Puppy Panics !


 

その五  再び死神と子犬(2)

 

 

 指紋照合の結果、昨日の空巣は、やはりこの二人に間違いなかった。まったく、どこがテロリストの犯行

だって言うんだよ。

 上層部も今度こそしっかり反省してくれなきゃね。

 それにしても。

 室井さん、遅いなぁ…。時間はとっくに九時を過ぎてる。遅くなるとはいってたけど、ちょっと遅すぎないか?

「室井さん遅いね」

「きゅぅ〜ん」

 うん…。なにかあったのかなぁ。

「仕事が伸びてるんじゃねぇか」

「多分そうだと思うけど」

 俺も、きっとそうだと思う。でも、夕方には迎えにくるって言ってたのに。

「電話してみるか?このままじゃ、すみれさんも帰れねぇだろ?」

「私は別に良いけど。…でもちょっと気になるわね」

 そういって、受話器を取る。

 一体如何したんだろう。なんだか、気になる…。

「…え?7時には帰った?…いえ、解かりました。はい」

 胸騒ぎがする。

「病院じゃないのか?青島の見舞いに行ってるかも知れないぞ」

 和久さんの言葉に従って病院にも電話をかける。が。

「…はい。いえ、どうも有り難うございました」

「どうだった?」

「病院には来てないって。いつも受け付けにはきちんと顔を出す人だから、黙って来て、そのまま帰る事は

ないと思うって…」

 胸騒ぎがだんだん大きくなる。

 如何したんだよ、何かあったの?

 室井さん…。

 

 じっとしていられなくって、廊下まで歩く。

 殆どの人が帰宅し、人気のなくなった広い廊下は、何処か淋しくて、胸の中の不安がどんどん大きくなっ

ていく。

 …部屋に帰ろう。

 そう思って、歩き始めたときだった。

「こんにちわー」

 突然、廊下に響く声。

 この唐突な、しかも脳天気なこの声は!

 死神野郎!!

「死神野郎なんてひどいですね〜。しーちゃん、と呼んでくださいね」

 誰が呼ぶかって。

「ひ、ひどい!私とあなたの仲なのに〜」

 どんな仲だよ…。

 まぁいいや。それよりも。

 死神がここにいるっていう事は、生き返る手続きがすんだってことだよな。ということは俺、やっと生き返

れるんだな!

「いえ、手続きはまだです。今日私がお邪魔したのはこの近くで仕事があったからでして…」

 …なんだ。期待して損した。

「申し訳ありません。でも、もうすぐですよ。多分明日の夜明けぐらいには生き返れるんじゃないかと思いま

すが…」

 ホントか?夜明けまでっていったら、もう少しじゃないか。

 あー、良かった〜〜。今度こそやっと生き返れるんだー。

「良かったですねー。私も苦労した甲斐がありました」

 ところで、今日は別の仕事って行ってたけど、今度は何処で事故があるわけ?

「あ、今度は事故じゃないんです。場所はこの近くなんですけどね。拳銃発砲による殺人なんですよ」

 さ、殺人!?おい、ちょっとまてよ!それホントか?

「ホントですよ」

 よりにもよって殺人事件なんて。なんとか止めさせられないのか?

「無理です」

 そんなあっさり…。

「私は予定表に従って、死んだ人の魂を導くだけですから、人様の運命には関与できないんです」

 でも、殺人が起きるってわかってるのに、みすみす見逃すなんて。

「お気持ちは解かりますが、私の立場も察してくださいよ。あなたにも下っ端の辛さはわかるでしょ?」

 そりゃ、まぁ…。でも…。

「それよりも、あなたはこんな所でなにをしているんですか?

てっきり室井さんの家にいるものだと思っていたのですが」

 ああ、ちょっと事情があって、今日だけこっちに邪魔させてもらってたんだ。もうすぐしたら室井さんが

迎えに来てくれるから、そうしたら一緒に帰るんだ。

「室井さん?彼なら来ませんよ」

 え?…なんで?

「だって、今日の死亡予定者は、その室井さんなんですから」

 ……。

 なんだって?

 今…なんて……いった?

「ほら、室井慎次・1964年1月3日生まれ・享年36歳。間違いないでしょ?」

 うそ…だ。

「嘘じゃないですって」

 うそだっ!室井さんが死ぬなんて、そんなの嘘だーっ!

「あ、青島さん?」

 何とかならないのか!俺の時みたいに、なかった事に出来ないのかよっ!

「無理ですよっ!それにあなたの場合は、特別だって言ったでしょ!?」

 室井さんが死ぬなんて、そんなのダメだっ!あの人はこれからの警察に必要な人なんだぞ!それに…!

 それに…やっと、あの人の本心が聞けたのに…。

 これじゃせっかく俺が生き返っても、意味がないじゃないか…。室井さんが死んだ後に生き返るなんて…。

 そんなの…やだよ…。

「……青島さん。でも、これは運命なんです。運命は変えられないんです。だからせめて死んだ人の分

まで生きている人が…」

 ……変えてやる。

「はい?」

 そんな運命なんて、この俺が変えてやるっ!

「ええええええっ!」

 おい、死神!

「は、はいっ!」

 室井さんが今何処にいるか解かるな!

「そ、それは勿論…って、駄目ですよ!運命なんて変えられるわけないんですから!」

 そんなのやってみないと判らないだろっ!

「やってみなくても判る事だってあるんです!」

 それでもやらないよりはマシだろ!?

「それはそうなんですけど…。…いえっ!やっぱり駄目です!お教えする事は出来ません!」

 ……。

 わかった。

「判って頂けましたか」

 教えてくれなきゃ死んでやる。

「はいぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 教えてくれなきゃ今すぐここで死んでやる。どうせ室井さんが死んじゃうんなら、俺も生きてく意味がない

もんねー。

「何言い出すんですか、あなたはっ!私がどれだけ苦労して生き返りの手続きを取ったか解かってんです

か!第一また死ぬってことになると、その手続きの取り消しと死亡申請にどれだけ手間と時間がかかると

思ってるんですかっ!」

 じゃあ、室井さんの居場所教えて♪

「…うっ!そそそそれは…」

 さてと。どうやって死のーかなー。幸いここは警察署だから、拳銃も薬もたくさんあるし。

「あ、青島さん?」

 あ、手っ取り早く屋上からダイビング♪っていうのも良いかもねー。

「わかった!判りましたっ!教えます。教えますから勘弁してくださいよー」

 もう、最初っから素直にそう言ってくれれば良いのに。

「…死神脅すなんて、あなたぐらいのもんですよ」

 なんか言った?

「いえ!別に。……で、室井さんのいる所なんですけどね。ここの近くです」

 近くって、どこ?

「豊洲埠頭の方ですよ。そこの倉庫の中に室井さんを誘拐した人達と一緒にいます」

 誘拐って?

「今日こちらに向かう途中に拉致されたんです。人込みの中で拳銃ちらつかされたんで、逆らえなかった

んですね」

 もし人込みの中で発砲されたら、自分だけじゃなくて周りに人にも迷惑が掛る。…室井さんらしいね。

「如何します?宜しかったら案内致しますが…」

 え!いいの?ホントにそこまで連れて行ってくれるの?

「連れて行くだけです。でも、良いんですね?あなたが行ったところで運命は変わらないんですよ?」

 そんなの行ってみてからの事だよ。

 変わらない出来ないって決め付けて、何もしなければいつまでたっても何も変わらない。だけど、変わる

かも出来るかもって思って行動すれば、少なくともその可能性はゼロじゃない。

 そうだろう?

「……そうですね。判りました!私も出来る限り協力致しましょう!」

 え、いいの?そんなことして上の人に叱られない?

「構いません、慣れてますから。昔から『毒を食らえばそれまでよ』、って言いますしね!」

 ………『皿まで』だろう。

「それに私もあなたに掛けてみたくなりました」

 ……俺に?

「はい。一生に一度の奇跡、二人で起こして見せましょう!」

 よしっ!それじゃ行こうか!

「しっかり掴まってて下さいね!」

 

 

 視界が歪む。

 いつか感じた酩酊感。

 

 

 信じる事。

 信じて願う事。

 信じて願い、そして行動する事。

 それが、奇跡。

 

 奇跡は起きる。

 起こして見せる!

 

 室井さん。今すぐ行きますから、待っててくださいね!

つづく


死神しーちゃん再登場!

しかし、誘拐されちゃった室井さん。

これって労災おりるのか?

仕事場から帰宅途中の事故だからおりるのかな?

どうでも良いことだけど、ちょこっと疑問(笑)