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『古武術介護』
脳梗塞や脳出血など脳血管障害がもとで寝たきりや片麻痺になった方を介護されている家族が周りにいらっしゃることと思います。体が不自由な人をベッドから起こしたり、車椅子に乗せたりするときは大変な力が必要です。そのため介護の現場では体力のある若者が活躍しています。
1ヶ月ほど前の日曜の朝、普段より少し長めに寝ることが多いのですが、この朝は朝早く目が覚めて起きてしまいました。テレビにスイッチを入れた途端に、目が釘付けになった場面が飛び出してきました。ベッドで一人では起き上がれない人を介護の方が楽々と起こしている場面でした。すぐに画面が切り替わり、次に写ったのが、足を投げ出して座っている人をその介護の人が背中側から手を回してスッと一緒に立ち上がったのです。まるでマジックを見ているようでした。説明しながら再度同じことをしましたが、とても軽々と出来てしまうのです。不思議に思いもっと見たかったのですが、テレビの番組はもう別の話題に移ってしまいました。
ナレーションで、古武術の技を利用した新しい介護法だというアナウンサーの声がわずかに耳にのこっていましたので、直ぐにパソコンを開いて「古武術」で検索してみました。すると岡田慎一郎さんの古武術介護という項目が見つかりました。
※岡田慎一郎さんのホームページはhttp://www.shinichiro-okada.com/です。
この介護の方法は講習会や講演会などでいっぱい紹介され、本も数多く書かれている様子です。この世界では有名な方なのですね。早速『はじめての介護』という本をインターネットで取り寄せました。
私は身の回りに介護の必要な人がいないせいか、岡野さんのことは全く知りませんでした。6年前から脳梗塞で寝たきりになった方を訪問治療していますが、ベッドに移動したり車椅子に移動するときに、奥さんが力いっぱい頑張っておられるのを見て介護するのには力が必要で大変だなあと思っていました。早速、岡野さんの介護法の本を見てもらいました。すると、奥さんはもうご存知で5年ほど前に岡野さんの講習会も体験済みでした。ご主人は声が出ず、話は少し理解されているようですが、会話が出来ない状態です。岡野さんの介護法をしようとしても、本人がこれからどういう動きをするのか理解していないから応用できないとのことでした。
2・3年前と比べるとこの方の状態が少し良くなり、体が安定して来ましたので、4ヶ月ほど前から足もみだけでなく全身マッサージもしています。すると体の上半身・下半身、右半身・左半身のバランス良くなってきました。硬縮して曲がりっきりのマヒした右腕も術後は伸びるようになりました。体の硬さがほぐれると、岡野式介護法で楽に体位移動ができるのではないかと思います。
私事になりますが、昨年11月に鹿児島の兄が脳出血を起こして2ヶ月ほど入院生活をしました。この2月に見舞いをかねて再度帰鹿してリハビリしてきました。足もみと全身マッサージをすると曲がった腰や背中も伸びて軽くなるり楽だと喜んでいました。そのときはベッドに横になってもらって治療しましたが、ベッドから起き上がったり寝返りを打つのに、マヒした左手・左足が思うように動かず、大変苦労をしています。そこで岡野さんの方法を教えてあげたら楽にできるので本人は驚いていました。
左図はベッドや布団からひとりで起上る方法です。
これは左半身にマヒがきている場合です。
@ まずマヒしている左肘をベッドに着ける。
A その左肘を見るように頭を動かしていき、右手もベッドに着ける。
B 頭は常に左肘を覗き込むように動かし続け、右膝も左肘の方に向ける。
C 頭はなおも動かし続け、右手でベッドを押すようにして上半身を起こす。
私は病院でこういうことを教えていないことに驚きました。入院していた2ヶ月の間に、看護師はベッドから起き上がるのに苦労している様子を目にしていたはずです。
出血を起こした脳は病院の治療で回復して有難いと思いますが、なにか病院の役割にしっくりきません。私が兄に一人で起き上がる方法を教えたのはわずか1分ほどの時間です。その方法を知っているだけでどんなに本人が楽をするでしょう。
『古武術 はじめての介護』岡野慎一郎著 主婦と生活社 2100円
「足裏全体で体を支える」大切さ
岡田慎一郎さんがこの介護術を思いついたのは、甲野善紀という古武術の名人に技を習っていたからとのことです。甲野善紀さんの技を自分の携わっている仕事に応用できたらと思って研究をされたとのことです。私も早速甲野さんのDVDを買って見てみました。そのDVDを見て印象に残ったことが一つあります。足裏全体で体を支えるのが大切だという言葉です。
専門課程の揉み方の練習は足裏から下腿、膝、大腿までほぐして血行を良くする方法を学びます。足首と膝を適切な角度に曲げながら揉みますが、コツを身に着けないとできません。そのコツの一つが足裏全体で体を支えることです。足健法の足もみの基本姿勢は足指(拇指)に体重を掛けて足裏全体で支え、丹田呼吸をし、そして肩甲骨を動かすことです。すると腕や肩の無駄な力が抜けて、揉まれる相手にとても優しい柔らかい力が加わり気持ちよく揉めます。甲野善紀さんの技のコツと同じです。