アイディール
とうとう出てきた・・・いえ、出てないんです。というか、実はちょっとだけ出してやめた雰囲気。なぜ・・・? 輸入元が売らないのなら、別ルートででも買おうじゃないの。というわけで、カベラスで買いました。思ったよりずっと簡単。1週間くらいで届きました。
アイディール2000 フィッシングショーでの発表以来2年、結局アメリカから取り寄せました。参考までに59ドル99セントプラス送料24ドル50セントでした。正規品(たって売ってないんだから意味ないけど)の定価くらいになりました。 自重276g(アルミスプール装着時実測)、ギア比5.5:1、スプール径41mmの2000番サイズです。 ボディーとローターはアルミ製。ボディーはカーディナル600/700同様のワンピース構造です。 メイドインチャイナ。 |
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トータルベールコントロール 一番の特徴がこれです。 ラインピックアップのとき、ローターが行き過ぎてしまったとします。 |
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そのままベールを開くと・・・ |
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あら不思議、ストッパーがオフに。ローターを邪魔にならない位置にもっていけます。 |
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ストッパーがオフだから、キャスト中もベールが手前で止まることがありません。だからフェザリングが確実にできます。 ベールを閉じるとストッパーは再びオンになり、通常のリールと同様に使えます。 |
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これがローター内部。ベールアーム反対側の腕に、ベール返しレバ−とは別のレバーが出ています。ベールを開くとこれが下に下がります。 |
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レバーが黒い樹脂リングを押し下げると、ストッパー(ワンウェイクラッチ)がオフになります。ベールが閉じると樹脂リングは元に戻ってストッパーはオンになります。 さらに、ベールが開いているうちは樹脂リングとレバーが接触しているため、軽いローターブレーキとなり、ベール返りの防止にもなっています。 |
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ミッチェルスプールコンセプト ここからは、ミッチェルらしさを残している部分。ワンタッチ着脱の深さ違いスプールを装備。アイディール2000のスプールは308Xと互換性があります。おそらく4000は300Xと同サイズでしょう。ありがたい。 |
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ベールトリップ スムーズなベール反転のために、ベール返しの当たりを長くなだらかにしています。ベールスプリングは強めながら、衝撃少なく返ります。 |
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ハンドル これも300シリーズ以来のマシンカットハンドル。途中がブドウムシみたいに膨らんでいます。ホントは重量を増すだけなのですが、なまめかしくっていいかなと。 なお、固定は300Xシリーズのねじ込みから、共回りになっています。 |
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ノブ ノブもつまみやすい形状。300X同形状に見えますがややアールをつけ、ソフトな素材にしてあります。穴をあけて軽量化。もちろん樹脂成型の「ひけ」を防ぐためでもあるのですが、ノブ軽量化の意図もあると思います。 そうそう、このノブはネジで外せそうに見えますが、緩み止め剤が強いみたいなので外さないほうがいいです。私のはネジが折れてしまいました。300Xシリーズも注意したほうがいいと思います。 |
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ベールストッパー アボセットにも付いているベールストッパー。ここを押してもまったくたわみません。これが付いていれば、ベールが閉じる衝撃でワイヤが疲労破壊することはないはずです。私はベールワイヤーL曲げ部の疲労破壊を4回(なぜか全部S社・・・*)も経験しているので、ここが気になるのです。 *風評被害を防ぐために機種を書いときましょ。ML-1、カーボマチックEX2000、95ステラ2000、98アルテグラ2000、全部過去の機種です。 |
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凝ったデザイン ローターアーム付け根のカーブを見てください。普通ここはベール返しレバーの関係で、直角に張り出しています。でもこのリールは、デザインのために、両方の腕が同じカーブを描いています。ベール返しレバーを曲げてデザイナーの要求に応えたわけです。ダイワ・イグジストがこういうデザインですが、アイディールのほうが先だったのです。 300Xシリーズに対しデザインがすっきりしただけでなく、バランスウェイトも300Xよりは少なく、進歩しました。 |
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エンジンプレート カーディナル600/700シリーズと同じワンピースギアボックスのため、メインギアベアリングを外から入れています。それを止めるために、“エンジンプレート”を使っています。もしかすると、日本でこっそり売ってすぐやめた(?)のは、これがダイワのパテントにでもかかったか・・・?(もしそうなら、いっそ廃止してカーディナル600/700みたいに六角スプリングにしたほうがいいのでは? この“エンジンプレート”は亜鉛のようでけっこう重く、廃止すれば軽量化にもなるはずです) |
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でも、ベアリングを外から入れるのは、ミッチェルがクォーツでとっくにやってるんだから、これが理由ということでもないのか・・・。 |
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内部機構 ワンピースギアボックスにもかかわらず、ウォームシャフト平行巻き機構を採用。なんと、オシュレーションスライダーのガイドは片持ちです。普通こんな設計するか・・・? ところで、オシュレーションスピードはハンドル約1.1回転で1往復。めちゃくちゃ速いです(クロスラップを標榜するダイワ・トーナメント/エンブレム系の約2倍ですから回転は少々重め。でも、ハンドル1.5回転1往復のように意図しないところでターンする気持ち悪さはありません)。 |
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それは308Xと駆動系が共通だから。このリールも高速オシュレーションでした。 で、それは、おそらくシマノ98モデルを参考にしたからでしょう。300Xシリーズは2000年か2001年登場。開発はその1〜2年前のはず。そのころ現役だったシマノモデルは、薄型デザインでオシュレーションが速くなってしまった98モデルでした。2本のガイドでオシュレーションスライダーを支える設計も共通です。 どうも、アブ・ミッチェルはシマノを意識しすぎるきらいがあります。 |
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いまだウォームシャフト平行巻きにこだわっているのも、シマノだけです。ダイワはイグジストまでS字カムにしています。 欧米ではダイワよりシマノのほうが売れているらしいから、そっちをより意識してしまうのでしょうけど、オシュレーションスピードの右往左往とか頼りないベールワイヤとか、シマノのスピニングの方向性って(以下略)。 ベイトはともかくスピニングでシマノの後追いなんかしたらはまりますよ。ま、密巻きをまねしなかっただけでもRよりは(以下略)。 *危ない表現をしそうだったので一部省略しました。 |
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バラすと大変 話は元に戻って、ワンピースギアボックスですが、これも疑問です。リアカバーを外すには、このストッパーレバーを取らないといけないのです。で、いったん取ると、組めません。もちろん組めますけど、ローター内のスプリングが外れたり、リアカバーがうまくはまらなかったり、ひどい目にあいます。 同じ開発陣のカーディナル600の場合は、ギアへのアクセスがしやすかったのですが、これでは事実上分解不可能です。“エンジンプレート”の固定だって後ろ側は樹脂製リアカバーへのタップビスになってしまいます。危なっかしいウォームシャフト支持といい、ワンピース構造をあえてとるメリットがあったのか、疑問です。 駆動系は、カーディナル600/700系、もっといえばアボセットのものを流用してもよかったんじゃないかと思います。 |
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書いてもいいか・・・ いま「同じ開発陣」と書いたので、書いちゃいましょう。といっても、以前雑誌の取材でPFJの人が言っていたので、別にかまわないと思いますが、現在PF(ピュアフィッシング=バークレイがフェンウィック、アブ、ミッチェルなどを統合した会社)のリール開発は、スウェーデンでベイトと上級スピニング、アメリカでスタンダードスピニングをやっているそうです。 フランス・ミッチェル? まことに遺憾ながら、フランスの開発部門はもはやないそうです(悲しかったから記事には書かなかったのよ・・・)。だからおそらく、アイディールはスウェーデン開発。アブのリールなのね。だからカーディナル600/700系とボディー構造が一緒、内部のグリスの色も一緒なんです(注:具体的な機種振り分けまで聞いたわけではないので違っている可能性もあります。あしからず)。 |
でも、このリールはやっぱりミッチェルだと思います。たとえば、トータルベールコントロール。 ベールがフェザリングを妨げるのを防ぐ方法として、かつての名機が採用していた機構は2つあります。ひとつはカーディナル33/44などが採用していたローターブレーキです。これは現在、シマノやダイワが採用しています。 もうひとつはミッチェル300シリーズのストッパーレバーです。当時のミッチェルは、ストッパーレバーをハンドルから手を離さずに切り替えられる位置にし、ランディングネットを持つとき以外はストッパーオフで使うという方法を提唱していました。ストッパーがオフなら、ベールは人差し指の邪魔をしないからです。 |
後者の機構(というより考え方)を現代のリールに応用したのが、トータルベールコントロールだとはいえないでしょうか。
このほかにも、クィックチェンジスプール、ハンドルとハンドルノブ、ベール返しの味などにミッチェルらしさが残ります。凝りすぎた駆動系も、らしいといえばらしいかも。
このまま消えるのは、惜しいリールです。 (2005/11/1)
[ながーい追記] その1:長々としたいきさつ 話は1996年にさかのぼります。私はときどきシマノ釣具開発課に、自分が買ったリールの使用感想文を送っていました。そんな手紙の中に、そのころ使っていた95モデルのスピニングについて、こんなことを書きました。 「95モデルは脚を短くしてスプールへの指の届きやすさをうたっていますが、実際にはベールワイヤが人差し指を邪魔するためラインコントロールができません。カーディナル33/44のようにベールを開いたとき回転にブレーキをかけるか、ベールを開いたときだけストッパーがオフになる機構を付けてはどうでしょうか」 いまもシマノスピニングに搭載されているフリクションベール(ローターブレーキ)は、この手紙がきっかけで98モデルから採用されたのです(ただ、ほぼ同時期にマミヤOPからリベロRSが出ていますから、もしかするとどこかの会社の特許がこのころ切れたのかもしれません)。このとき手紙に書いたもうひとつの機構は採用されず、シマノはローターブレーキのほうを選んだのだなあくらいに思っていました。 その後、週刊釣りサンデー・マイナーリールの紳士録・ミッチェル408の回をDHLでミッチェル本社に送ったのがきっかけで、メールのやり取りをしていたフランス・ミッチェルP氏に、308Xを使用した感想や問題点を送ったときのことです。メールの最後に私はこう書きました。 「308Xはいいリールですが、ベールが人差し指をブロックしてラインコントロールできません。今の日本のリールのように、ローターブレーキを付けるべきですが、私にはもうひとつアイデアがあります。ベールが開いたときだけストッパーがオフになれば、使いやすいリールになります」 このメールを送ったのは2002年終わりか2003年春のことでした。やっかいなことに気づいたのは2003年の秋です。特許庁のHPでリールの特許を閲覧していた私は、とんでもないものを見つけました。ベールを開いたときストッパーをオフにする機構の特許を97年12月にシマノが出願していたのです。 そして2004年のフィッシングショーで私はアイディールに出会います。PFJの人からトータルベールコントロールの説明を聞いて、本当に驚きました。そしてすぐに思ったのは、特許がやばいということです。 私は、すぐにミッチェルP氏にお詫びとともに特許に触れないか調べるようにメールを打ちました。ちょうどその直後の4月PFJの人に会ったとき、P氏から日本に連絡が来て調査中ということでした。 そのままその年、アイディールは現れませんでした。しかし、2005年のフィッシングショーでは完成品が展示されました。カットモデルを見た私は少し安心しました。機構がシマノのものとは別物だったからです。それで「もう特許は大丈夫だったのですか?」とPFJの人に聞くと、意外にも、「まだ調査中」という答が返ってきました。しかも、前日シマノ開発陣が大挙してアイディールを見ていったといいます。 その後、特許問題は大丈夫という結論が出たと聞いたのですが、なぜかアイディールは出てきません。そして2005年秋に再度問い合わせたら、「発売はしたが不人気で動いていない」との回答。それで私は米国カベラスでアイディールを買ったのでした。 その2:なぜ出なかったのかに関する勝手な想像 不自然だとは思いませんか? そもそも店頭に並んでないのだしナチュラムなどの主要な通販サイトにもまったく出てこなかったのですから、不人気も何もないわけです。 で、その理由について、つらつらと想像をめぐらせてみます。 仮説1:シマノのベールの特許を恐れた シマノの特許はベールによってストッパーをオフにするというアイデアそのものも特許と言っているようですが(特許の文章はまともな日本語でないのでとても解釈が難しい)、機構的にはまったくアイディールとは別物です。 また、2000年8月にはマミヤがアイディールとほぼ同じ機構を出願しています。これが特許として認められているのなら、少なくともシマノの特許は大丈夫のはずです(素人考えですが、ベールを開いてストッパーがオフになるアイデアだけで特許に触れるならマミヤのものはそもそも特許にならないでしょう・・・)。しかも、おそらくPFJはマミヤの流れを汲んでいるはずですから、よもやマミヤの特許に触れてどうということはないでしょう。 それでも出さなかったのは、あまり売り上げのないミッチェルブランドで少しでもリスクのあることは避けようとしたのではないかと考えられます。 私の手紙やメールがどこまで影響を与えているかはわかりません。PFJによるとアイディールの機構は以前よりアイデアとしてあり、私のメールは関係ないとのことです。実際マミヤがアイディールと同じ機構の特許を持っています。シマノの特許にしても私の手紙によるものかどうかはわかりません。 でも、どちらもタイミングがタイミングだけに、私としてはなんとも気持ちが悪い。一番あってほしくないケースです。 仮説2:エンジンプレート 本文にも書いていますが、アイディールはダイワのエンジンプレートと同じような方式でメインギアベアリングを止めています。これがダイワの特許にかかったのかもしれません。 でも、アイディールのワンピースボディー構造とセットならこれは別物になりそうです。ただ、デザインパテントとなると、どうなんでしょう。 これ以上のことはわかりません。でもまあ、よもや大ダイワ精工たるものが、もはや知名度すら怪しいミッチェルをいじめるなんて、ありませんよねえ・・・。 仮説3:そもそも売れないと見た 300Xシリーズなど、ミッチェルそのものが売れておらず、シリーズとしては高価格なアイディールは売れないとふんだ。意外にありそうな気もします。しかも、PFJとしてはミッチェルブランドを(たぶんアブガルシアとの棲み分けで)初心者ファミリー向けとする方向とか。 たしかに、お店に300Xシリーズは残っていそうですけど、そもそもいきなりスタンダード、プロ、ゴールドの3機種展開がむちゃだったのでは・・・。 仮説4:回転性能 これも本文中に書いていますが、回転はよくありません。オシュレーションが速すぎるからです。残念ながら、回転に関してはアボセットのほうがいいです。しかも、いまや1万円ちょっとでステラなみの回転のバイオマスターが買えます。 ただ、このリールを理解する人はそういう回転オタクみたいな人とは違うような気が・・・。 仮説5:生産が上がらなかった アイディールは日本だけでなく、たとえば米国バスプロショップスでも売っていません。ネット検索しても、あまり売っているところは多くなさそうです。もしかすると片持ちウォームシャフトなど凝った内部機構のために回転不良率が高く、生産ラインが思うように動かなかったとか・・・。 いかに中国製とはいえ、アルミボディー&ローター、ウォームシャフトオシュレーションなど、決して低コストリールではありません。一方、米国での価格は実勢50〜60ドルで決して高くありません。これで生産が計画通りに上がらなければ、コスト割れになってしまうこともあるでしょう(昔シマノの低価格投げリールで、組み立てラインで1回組み直しがあったら赤字になるものがありました)。だから見切りをつけたとか・・・。 ベイトのEONといいこのアイディールといいABU(たぶん)開発は、斬新で意欲的ですが、理想主義に走りすぎているのかなと思うことがあります。 とまあ、つらつらと考えてみましたが、どの道消えそうな雰囲気です。自分のアイデアが形になった(・・・ということにしておいてくださいな。本人はそれで幸せなんだから)のに、残念です。 発売されなかった理由が「仮説1」でないなら、ぜひ次の300Xシリーズ(アボセットベースでいいと思う)に、トータルベールコントロールを付けてほしいと思います。(2005/11/22) 追記の追記 いけませんね、長々と書いているうちになにが言いたかったのかわからなくなっちゃいました。書こうとしたのは、釣り具(に限りませんが)における特許のあり方です。 おそらくアイディールが(事実上)発売されなかったのは、やはり「仮説1」だろうと思います。たしかに特許制度がなければ、まねした者勝ちになってしまいます。でも、実用化してもいない特許が、まねではなくたまたま同じものを実用化した他社へのプレッシャーになってしまうのは、問題だと思います。 こうしたケースとして代表的なのが、スピニングのベールスプリングです。80年台中ごろから耐久性に優れたコイル式ベールスプリングを各社がいっせいに使い始めました。これは、それまでアメリカの会社がコイルスプリングをベールに使うことに関して特許を持っていたからです。 しかし、その会社は特許を持っているだけで、実際にはリールを作っていませんでした。この会社のために世界中の釣り人は1年もしたら折れてしまうトーション式ベールスプリング(80年代のアウトスプールカーディナルC3/C4などの形式)を持つ欠陥スピニングリールを使わせられ続けたのです。ベイトリールの電磁ブレーキも同じケースです。 他社が実用化して成功した後で、実はそれうちの特許だもんねと市場を乗っ取ってしまったケースもあります。シマノのベイトランナーが国内生産と販売をやめさせられたのがこのケースです。 特許を持っていながら使わなかったということは、それが役に立つと判断できなかったのだともいえます。いわば判断を誤った側が、それなりに投資をして独自のものを発売した他社に対して後から特許を持ち出すのは、素人の私から見るとアンフェアなことに見えます。 たぶんアイディールの件でシマノがPFJに圧力をかけたということはないと思います。おそらくPFJのほうであえて問題になりそうなことはやらないことにしたのでしょう。でも、いま書いたような特許のあり方、使われ方がプレッシャーになったとは考えられます。 特許庁のサイトを見てみるとわかりますが、使ってもいない、しかも何でこんなことがというささいな「特許」がめじろ押しです。リールは特許のかたまりとはよく言ったものですが、これでは新規参入メーカーも生まれません。 特許とはそういうものだと言われればそれまでですが、今の特許のあり方では、消費者は同じ会社の同じような製品をいつまでも使わせられ続けることでしょう。(2005/11/24) |