フェースギアその2

 有効歯幅が0.9mmもなかった80年代308Aのフェースギア。これを何とかできないか?
 引き続きギアの専門家立ち入り禁止です。

308Aのフェースギア
 ピッチ円の外側しか有効な歯として使えないフェースギアで、ピッチ円直径が31.85mmもあった80年代のギア。ピッチ円外側の有効歯幅はたった0.875mm。これではすぐにゴロゴロになります。
 では、歯数や歯の大きさを変えてピッチ円を小さくし、有効歯幅を広くできないかという計算をしてみましょう。
 ピッチ円の内側の歯は最初からないもの(下のイラストのような形状)として、以下のイラストは描いてあります。
 写真のギアは、歯の曲げ強度を保つために、たとえ歯を当てなくてもピッチ円の内側にも歯を残しておいたほうがいいと考えて、作られているのだと思います。
パターン1:ギア比を落とす
 メインギアのピッチ円を小さくするには、ギア比を落として歯数を減らせばいいことになります。70年代までの308と同じ4.4:1くらいのギア比にすると・・・
 ピニオンギアの歯数は10ですから、メインギアの歯を44枚にします。でも、こうすると偶数対偶数で歯が総当りしないので、43枚にします。このときメインギアのピッチ円直径(PCD=Pitch Circle Diameter)は、
 モジュール=PCD÷歯数
 0.65=PCD÷43
 PCD=0.65×43
   =27.95
となり、ピッチ円直径は27.95mmとなります。このとき歯幅は2.825mmとなり、元のギアの3倍以上の歯幅になります。
 おそらく耐久性やギアノイズも改善されるはずです。
 しかし、リールとしてみた場合、スプール径40mmでギア比4.3:1(ハンドル1回転で54cm)は低すぎます。
パターン2:ピニオンギアとメインギアの歯を減らす
 それでは、ピニオンギアの歯を減らせば、ギア比を保ちつつメインギアのピッチ円直径を小さくできるはずです。
 ヒントはこれ、308プロや80年代の408Aのギアです。歯数10だった308Aに対し、ピニオンギアの歯を9に減らしています。
 歯先円直径は7.8mm、モジュールは308Aと同じ0.65です。前のページの308Aのピニオンのように歯元がやせていないのは転位しているからでしょう。転位係数を算出してみると、
 歯先円直径=(歯数+2)×モジュール+2×モジュール×転位係数
       7.8=(9+2)×0.65+2×0.65×転位係数
   転位係数=0.5
となります。転位(切込みを浅くする)して歯切りしたのは、歯底円とスプール軸の穴の間に、肉厚を確保する目的もあったのだと思います。
 しかしこのモデルでは、ハイスピード化のためにメインギアは308と同じで、ピッチ円直径はそのままでした。上の真鍮製のほうが308プロのメインギア、下のアルミが308Aのメインギアです。まったく同じもののようです。
 このピニオンでギア比を5:1程度にすると、メインギアの歯数は44になります。このときのピッチ円直径は
  モジュール=PCD÷歯数
 0.65=PCD÷44
 PCD=0.65×44
   =28.6
となり、28.6mmです。このとき歯幅は2.5mmになります。これも最初の歯幅0.875mmに比べればはるかにいいはずです。ただ心配なのは、ピニオンの歯数が少ないことで、同時にかみ合う歯が少なく(かみ合い率が小さく)、耐久性やギアノイズが十分かどうかということです。でも、オリジナルの308プロや408Aよりは、はるかにましになるはずです。
パターン3:歯を小さくする
 歯の大きさを、モジュール0.65より小さく取れば、メインギアのピッチ円も小さくなります。モジュールを一つ下げて0.6にします。なお、計算は省略しますが、ピニオンは0.5転位させます。そうしないと歯底円が小さくなるので、ピニオンの穴に干渉する危険があります。
 歯数を10と49で変えないとすれば、メインギアのピッチ円直径は
  モジュール=PCD÷歯数
 0.6=PCD÷44
 PCD=0.6×44
   =29.4
となり、29.4mmです。このとき歯幅は2.1mmです。モジュールが小さい分、歯は弱くなりますが、歯幅が2倍以上になっているのですから、元の歯よりは優れているはずです。

 実はこのギアは、最終版の308に採用されていたものかもしれません。
 正規輸入が途絶えたあとに、なぜかバッジだけが310ULの中国製308が一部に出回りました。そのリールを買った人によると、台湾時代より回転がねっとりしてスムーズだったそうです。ギアの写真ももらいましたが、歯数は同じでも歯幅が明らかに広くなっていました(ただし7月のハードディスク破損事故で消失)。もっと早くやれよ・・・ミッチェル。

 なお、上記およびそれ以外の試算は以下のとおりです。なお、歯面積は歯たけを2.25モジュール(0.65は1.46mm、0.6は1.35mm、0.55は1.24mm)とし、単純に歯幅をかけました。フェースギアはピッチ円から離れるほど、正しくかみ合わないわけで、単純に歯幅を使って歯面積を計算しても、実際の耐久性や強度はわかりません。ただ、目安として面積の広いものほど優れていると考えられます。

モジュール ピニオン
歯数
メインギア
歯数
転位係数 歯幅
(mm)
歯面積
(mm2)
ギア比 備考
0.65 10 49 0 ? 0.875 1.28 4.9:1 80年代の308A
0.65 10 43 0 ? 2.825 4.12 4.3:1 パターン1
0.65 9 49 0.5 0.875 1.28 5.44:1 308プロなど
0.65 9 46 0.5 1.85 2.70 5.1:1  
0.65 9 44 0.5 2.5 3.65 4.9:1 パターン2
0.6 10 49 0.5 2.1 2.84 4.9:1 パターン3
0.6 10 51 0.5 1.5 2.03 5.1:1  
0.55 10 51 0.5 2.775 3.44 5.1:1  
0.55 10 53 0.5 2.225 2.76 5.3:1  
0.55 11 54 0.5 1.95 2.42 4.9:1  
0.55 11 56 0.5 1.4 1.74 5.1:1  


 こんな計算をやっていると、「旧408のスパイラルベベルギアのほうがいいじゃないか」と言われそうです。でも、あれはもう作れないでしょう。

 それに、私はシンプルで簡素なミッチェルには、ローコストなフェースギアのほうが似合っているようにも思うのです(もっとも、これ以上高度な計算ができないからということもあるが・・・)。フェースギアなら、金型を起こして、亜鉛ダイキャストや真鍮、軽合金鍛造など、量産性のいいメインギアもできます。

 何とかこれで、308の復活を・・・!? (2003/9/8)

MITCHELL spinning reels