ライントラブル
 キャストした瞬間ラインがぐしゃっと出るライントラブルについてです。故障ではありませんが、とても嫌なトラブルです。これにはどんな特性が影響しているのでしょうか。

比較するリール
 ハンドル1回転でスプールが1往復するタイプのスピニングリールを比較します。ギア比による差はありますが、現在の密巻き綾巻きのような極端な差はないので、比較するのにいいでしょう。

 右から、ミッチェル308(最終版中国製)、カーディナル33、コメットG1、プロライン101です。308はプラナマティックのついていないものです。

 ライントラブルの起きにくさは、前巻きや後ろ巻きを修正したうえで・・・

 ミッチェル308=A(いっぱいに巻いてもまずだいじょうぶ)
 カーディナル33=B(すれすれまで巻くとちょっと怖い)
 コメットG1=C(八分目じゃないと怖い)
 プロライン101=C(八分目じゃないと怖い)

 というような感じでしょうか(抽象的でゴメン)。これらとスプール幅とストロークの関係を見ていきましょう。

スプール幅とストローク
 スプール幅とスプールが動くストロークを書き込んだものです。左上から横に、ミッチェル308、カーディナル33、コメットG1、プロライン101です。

 スプール幅からストロークを引いた数値が小さいものほどライントラブルが起きにくいのがわかります。

 ミッチェル308はよほどのことをしない限りライントラブルを起こしませんが、実際一番スプール幅とストロークの差が小さいのがわかります。

 トラブルの起きやすい大森の2台はスプールエッジの開放角が大きく、どこまでラインを巻くかでスプール幅が変わります。コメットG1はスプール径44mmに対し40mm、プロライン101はスプール径42mmに対し40mmのところを測定しました。それでもギャップは大きめです。

スプール軸方向ガタ
 さらに、ストロークを比較するとき、考慮しなければならないのが、スプールの軸方向ガタです。このがたつきが大きいと、その分ストロークが狭いのと同じことになります。

 ダイヤルゲージを当てて測定した値は・・・

 ミッチェル308  :0.4mm
 カーディナル33 :0.4mm(0.8mm)
 コメットG1    :0.85mm
 プロライン101  :0.5mm

 カーディナル33の純粋な軸方向ガタは0.4mmくらいなのですが、真鍮パイプインサートタイプの場合対角ガタが大きく(*)、その分を考慮すると0.8mm程度となります。コメットG1は、かなり使い込んでいるので、磨耗してガタが増加している可能性もあります。

*:内径が糸の圧力で締まるのを防ぐため、穴を後加工して真鍮パイプを入れているものの、そのために十字溝のところがメインシャフトと接触しなくなっています。AbuGarcia「03年版カーディナル33」のページ参照。

ガタを考慮したストローク
 上のガタの値をストロークから差し引くと、このようになります。

 ガタの分ストロークが狭くなることのほかに、巻き方によって巻き形状が不安定になることも考えられます。

 やはりミッチェルが優秀ですが、カーディナル33はスプールのガタを考慮すると、プロラインに近い感じ。パイプの入っていない89モデル(後期は入っていたらしいが)のほうが、トラブルは起きにくいと考えられますし、使った感じも合致します。

 大森、特にコメットのストローク不足がわかります。だからライントラブルが多く、八分目かそれ以下の巻き量でしか使えないのです。

見た目じゃないのね
 写真は上で測定したミッチェル308です。両端が盛り上がって巻けていますが、これでいいのです。

 ここに挙げたリールは、等速往復機構を採用していませんから、スプールの速度は下の図のように死点に行くほど落ちるのです。フラットに巻き上がるほうがおかしいわけです。

 にもかかわらずフラットに巻けるということは、ストロークが不足しているということです。糸崩れで結果的にフラットに見えているだけなのです。

 大森を例に挙げましたが、一昔前(二昔前か・・・)の国産スピニングはほとんど同じです。

 実際、オリムピックの投げリール93シリーズに、上のミッチェルのようなスプール往復機構に真ん中を盛り上げた浅溝スプールを組み合わせたものがありました。

 このページからわかるのは・・・

1:ライントラブルの起きにくいリールは、スプールの端までしっかり糸が巻かれ、スプールの軸方向ガタの小さいリールである。

2:1の条件さえ満たせば、シンプルな機構でもトラブルフリーなリールを作ることは可能。

3:同じく1の条件を満たせば、見た目にフラットに巻けている必要はない。

4:機械部分は凝りに凝った大森スピニングだが、糸巻き性能は他の国産スピニングと同じ欠点を持っていた。

5:開放角の大きな大森型スプールは、巻き量が増えるほどスプール幅とストロークのギャップを増し、ライントラブルを増やす。

 ロングスプールスピニングが出始めたころ、それ以前のスピニングよりトラブルが減りました。これをウォームシャフト平行巻き機構のせいだというのは、半分正しくて半分間違っています。スプールの端までしっかり巻かれていれば、上のミッチェル308のような機構でもトラブルは起きません。

 逆に言えば、ウォームシャフトやS字カムのような等速往復機構を持ったリールでも、この点がダメなリールは・・・ということになりますが、それは現行リールをあらためて測定してみましょうか(いつかね・・・)。

(2006/12/12)

Break ? Broken ?