あらためて308
 よくよく考えたらこのサイトの主役である308についてです。


ミッチェル308
 ミッチェル300シリーズの末っ子308です。末尾の数字を開発順につけていき、最後に作られたウルトラライトモデルです。まことに遺憾ながら306は持っていませんが、基本的な構造は共通です。

 308は1960年登場です。日本でルアーが盛んになった70年代すでに登場から10年以上経っていたということです。今では考えられないロングセラー。しかもほとんど形を変えずさらに2000年まで生き続けたのですから、偉大というほかはありません。

 実測自重207g(写真のリールはアルミスプール装着、足を削っています)、ギア比4.4:1、スプール径40mmで、いまなら1000か2000サイズというところ。80年代中ごろまでフランスで、90年代まで台湾、90年代終わりから中国で作られました。

 末っ子といえば、90年に出た310ULはこのリールに小型のスプールと樹脂製のローターを装着したものでした。ただ、樹脂ローターに直接ネジを切ってピニオンがねじ込んであったり、ローター逆転でもベール反転装置が作動するためトラブルが頻発したり・・・正直300ファミリーとしては・・・。

ベール
 上のリールはベールをローラーガイドに組み替えていますが、70年代の308はタングステンカーバイドの固定式でした。いま使うにはちょっとこれは厳しいので交換しました。

 詳しくは「ベール」のページで。

ワンタッチスプール
 300譲りのプッシュボタン式ワンタッチスプールです。ドラグの音出しスプリングや下のワッシャーからのグリス類が付かないようにカバーされています。ベストのポケットに入れても引っかかったり汚れたりしません。

 深溝アルミと浅溝樹脂の2スプール。アルミスプールには80年代にアルマイト加工のシルバー、硬質アルマイトのブラックもありました。80年代中ごろからカーボン(?)に変更され2000年まで続きます。

ドラグ
 ドラグも基本的に300と同じ。上がファイバー、下がテフロン各1枚のシンプル構造。抜群に広い調整幅ではありませんが、必要十分。すべりもコンスタントです。でもコンスタントさはやはり部品精度の良かったフランス時代が一番だったかな・・・。

 スプールがカーボン(?)になったころからドラグ力アップのため上のワッシャーは皮、ノンアス(アスベスト代替品)と変わっていきました。

 余談ですが、昔シマノの某品管部長がこのドラグをまねした当時のダイワリールを見て「面白い設計やな」と感心していました。(あっしが教えた)フリクションベールだってカーディナル33や44がルーツなんだし、大手メーカーってけっこう昔のリール知らないのよ。

ボディー構造
 8枚ギアの300、3ピースボディーの302ときて、たどり着いたのがこの構造。306も同じ。機械を全部左側本体に入れ、サイドカバーは文字通り「カバー」になっています。

 ルーブポート(今でいうオイルインジェクション)より何より、メンテナンス性は最高でしょう。

ギア
 ギアはベベルギア。4.4:1のロースピードですが、登場した1960年代はこのくらいだったのかもしれません。

 いかにも機械が回っているという音がします。いまどきのギアゴロ神経症の方には絶対使えません。

 なんて書くといまどきの人をバカにしているみたいですが、私も最初の308を買ったときは「なんだこれ」と思いましたもんね。でも、そう思いつつ使っていくうちにハンドルとかストッパーの使いよさ、フェザリングのしやすさなど設計思想がわかってきて「リールのよさはギアだけで決まるんじゃない」というところに行き着いたのです。

 もっとも1960年代のリールのゴロつきがどうのと言うこと自体、2CV、ミニ、ビートルのオリジナルを買って静粛性を語るようなものなんだけどね。

ピニオンベアリング
 ピニオンギアは玉が2列入った「ダブルスラストベアリング」で支持。写真は玉押しネジが六角ナットになったもので80年代初めころのものです。

 ベアリングは3種類ほどあるのでページを改めて説明しましょう。

セットスクリュー
 上のピニオンベアリングを止めるセットスクリューです。左が80年代初めくらいまでのもの。右がそれ以降。右のほうがきちっと止まります。左はベアリングの玉をきっちり止めた分あえて遊びを出す設計だったのかもしれません。

プラナマティック
 シンプルでプレーンな308にあって、フランスらしい「ヘンさ」を発揮しているのがこの機構といえます。スプールが行きつ戻りつする奇怪な動きとともにラインを巻き上げます。ギア比13:10でスローな動きとクイックな動きが交互に入りつつ、それぞれが少しずつずれていきます。

 結果、放出性のいい「密巻き」と食い込みを防ぐ「綾巻き」が交互に重なり、放出性とトラブル防止性を両立するというもの。「こ、これは数学者の設計ではないか !?」と言ったリール設計者がいたとか。

 真ん中に多く巻かれる分エッジ抵抗が減るのもラインが少ないときの遠投性に有利。でも真ん中が盛り上がる分、スプールいっぱいに巻くとバサッと出ることもあります。そうなると普通のオシュレーション(クロスワインド)でスプールいっぱいに巻いたほうが・・・なんて野暮なことは言わないのがフランスのエスプリ(?)。

スライダーリテーナー
 オシュレーションスライダーとメインシャフトを止めるリテーナーは、左のように2本のピンを小判型のプレートに固定していました。これにより、スプールの軸方向ガタを小さく抑えていたわけです。

 308は、スプールの回転方向ガタは大きめですが軸方向ガタは小さく抑えています。この2つのガタのうち、ライントラブルにかかわるのは後者のほう。前者は影響がありません。ミッチェルがガタを抑えるのは理由があるということ。合理的、実用的リールだったのです。最近私は釣り雑誌でリールのガタを測っていますが、スプールに関して軸方向しか測らないのはこれが理由です。

 なお右のピンは80年代中ごろにコストダウンのため2本に分けられてしまったものです。これ以降のモデルでも入手可能なら左の一体型リテーナーにしたほうがライントラブルが減るはずです。


ストッパー
 ストッパーは302や304と同じくシンプルなもの。歯はステンレスのドライブギア軸と一体です。音も安っぽいし遊びも大きいためいまどきの人には受け入れられないでしょう。

 でも、おかげでシンプル軽量。しかも魚が掛かるまではオフで使う「ミッチェル式」なら何の問題もありません。(現在の高弾性ロッドではあまりすすめられませんが)オンのまま使ったときの音もカーディナル33や44ほど耳障りでもないし遊びの分ラインのピックアップもやりやすい。これでいいじゃないですか。

 もちろんストッパーレバーはハンドルから手を放さないで切り替えできる位置にあります。

スパイラルベベルギア
 これは408のスパイラルベベルギア。手間とコストがかかっていそう。もともと4.4:1のギアでスタートしたボディにハイスピードギアを入れると、こうなっちゃうんでしょうね。オフセットのあるハイポイドフェースギアやカーディナルなどのウォームギア(スクリューギア)のようにねじれ角を利用して高速化できないからです。

 でも、308からミッチェルを知った私には、滑らかでミッチェルという感じがしない・・・。

 それと、このギアでざらついた感じの回転のものは、ギアではなくベアリングからザラザラ感やノイズが発生していることが多いようです。

最終版308
 これは2000年7月生産らしき最後の308です。「最後の308」のページの“310UL”と同じもの。中国製です。

 でも、あのページの1999年11月生産“310UL”と比べても細部のできが良くなってきていました。最近のアボセットなどのできのよさを考えても、このまま続けて中国で作らせたらけっこういい線行ったんじゃないかな・・・というところで生産終了。

 2000年といえばミッチェルがジョンソンごとピュアフィッシング傘下に入ったころ。308の生産をやめるなど釣り具の歴史に対する冒涜です。これは罪深い・・・。

 最終版の中身はこんなふう(ただし上の通りオシュレーションスライダーのリテーナーは交換しています)。ドライブギアは亜鉛ダイキャストのフェースギアになっています。詳しくは「ギアの変遷」「フェースギア1」「同2」のページの通りです。ピッチ円の位置から考えると無理があるギアなのかもしれませんが、計算どおりでも有効歯幅0.9mmなどというマシンカットフェースギアよりははるかにマシです。

 不思議なのはドライブギアの軸を昔のものより0.3mm(!)細くしてギアを遊ばせていること。無理なギアをだましだまし回すためか、それとも他の理由なのか。ここらをもっと煮詰めて、さらには「フェースギア3」で取り上げたようなスパイラルフェースにするとかいろいろやってみて欲しかったな・・・。

 プラナマティックは廃止されていますが、その代わりラインをいっぱいに巻いてもトラブル知らず。ミノーに積極的にアクションを加えるいまどきの釣りにはむしろ向いています。

 自重を増しラインピックアップをしにくくする瞬間ストッパーやローターを重くしてしまう大型ラインローラーなどを廃したシンプルなリールには、今のリールにないよさがきっとあります。

 かといって、いまさらシマノやダイワがそんなものを作ったって「どうかしちゃったんじゃないか」と言われるだけでしょう。

 でも、ミッチェルならそれができます。なぜしないのでしょう?

 右を見ても左を見ても「ステラになりたいリール」ばかりの市場に飽き飽きしている人はきっといます。そこへ、“第3勢力”ピュアフィッシングまでがシマノ・ダイワ的リールを投入したって仕方ありません。

 308をもう一度作るとしたら、設計を一から見直すことも考えられます。ギア特性を改善するために少しボディーを大きくしても、ローター設計を見直して巨大な鉛のバランサーを縮小または廃止すれば軽さを維持できるかもしれません。ダイワはいまオフセットの小さいギアを採用して高効率をうたいますが、308は左専用機だからオフセットはゼロです。もっと軽快なギアが作れます。

 インスプールと同時に手返し可能なアウトスプール新「908」(または308S)をラインナップすれば、より広いユーザーを取り込めるかもしれないし、そこから308へ入ってくる人も出るかもしれません。

 308を生かすことは、歴史あるブランドを傘下に収めたものの責務でもあると私は思います。(2006/5/8)

MITCHELL spinning reels