ベールスプリング1

 インスプールリールのベールスプリングの寿命について考えてみましょう。
 まずこのページでは、ミッチェル308/408について計算してみます(でも、いきなり結果が・・・)。

曲げ応力
 寿命には単位断面積(1平方ミリ)あたりどれだけの力(この場合曲げ応力)がかかっているかが、かかわってきます。曲げ応力が大きいほど寿命は短く、小さいほど寿命は長くなります。

計算式
 ばねに生ずる曲げ応力s(N/mm2)は以下の計算式で算出されます。

s = [ E * d * A ] / [ 360 * D * N ]

s・・・曲げ応力(N/mm2)、 E・・・縦弾性係数(186200N/mm2)、 d・・・バネ素線径(mm)、 A・・・ばねのねじれ角(°)、 D・・・コイル平均径(mm)、 N・・・巻き数
(理工学社「機械設計入門」より)

308/408のスプリング
 右の図は私がスプリングを複製したときの図面です(描き方のおかしい点に突っ込まないように。一応これでスプリングができてくるんやから・・・)。80年代のものがベースです。この寸法に基づいて数値を代入します。
A:70年代モデル
 まず、開き角の大きい70年代のモデルから。

s = [ E * d * A ] / [ 360 * D * N ]
= [ 186200 * 0.65 * 240 ] / [ 360 * 8 * 4.88 ]
= 2066.8

 あれ? 2066N/mm2 !? つまり、210kgf/mm2 !! ステンレスばね材の許容曲げ応力(設計上このくらいまでにとどめる応力)は、18.8kgf/mm2です。おかしいぞ。

 これじゃあ、繰り返し以前に破壊してしまうはず。どうも、ベールスプリングは一般のねじりコイルばねに比べると巻き径に対し線径が細く、巻き数が少ない割にねじり角度が大きいため、公式が当てはまらないようです(それとも、どこかまちがっとるんやろか? 専門家の人、見てたら教えて・・・)。

 それでも比較はできるはずなので、以下比較値として計算を続けます。応力としては大きすぎるので、単位はつけません。

B:80年代モデル
 開き角を抑えてスプリングの寿命を延ばした80年代モデルです。

s = [ E * d * A ] / [ 360 * D * N ]
= [ 186200 * 0.65 * 215 ] / [ 360 * 8 * 4.88 ]
= 1851.5

 当然ですが、スプリングへの負担は少なくなります。約10%ダウンです。
C:90年代モデル
 なぜか巻き数を減らした90年代モデルのスプリング。よく折れるみたいです。巻き数以外のばね寸法とベールアームは80年代と同じなので、Bの式の巻き数を1減らします。

s = [ E * d * A ] / [ 360 * D * N ]
= [ 186200 * 0.65 * 215 ] / [ 360 * 8 * 3.88 ]
= 2328.7

 せっかく改良した80年代モデルですが、90年代にこのスプリングにしたことで、改良前の70年モデルと比べても13%くらい負担が増えています。
寿命はどのくらい変わるか?
 結果を並べてみると、
 A:70年代モデル=2066
 B:80年代モデル=1852
 C:90年代モデル=2329
・・・と、なります。

 では、これらはどのくらい寿命が違うのでしょう?

 それぞれ負担を示す数値(「応力」というには値がおかしいのでこう表現しておきます)の差は、10%くらいです。では、10%負担が減ると寿命は10%延びるのか・・・というとそうではありません。

 この図はS-N曲線といいます。材料強度学の教科書(改めて開いてみたが、まったく読んだ跡がない・・・)からラフに写しました。

 縦軸が曲げ応力(正確には応力振幅)、横軸が破壊するまでの繰り返し回数です。この図は炭素鋼S25Cの回転曲げで、ベールスプリングとは条件が違います。しかし、ざっと見ても、10%負担が減れば、10倍近く寿命が延びることが予測できます。

 すなわち、上の3種類の寿命はC<A<Bの関係で、それぞれ10倍近い差があると、考えられそうです。

以上のことからいえるのは・・・

1:70年代の308/408の寿命(かなり使い込んでから折れる)を考えると、80年代のものはほとんど実用上折れることがないほどの寿命があると考えられる。

2:90年代の変更はベールスプリングの寿命を著しく縮めていた。

3:キャスティングの際、ベール返しレバーがベールアームの溝に入るところで止めるか、それ以上にベールを開いてしまうかなど、使用方法によってスプリングの寿命が大幅に変わることが考えられる。

と、いうところでしょうか。

 さて次は、同じようにカーディナル33/44を見ていきましょう。でも、それまでに計算結果がとんでもなく大きくなる原因がわかるかなあ・・・。 (2003/10/31)


補足:ステンレスばね材の許容応力は、下記サイトによると1500N/mm2(153kgf/mm2)くらいに取れるようです。この数値と比べるとそこそこ計算が当てはまっているとも言えそうです。(2006/3/31)
円筒コイルばねの許容応力

Broke ? Broken ?