08ツインパワー
 やっと308に追いつきおったな(?)。

08ツインパワーC2000S
 私としては98の1000番以来10年ぶりに買ったツインパワーです。最近のパターンどおり、ステラのボディーをマグネシウムからアルミに、ローターを樹脂にして登場です。でもまあ98は駆動系の材料がアルテグラやバイオと同じでしたし、95にいたってはスプールも重いダイキャストでした。高級化が進みましたね。

 C2000Sは1000のボディーに大口径スプールを付けたもので、前ツバ径42mm、有効径39mm(40mm?)です。

 余談ながら「ツインパワー」の名前は86年に出た「チタノス・ツインパワーGT」が最初。もともと開発時の名前は「エアロ磯」だったのですが、磯竿の「ツインパワー磯」に合わせてこの名前になりました。ダイワのウィスカー・トーナメントSSの対抗商品で、シマノ初のロングスプール小型スピニングでした。

 余談ついでに竿の「ツインパワー」は「ハイパワーX」の発展形(?)で、X巻きのカーボンテープを幅の広いのと狭いのにして模様を複雑にしたものでした。当時は幅広がねじれ、幅の狭いほうが耐衝撃(逆やったかも)だとかなんとか言っていましたが、本当のところはデザインでした。
いまでこそX巻きはねじれ剛性(ねじれに対する硬さ)を増す目的で投げ竿の穂先やルアー・フライロッドを中心に使っていますが、当時の設計者はXは飾りだといってました。デザインで採用していただけで、作ってるほうも効果についてはわからなかったというすごい時代でした。

AR-Cスプール
 ライントラブルを防ぐスプール形状。写真は1号4Lbを100m巻いてあって、スカートとつらつらですがまったく問題ありません。

スプール軸方向ガタ
 ライントラブルが少ない理由のひとつになっていると思われるのがスプールの軸方向(前後方向)のガタ(遊び)です。データは以下の通り。

リール ガタ(mm)
08ツインパワーC2000S 0.35
アルテグラAD1000S 0.80
05バイオマスター2500 0.83
旧型ルビアス2004 0.80
07ルビアス2506 0.23

 S字カムの07ルビアスを除くと、08ツインパワーのガタが小さくなっています。「Broke? Broken?/ライントラブル」のとおりです。

ねじ込みハンドル
 昔「大森みたいにねじ込みやろうよお」と私が言っても誰も相手にしてくれませんでしたが(まあ、そういう社員だったんだが)、いまやねじ込みは高級品の証です。時代は変わりましたねえ。

 ステラSSは右用と左用のネジが専用で付いていましたが、よくある根元が左用で先が右用のタイプになりました。どのモデルからこうなったのかはシマノのサイトで見とくれ(いま見ようと思ったら「準備中」でした)。

ベール取り付けカム
 へんな名前ですが、この部品のことをシマノではこういいます。95、98と同じ内側から取り付ける方式にかわりました。

 でも、こうすると発生する遠心力=エム・アール・オメガの二乗(文字化けするので・・・)のアールが小さくなり、回転バランスをとるためにベール取り付けカムの重さエムが大きくなってしまいます。実際でかいです。

 いまのワンピースベールならこれが大きくなったからといって閉じる衝撃でワイヤーが疲労破壊することはないだろうとは思いますが、デザイン優先でこうしちゃうのもなあというところ。こっち側を内側にしたって、どっち道ベールアームはむき出しなのに・・・。

スプール受け部
 前はこの部分を小さな六角レンチで回すネジで止めていましたがダイワと同じピンになっています。どのモデルからこうなったのかは10年ぶりのツインパワーなので不明ですけど、こっちのほうがいいですね。

ローターナット
 ローターナットは逆ネジで、緩み止めのビスはなくなりました。95の小さいやつはこのタイプで、その後98で正ネジに緩み止めを付けるタイプになって、また元に戻りました。なんや一貫性がないな。

 逆ネジにすると、二面のわずかな遊びの分ローターが左に回ったとき、ネジが締まる方向なので緩みが出ないというもの。昔の大森が逆ネジでした。でも旧フリームスは緩み止めなしの正ネジでしたから、どっちでもいいような気もします。

ベール返し
 スムーズなベール返し。アタリの傾斜が緩やかで、ジュラコンらしき樹脂でできています。シュパッと返ります。

フリクションベール
 私の助言で付いたフリクションベールは(くどいな)、1000サイズに関してはゴムリング式です。しかし、前の黒いゴムではなくアルテグラADくらいから材質を変えたようです。油に強くしたのかもしれません。

 05バイオでは取説にこの部分はフリクショングリス(専用グリス)を使えと書いてありましたが、08TPは特になにも書いてありませんでした。


分解おことわり?
 サイドカバーを外すには、ワンウェイクラッチとフリクションリングを外し、フリクションリングで隠されていた上の写真のめくら蓋を針でつついて外し、そこから下の写真のように細いドライバーを突っ込んでオムツを外します。

 分解させまいといわんばかりの設計です。

 サイドカバーやオムツを止めるビスを隠そうというデザイン方針にのっとったのかもしれません。ベール取り付けカムを内側からつけたのと同じ流れでしょう。

 あまりいいこととは思えません。


内部機構
 内部はこのとおり。ウォームシャフト(クロスギア)平行巻きです。最近シマノは「エアロラップ」といってますが、名前を変えただけです。「エアロラップ」は80年代の終わりにウォームシャフト方式のリールをアメリカに輸出する際使った名前です。

 ドライブギアはステラの「バリアギア」ではなくて白アルマイトのようです。ねじ込みハンドルですが軸の部分もアルミ一体です。ステラSSではステンレスの軸が組んでありましたが、あれは重かったですね。強度規格を見直して過剰強度を持たせるのをやめたのかもしれません。

 ウォームシャフト(とメインシャフト)はテフロンを含んだ硬質アルマイト。旧ルビアスみたいに1回糸を巻いただけでグリスがガンメタカラーに染まるようなことはありません(いちいち引き合いに出すな?)

 ピニオンの後ろはジュラコンのブッシュで支持されます。

 グリスが少し白濁しているのは、魚の写真を撮るときに水没したためです。オイルインジェクションを開けて1週間くらい置いておきましたが、乾きませんね。変にビスを隠すような設計をするより、リアカバーが簡単に外れてハウジングの中を点検したり乾かしたりできるようにようにしたほうがずっといいですよね。

型の名前
 ここ数年ステラ・ツインパワーとはごぶさたなのでよくわからんのですが、型の名前は「08T10」、つまりおそらく08ツインパワー1000の意味でしょう。ステラとは金型が違うのかしらん? (無知をさらすが)マグネシウムとアルミって同じ金型では打てんのかな? でも、別の型ならなにもまったく同じデザインにすることもないわけで・・・。わからん。

重量バランス
 「SR-バランスボディ」といっている振りバランスのよいボディーです。実際使ってみてもそのとおりです。アルテグラADと比べるとスプールやラインローラーが後ろにあります。つまり脚が前に出てきています。

 ちょっと興味があるのは、どこからこのアイデアが出てきたかということです。開発メンバーの中にこういうところにまでこだわる人がいるんでしょうか。私がいたころ同じ部署に投げ釣りの好きなおっちゃんがいて、その人は「振りバランス」についてわかっていました。でも、なかなかこういう漠然とした(数字にしにくい)ものはまわりを説得するのが難しいものです。ホント、興味がありますね。

まあ別にいいけどね
 アルテグラADのページにちらと書きましたが、ひょーっとするとAR-Cスプールは私が「エルムGXのスプールみたいなのはどう」というヒントを送ったのが元になったのかもしれません。ついでにいうと06年の春にある人が「今度のステラはスプールがかっこ悪いから売れないだろう」と言ったので「それはもしかしてスプールリングが2段になっているのか?」と聞いたところ、明らかに狼狽した様子で「そそそ、そんなことは立場上言えない」と言っとったぞ。

 もしそうなら、えらいこっちゃで。だってさ、フリクションベールもわしが「33みたいにブレーキ付けたら?」といったのがきっかけだそうだしね。

 まあ、両方とも見本のリール(エルムGXとカーディナル33)があったわけだから、別にいいけどね。

 でもさ、この二つの機構がなかったら、シマノのリールって今ごろダイワにぼろ負けだったでしょう。この二つを取ったら、シマノのスピニングはただ回転が滑らかなだけのリールになっちゃいます。

 いやさ、僕ってすごいなということが言いたいのではなくて(言いたいけど)、回転の滑らかさなんてその程度のことだということです。

 それなのに、いまの人はあまりにも回転にこだわりすぎです。うちのサイトにも「○○を買ったが音がする」的な質問がたまに来ます(メールで聞かれてもしょうがない・・・)。06年だったかの釣り具ショーでシマノの人自身が「回転のよさなんて売りにするんじゃなかった」と言ってたくらいですから、神経質になってしまったユーザーからの要求に困り果てているみたいです。たぶん他の会社もいっしょでしょう。

 ユーザーもメーカーも、もっと道具や糸巻きとしての部分に目を向けるべきです。そういった意味でダイワABSは偉かったと思うし、シマノ07、08モデルのバランスボディーなどは、もっと評価されるべきでしょう。 (2008/4/8)

 ついでにいうといまのアブやミッチェルのリールにもこういう視点がほしいわけだけど、自社の製品にさえ学んでいない(33の付けていたローターブレーキ搭載機すらない)んだし、無理だろうねえ。アメリカの糸屋がブランドだけ買って適当にやってるだけだもんな(これ読んでムカッときたら、ちゃんとしたもの作れよ・・・って、日本語じゃ読めねえぞ)。

SHIMANO


(おまけ)

イッキ討ち((C)下野康史)
 ツインパワーを使った印象は一にも二にも振りバランスとスムーズなベール返しです。最初に使ってミッチェルみたいだと思いました。

 なわけで、まったくの同時ではありませんが、08ツインパワーC2000Sを使った翌週、まったく同じロッド、ラインで同じ場所へ、ミッチェル308プラナマティックを持ち出しました。

 08ツインパワーはあほみたいに滑らかですから、ミッチェルなんかやんなっちゃうんじゃないかと思いましたが、そうでもありませんでした。

 まず振りバランスは依然308のほうが上です。スコーンとロッドが振り抜けます。どうもミッチェルはオンセンターギアのためボディーがロッドから離れていて、これが手首の回転を助ける力を発生しやすくしているようです。

 もうひとつ意外だったのは、飛距離があまり変わらなかったこと。測ったわけではないのではっきりはいえませんが、プラナマミッチェルのほうが飛んでいるような感触さえありました。

 この勝負、ミッチェル308プラナマティックの勝ち・・・。