ベール返しがエライ
 ミッチェルインスプールはベール返しの位置もちゃんと考えてます。

ガンコな記述

The anti-reverse allows, when you have a catch, to have the hand holding the handle free to net the fish. The anti-reverse is engaged by pushing on button in the direction of the arrow. It is not recommended to have the anti-reverse <on> all the time.

 これは300シリーズなどの説明書の一節。すごいじゃないですか。ストッパーの遊びがどうとか言ってるいまどきの人が見たらひっくり返りますよね。

 さらに、この“ミッチェル流”に応じてベールトリップの位置もちゃんと考えられているのです。

当たり始め
 ストッパーをオフにしていると、ローターがぶらぶらする分キャスト時のベール返りが起きやすくなるリールもあります。308はベール返しアタリの位置で、ベール返りを起きにくくしています。

 308などの場合、このように、普通のリールと比べると90度くらい早めに当たります。

 これはアボセットの当たり始め。他社製品を出すと誤解を招くので同じミッチェルリールの写真を使いましたが現在ほとんどのリールはこのくらいの位置です。

 なぜベール返しアタリが早い位置にあるとベール返りトラブルが起きにくいのかは、ベール重心で説明できます。

 開いたベールワイヤの重心はこの部分にあります。

 指でローターを時計回ししながら観察するとわかりますが、上の位置からアタリの位置にかけて、ローターが「ストン」という感じで回ります。重心が頂点を越える境目だからです。

 キャスト時にローターが回ったとき、この「ストン」がある分、いまのリールはベールが返ってしまう危険が大きくなっているといえます。

 難しく(?)説明すると、ベールが一番上に来たときの位置エネルギーが、回転とともに運動エネルギーに変わっていくわけですね。

 つまり、ミッチェルインスプールは重心が頂点を越える「ストン」の前にアタリに当てることによって、ベール返りトラブルを減らしているわけです。

 だから小指一本でも返る軽いベール反転力にもかかわらず、トラブルが起きにくいのです。

逆回転側
 これがより“ミッチェル流”に深くかかわってくる部分。

 ストッパーをフリーにして投げると、スイングの瞬間ローターは逆に回ろうとします。このときはアタリに当たらないよう、アタリの位置が深く(写真でいう反時計回りに深く)なっています。

 これが浅い位置(時計回りにずれた位置)だと、そこからローターが跳ね返って正転し、ベール返りの原因となります。

 上の写真では、キャスト時にローターが回ってしまったときのことを説明していますが、それ以前にキャスト時のローター回転が起きないようになっているわけです。

カーディナル600
 以前「カーディナル600のアタリ位置はおかしくないか?」というメールをいただきました。上が当たり始め、下が逆転の当たり位置です。ミッチェル308と同じなのです。

 これはおそらく、上記の考え方にのっとった設計だったのだと思います。だからそのぶんこのリールはベール反転が軽く設計できたわけです。


 ストッパーをフリーで使わせるのは、ストッパーの破損を防ぐための防御線ではないかといううがった見方もできます。しかし、こういった設計を見ても、ミッチェルはストッパーをオフで使うのが「本式」と考えていたのだと思います。

 実際ストッパーをオフにして使い始めると、たらし調整、ルアーがゴミを拾ったときの処理、ルアー交換などがとても便利なのに気づきます。フェザリングも確実にできます。

 その「ミッチェル流」を確実にこなすため、ベール返し位置まで考えて設計している。ミッチェルはやはりエライのです。(2006/6/14)


注意:上の写真説明を見ると、現在のリールはベール返りトラブルを起こしやすいと読めるかもしれませんが、ロッドをまっすぐ振っている限りそれはありません。開いたベールの重心位置(4枚目の写真)を考えればわかるとおり、スイング時にローターは逆に回ろうとしているからです。ストッパーを掛けないと跳ね返ってきて(7枚目の写真の話)トラブルを起こすものもありますが、いまのリールでそういう使い方をする人はいないでしょう。


注意:より安全にかつベール反転力を軽く設計できるのに、なぜいまのリールも308みたいな位置に設計しないのか? この点について元リール設計者(元日吉産業原氏)に聞いたら、ああいう位置に設計するとアタリの部分で無理に開いてベールを壊す「熊の手」釣り師が多いからだそうです(インスプールのベールを無理に手で閉じる人といい、おつむまで熊並みとまでは言わんが・・・言っとるがや)。普通そんな位置でベールを開いたらフェザリングもできないわけで、私に言わせりゃそんな釣り人相手にしなきゃいいじゃんというところですが、メーカーというのはそうはいかんものなのですな。ただ、現在のリールメーカーがそこまで考えているかというとちと疑問。単に糸拾いの180度反対側に設計しているだけでしょうね。昔ここに書いたようなことをS社で提案したことがありますが、「考えたこともなかった」と言ってましたから・・・。


MITCHELL spinning reels