」

 青島が。

 笑った。

 

 外へ出た私達を待って居たのは、一人の警官と覆面車だった。

「使ってください!警務課には僕が始末書書いときます」

 全く、この湾岸署ときたら…! 

「乗ってください!」

 そう言って後部座席のドアを開けてくれる。

 有難う。だが、今の私が座るのはその席ではない。

 私が座る席は、ここだ。

「……」

 助手席に座りこんだ私を、驚いた様に見た青島だったが、やがてにっこりと微笑んだ。

 そうだ。今の私達に「階級」や「立場」なんて必要ない。

 私達は事件を追う刑事だ。

 同じ想いを持った者同士。

 そうだろう?青島。

 …それでいい。

 …今は。

 

 

 エンジンの回る音を響かせ、車が急発進する。

 私は本部を離れ、現場へと飛び出した。

 

 おそらく。

 これが最初で最後の現場へと。

 

To be continued

大っっっっっっ変、お待たせ致しました!!

Sー8のUPが2月12日…。

m(__;)mm(__;)mm(__;)m

おまけに、妙な所で切ってるし。

m(__;)mm(__;)mm(__;)m

でも、今回のTVシリーズ#10ラスト〜#11冒頭シーンは

絶対外せない場面ですよね。

TVシリーズ、いや、数あるドラマの中でも

最高のクライマックスシーンだとでんでんむしは思ってます。

…それを書きたかったんですが…。

m(__;)mm(__;)mm(__;)mm(__;)mm(__;)mm(__;)m

イメージ壊してどーする、私(ー“ー;)