あらためて300
 よくよく考えたらこのサイト開設以来、300はおろか308などについても詳しく書いたことがありませんでした。まずは原点300から、中身を見てみましょう。続いて302、304、308を(たぶん不定期に)やります。

ミッチェル300
 世界最初の量産スピニング、ミッチェル300は1947年に誕生し、2000年まで生き続けました。これは70年代のモデル300Cです。

 スプール径50mm、自重300g、ギア比約3.8:1、現在の3000〜4000番くらいのサイズです。

ワンタッチスプール
 プッシュボタンで着脱されるスプールです。登場当初から採用。いまのアボセットや300Xのカートリッジスプールにつながるもの。

 写真は樹脂のシャロースプールですが、アルミの深溝スプールも装備されていました。リールを買うと2個スプールが付いてくるのは、釣り人本位。釣り場で助かります。

ドラグ
 ユニークなドラグ。板バネで調整幅を出し、ノブは樹脂にねじを切っただけ、ドラグワッシャは1枚のシンプル構造。超ワイドレンジではありませんが、実用上十分な調整幅。(フランス生産時代の部品がちゃんとしているものならば・・・)コンスタントで、なかなかいいドラグです。

 このスプールは前面がテフロンワッシャー、(見えませんが)スプール下がファイバーワッシャーになっていますが、アルミスプールや308などは前面がファイバー、スプール下がテフロンです。なぜか300の樹脂スプールだけが逆で、これを入れ替えるとドラグがしゃくります。

ベール
 真鍮鍛造のベールアームとピアノ線のワイヤをロウ付けし、クロームメッキした一体ベールです。登場初期は特許の関係でハーフベール、その後タングステンカーバイドの固定ラインガイドのフルベールとなり、このモデルは硬質クロームメッキされたローラーガイドとなります。

 ローラーにブッシュは入っていませんが、ローラーはリン青銅製のようで、ステンレスのシャフトで支持されています。

ベール反転機構
 キャスト時のベール返りを防ぐため、1の部分が板バネ状になっていてブレーキの役目をします。2の部分がベール返しレバーの当たりですが、ハンドル逆回転ではレバーによってこの部分が押し上げられ、ルアーのたらしが調整できます。

 このプレートは、後述するパイプに固定されていて、回転しません。ベール返しレバー支持部の点検と注油ができる穴にも注目。

ギアシステム
 まるで時計のようなギアシステム。一瞬すごいと思いますが、開発当事ハイギアのベベルギアが作れなかったかららしいです。他に、ベベルギアは回転方向を変えるギアであって増速に使うものではないという機械設計のセオリー(?)にのっとったのだという見方をする人もいます。


 ローター回転は、A、B、Cの順での順で動力を伝達します。Bのギアは背面にAと噛み合う平歯車が付いています。

 こういう構造だから、ローターが逆回転になっているのです。


 スプール往復はa、b、c、dの順で動力を伝達します。

 dは平行巻機構のギア。これを外すと・・・。

ハーフ・ラック&ピニオン
 正確にはどういうのか知りませんが、ラック&ピニオンを応用した平行巻システムです。ギアdの裏側にある3枚の歯が黒く見えるプレートの片側ずつに噛み合って、これを等速往復させます。このプレートはスプール軸に連結しています。

 間違いなく世界最初の完全平行巻機構でしょう。

バックボーンパイプ
 ボディーのセンターにインサートされた鉄系のパイプです。この先端部にピニオンギアが支持され、内部をスプール軸が通ります。ピニオン支持部より後ろはシャフトが見えるようにスライスされ、平行巻機構に対応しています。

 現在のリールのようにピニオン内面で往復と回転両方の摩擦を受けるのではなく、回転のみにして負担を軽減しています。太い分耐久性もいいでしょう。シャフトはパイプにサポートされたわむことがありません。

 そうそう、こうしてシャフトやギアの接触面積の大きい設計ですから、300系はグリスの粘りがものすごく回転にきいてきます。シマノの純正グリスがおすすめ。別のリールのようになります。

非対称ボディー
 今のアボセットなどのボディー右サイドデザインのモチーフにもなった非対称ボディーは、上のような構造から生まれたものなのです。

ルーブポート
 お尻のネジは注油口です。ボディーを貫通するパイプに通じていて、内部を潤滑することができます。

メインギアのオイル穴
 メインギアの軸に見える小さい穴は、ハンドルをねじ込む穴につながっています。したがってハンドルを外してオイルをたらせば、お尻のルーブポートからでは届かないメインギア軸を潤滑することができます。

 黒く見えるのはローラーベアリング。いまのワンウェイクラッチではなく、ころ軸受けです。Cモデル(および400系)はローター(にかしめられたピニオン)の前とハンドルに各1個、これが入っていました。

 すごいなあ、ですって? すごくないです。別に今のリールに対して、何が優れているって、ありません。50年前のリールですもん。

 ギアノイズはすごいですよお。平歯車があんなに入っているんですから。ベベルギアだってストレートだし。

 でも、これでちゃんと魚釣りはできます。ええやないですか。


 それに、ユニークなのはたしかですね。いくらベベルの量産がきかない時代だったといって、8枚もギアを仕込もうとしますかいな。

 コスト優先のように見えて、スライスしたパイプのインサート部分なんて凝ってます。完全平行巻機構もユニークです。

 やっぱりこれは、フランスでしか生まれなかったリール・・・そう思います。 (2005/6/24)

MITCHELL