最後の308

 ごく一部で話題になっていた(?)、謎の“310UL”。正体は最終版の308でした。

最後の308
 デザインは80年代終わりころからずっと変わっていませんが、おそらく最終版308に相当すると思われるリールです。
 メイドインチャイナです。

誕生日
 おそらく1999年11月製造だという意味でしょう。米国のHPから300シリーズが消えたのが2000年でしたから、本当に最後のロットだったのかもしれません。

310UL ?!
 ところがところが、なぜか名前は310UL。310ULは本来小径スプールと樹脂製小型ローターをつけたモデルです。製造ミスか・・・?

確信犯
 どうも確信犯のようです。取説のスペック表にも、308とまったく同じスペックで310ULが載っています。台湾から中国へ生産を移すとき、専用の型を起こすのがもったいなかったのかもしれません。

 で、「アメリカ人みてゃあなもん、大統領選挙の票もよう数ええへん、とぉろくせえやつばっかやでなあ、308に310ULって書いといたりゃあ、わっからへんわ」と、こういう風にしたのでしょう。たぶん。

メインギア
 メインギアは亜鉛のフェースギアになっています。

歯形の改良?
 下の写真のアルミマシンカットギアと比べると、有効な歯幅がいっぱいにあるようです。当たり面も広く、耐久性もありそうな感じ。
 ところが、ピニオンギアの外周はアルミマシンカットメインギアのころと同じです。それではこんな歯になるはずがないのですが・・・。
ごまかしか?
 ピニオンが同じなのに、ピッチ円(「フェースギア1」のページ参照)が内周寄りにある(ように見える)メインギアと噛み合ってしまうのはこれが理由かも。

 メインギア軸とブッシュのクリアランスが大きめで、メインギアのがたつきがかなり大きくしてあります。これにより、本来噛み合うはずのないギアを、なんとなく噛ませてしまっているのかもしれません。

なお、ブッシュはフランス〜台湾製時代の鉄系焼結から、銅系焼結になっています。

巻き上がり
 これは80年代以降の欠点をそのまま引きずっている部分。ひどい後ろ巻きになります。
 で、0.9mm穴をずらしたスライダーに交換したら・・・
 水平になりました。つまり、糸巻きピッチがほぼ1mmずれているということ。なにをやっとるのやら。
ベールスプリング
 これも80年代終わり(90年代初め?)ころの欠点を温存。巻き数の少ないベールスプリング(左)です。なにしとんねん! なお、私の個体に関しては、80年代までと同じ巻き数のスプリング(右)が無事組み込めました。

 このリールや同じころの中国製308に正規の巻き数のスプリングを入れるのはダメのようです。私は中国製308に巻き数を80年代と同じにした複製スプリングを入れて使っていたのですが、先日、他のリール(折れたことがない)より使用回数が少ないのに折れてしまいました。先端が内側に押し込まれたように折れていたので、スプリングの入る部分の深さが足らないのが理由のようです。中国製308、同“310UL”に関してバネ寿命を伸ばすには、バネはそのままでベールアームのLポイント用の穴をずらすのがよさそうです。穴は1mmのドリルとピンバイスであきます。計算上50度ずらせば正規の巻き数にしたときと同じ応力になります。私は安全を見て80度くらいずらしました。(2007/6/13追記)

 追記の追記:スプリングが折れた中国製308の使用回数・時間は18釣行80時間でした。思ったより多かったですが、1時間60投として4800回は少なすぎます。折れ方の異常さから見ても、スプリング用スペースが原因だと判断されます。なお、写真左のスプリングはLポイントが長すぎるので、適当な長さに切ったほうがいいでしょう。(2007/6/13)

ベールアーム
 ベールアームはよく見ると型を起こしなおしているよう。でも、ふところやナットにラインが絡むのは未改良(「ベールアーム糸がらみ対策」のページ参照)。写真はすでにエポキシで、対策しています。なにやってんだか。
ドラグ
 ドラグワッシャーはノンアス(アスベストの代替品)のようです。でも、ドラグ力過剰で均一性もダメ。昔のファイバーは釣力不足気味でしたが、これでは使えんでしょう。

対策するなら
 90年代以降のアスベスト(黒くて厚いやつ)やこのノンアスには、シマノの両軸用ドラググリス(エース2)を塗ると、特性がかなり改善されます。ドラグワッシャーが小さい(面圧が大きい)ためスピニング用(エース0)より、こっちのほうが向きます。詳しくは同社のオーバーホールカタログで。

追記:たぶん黒くて厚いのも時期的にいってノンアスでしょう。

ベールワイヤとラインローラー
 04ステラのようなワンピースステンレスベールワイヤを引き続き採用。ラインローラーは樹脂ブッシュ入り。これらは80年代前半からずっと採用されています。これはエライ。

 なお、ローラー支持部のバリは落としておいたほうがいいかと思います。


 308が生まれたのは1960年です。よくこれだけ生き続けたものです。

 でも、この308(?)を見ると、やはり惜しいと思えてきます。ライントラブルにつながる糸巻き形状、ベールの糸がらみ、ベールスプリングの折れ、ドラグなどの欠点は、80年代終わりころからずっと放置されていました。これらはいずれもスピニングにとって、致命的なものです。

 こうは考えられませんか? こういう欠点を持ったものを出荷し続けても、308の息の根を止めるのに10年以上かかったと。

 いっぽうで、(この方法はあまり感心できませんが)ギアの改良を試みたり、21世紀になってステラが採用したような(もしくはそれ以上の)ベールをキープしつづけたなど、やる気はまだあったみたいです。

 上の欠点を見直し、ギアを改良し、ベールなどのよさを残していったら、今も308は生きていたと、私は確信しています。残念です。(2004/4/29)


けっこういけます
 上の4点(巻き上がり、ベール糸がらみ、スプリング、ドラグ)を対策した上で、5時間ほど使ってきました。

 もちろん現代のリールのようなスムーズさではありませんが、ハンドルに伝わる明確なギアゴロがないのが好印象。70年代モデルのダブルスラストベアリングのジャーッというレースのこすれ音もありません。

 プラナマティックなしですからハンドル1回転でスプール1往復です。そうすると回転が安っぽくなりがちですが、自重の大きい亜鉛メインギアがスプールターン時のトルク変動やリール本体のぶれを殺しているため、回転フィールは良好です。

 運動する部品が重いのはいいことではありませんが、結果オーライ、まあいいか・・・。

 1000m570円のパリパリ(糸を緩めると勝手にパラパラ出るくらい)の安物ナイロン2号を巻きましたが、ライントラブルゼロでした。ハンドル1回転1往復方式の強さです。トラブルがない分ラインをいっぱいに巻けば飛距離も文句ありません。これは80年代以降のモデルも同じ。

 80年代フランス製時代の“カーボン”スプールは表面のつや消し加工がきつすぎてラインを傷めましたが、このリールのは指でなでても滑らか。ラインも傷まないようです。

 話の(HPの?)ネタにと買ったリールでしたが、けっこうこれから使ってしまいそうです。そうしてみると、上の4点セットがやっぱり残念ですね。(2004/5/9)

MITCHELL spinning reels