クォーツを考える

96年に発表されたミッチェルクォーツ。デザイン的な問題で不発だったこの奇作を、いまあえて考えてみます。

クォーツ330
 インスプールを採用し、ミッチェル300の再来を狙ったクォーツです。アメリカでは、スパイダーキャストとかプレシジョンという名で売られました。
 日本では97年のカタログに掲載後、品質的理由でかなり送れて発売され、ほんのわずかに売られただけでした。
ラインコントロール
 最大の売りになっていたのがこれ、キャスト直後のラインをいったんベールで軽くはさみ、テンションをかけながらラインローラーに誘導します。ライントラブルの原因になるループをスプール上に巻き込まないためです。
 2001モデルのステラのベールアーム(アームカム)に(役に立ちそうにない)バルジが付いています。案外クォーツがヒントだったのかもしれません。クォーツの欧州向けモデルには、ラインローラーの下まで隙間を埋めて、緩い巻き取りに対処したモデルがありました。
 使ってみると、たしかにうまく働いてくれますが、不細工……。
強力なベール
 スピニングの弱点、ベールを強化。発想としては、99年発表のダイワのエアベールと同じです。
 方向性は間違ってません。
 でも重い。しかも、閉じたときの衝撃が大きく、せっかくのスムーズなベール返しがだいなしです。
カセットスプール
 96年発表のフィンノール(当時マミヤ傘下)のエイハブと同じ発想の、カセットスプールです。
 しかもキャパシティー違いのスプール3個付き。
 でも、キャパシティーがやや不足気味。330はともかく、310は6LBくらいがやっと。アメリカでは苦しいでしょう。しかも、スプールを2重にしているようなものですから、どうやったって重くなります。
インスプールの長所とは?
 と、他社の参考になったのではないかと思われる、アイデア満載のリールでしたが、売れませんでした。原因は、インスプールの特性を理解していなかったから。
 インスプールの長所は、軽量コンパクトです。もしクォーツのスプールが他のリールと同じ、スカート付きだったらどうでしょう。いま青矢印のところにあるスプール後端が、赤矢印のところまできてしまいます。これだけコンパクトになっているといういうことです。
 上の3つの新機構は、デザインを損ねただけでなく、せっかくの軽量さを殺してしまいます。アイデアは認めますが、クォーツに付けるべきものではなかったのです。
 では、どうしていたらよかったのでしょう。
糸落ち防止
 インスプールの弱点、スプール下への糸落ちを防止するリングです。ミッチェルとしてはインスプールの欠点を解決するために採用したのでしょうが、あらためて考えると、大変なことなのです。
スカートレス
 スプールのスカートをカットしてしまえば、リールが軽量コンパクトになるのはわかっているのです。しかし、スプール下への糸落ちや、ドラグが入らないといった問題があり、写真のような投げ専スピニングなどにしか採用できていません。
 糸落ち防止機構を備えたインスプールであるクォーツは、こういったスカートレスの問題を、二つともクリアしているのです。
こうしていたら……
 あれこれと欲張らずに、糸落ち防止機構だけ付けて、デザインをシンプルにし、300のイメージを取り入れていたら、どうだったのでしょう。
 左のへたくそなイラストは、一番上の写真を下絵にして描いてみたものです。ローターの下のくちびるみたいだったバランサーは、ミッチェルのバッジにしてみました。
 これなら、ミッチェルファンにも、そうでない人にも受け入れられそうです。
 (図をクリックすると大きくなります)

 結局不発に終わったクォーツですが、ひとついえるのはこのリールはミッチェルにしか作れなかったリールだということです。もしかすると、90年代に生まれたリールの中で、もっとも革新的なものだったのかもしれません。意欲とアイデアが空回りしているミッチェルですが、この点は認められるべきでしょう。
 また、だからこそ、インスプールの本質を見据えた、300の再来ともいえるものを作るチャンスを生かせなかったのは、返す返す残念なことでした。

(2002/8/16)

MITCHELL spinning reels