DONNY HATHAWAY/EXTENSION OF A MAN

    1.I LOVE THE LORD,HE HEARD MY CRY(PARTS 1&2) 2.いつか自由に 3.FLYING EASY 4.VALDEZ IN THE COUNTRY
   5.溢れ出る愛を 6.COME LITTLE CHILDREN 7.LOVE LOVE LOVE 8.THE SLUM 9.MAGDALENA 10.I KNOW IT'S YOU


  ベトナム戦争にキング牧師などの公民権運動などアメリカ社会が激動の時を迎えていた1960年代から70年代にかけて
 
ヒッピームーブメントなど様々なカウンターカルチャーが台頭していくなどヤングジェネレーションを中心に大きな意識変革が起きて
 いく渦中に於いてソウルミュージックも男女の愛を歌うヒットソングから飛躍して黒人であることのアイデンティティや誇りを歌いあ
 げるメッセージ性が強いものが目立つようになった。ゲットーなどで暮らす「同胞達」へとむけられて歌われるようになったのだ。
 その流れはジェームス・ブラウンなどのファンクなどに行き着いていくのだが従来のソウルにさらにシンセサイザーなどの最新式
 の機材の導入やジャズやクラシックなどの要素を取り入れるなどクリエイティブな音楽性を追求していったシンガー達も70年代に
 はいると登場するようになった。マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、カーティス・メイフィールド、そしてダニー・ハザウェイを
 中心とする「ニューソウル運動」と呼ばれるムーブメントである。
 「ニューソウル運動」のシンガー達はその音楽性の高いソウルミュージックにまだまだ差別が根強いアメリカ社会で生きる黒人同
 胞達の現実や政治や社会の矛盾を指摘して痛烈に批判するメッセージ性の強い内容を歌いあげた。
 しかし、そのシリアスなメッセージの根底にはマーヴィン・ゲイの言葉を借りると「憎しみを愛で乗り越えよう」という思想があること
 を忘れてはならないであろう。マーヴィンやスティーヴィーはいつでも「愛」の意味を追求していた。その「ニューソウル運動」の流れ
 の中で最高秀作と言えるアルバムであり、金字塔ともいえるのがダニー・ハザウェイのこのアルバムである。
 ゴスペルを経てクラッシックやジャズを本格的に学びシカゴのカーティス・メイフィールドのカートムレコードでスタジオミュージシャン
 として活躍したその音楽的経歴は本物である。ゴスペル色を強く感じさせるソウルとジャズやクラシックの要素が高度なアレンジに
 より見事に融合した完璧な音楽を生み出している。

 
8曲目など渋いファンクナンバーなどもいい味をだしている。2曲目はその後多くのシンガー達にカヴァーされるなど同時代に生き
 る黒人達のテーマソングのように歌われたと言う。
 「愛」をテーマに高い音楽性を基盤にしてさらに次元の高い「愛」を追求して音楽活動を続けていたダニーの歌には自由な社会へ
 の思いが含まれていたがそんな彼が自ら命を絶つという形で自由になろうとしようとしたのはあまりにも残酷な皮肉である。
  娘のレイラ・ハサウェイはシンガーとして活躍している。