このヒトのせいです

 私が悪の道に踏み込むきっかけになったのがこのヒト、シマノML(〜`80sスピニング参照)。当時のML-1はもうありませんが、最近新品のML-2を手に入れました。

シマノML-2
 シマノが(おそらく)最初に作った小型スピニングです。私がML-1を購入したのは1979年でした。

 すでにBMに続いてバンタム100が世に出て、シマノの名が知られてきていたころのものです。バンタムはほしかったけど、当時バスはそこいら辺にいなかったし、ベイトなんて高いものは子供が持っちゃいけない(笑)と思ってましたから、スピニングのML を買いました。

 入門書に「ルアー用リールは300gが目安」と書かれていたころ、ML-1は275g。「軽いなあ」と思いました。408や33は200gちょっとだったんだから実は軽くなかったんだけどね、2BBとか5.25:1のギアとか当時の僕には超ハイスペックリールでした。

 ML-2のスプール径は43mm、いまの2000番に通じます。

ベールスプリング
 しかししかし、BMやバンタムのシマノのリールのはずなのに、MLはじつにトホホなリールでした。

 これが大問題の1回巻きベールスプリング。よく折れると定評のカーディナルC3/C4(80年代のミズホ製アウトスプール)でも2回巻きでした。当然寿命は大変なもので、半日くらいの釣り4〜5回で1本折れます。私はスプリングを5本取り寄せて、全部折っちゃいました。

 シマノに入ったとき同じ部署にMLが売られていたとき営業所にいたという人がいて、いつもスプリングを持って店を回っていたと言っていました。

 なんでも、アメリカからは「1日で折れる」と言われたとか。今では壊れないことで有名なシマノのリールですが、こういう時代もあったのです。

あれあれ
 ラインキャパ表示で、2号が6ポンド(当時のストレーンなどはこのくらい)なのに、なぜか3号が7ポンド、4号が8.5ポンドとなっています。どうもこれ、2号を6ポンドとして、標準直径に比例させて割り出したみたいです。まだポンド表示のラインが一般的でなかった時代だったということです。

 でもな、計算で出すなら断面積に比例させんとあかんやろ・・・。

パーツリスト
 昔からシマノのパーツリストの絵はきれいですね。リール名に社名が入っている(?)ところも「トヨタ2000GT」みたいでかっこいいなあと、当時思っていました。

 でも、回転枠(ローター)とか摺動子(オシュレーションスライダー)とか、パーツ名はけったいです。

シマノマーク
 いまは使ってませんが、ドラグノブにシマノマークが入っています。これは「無限を表す楕円」に、左右に出ている自転車のペダルを組み合わせたもの。同時にしなる釣竿も表しているというものです。

 でもこれ、見ようによってはテニスボールやゴルフのクラブにも見えます。たしか、シマノが自転車に加えてもうひとつスポーツ事業をやろうとしたときこれらも候補に上がっていたと聞いたことがあるような・・・。なんにでも使えるデザインだったとか?

 ちなみにこのドラグ、90度くらいでフリーからロックまで調整できます(おいおい)。それとこのナット、かかりが少なくてすぐつぶれます・・・。

ラインローラー
 でも、いっぽうでけっこう凝っているところもあります。ラインローラーにブッシュが入っています。後継機のML2桁シリーズであっさり廃止されましたが・・・。

超精密加工
 シマノにいたとき、同じ部署に以前リールの加工をやっていた人がいました。その人いわく、「寸法をきちーっと出してやるとな、組屋がベアリングが入らんと文句ゆうてきおるんや。まっすぐ入れればぴたーっと入るのにのお」。

 このリール、ローターもハンドルもまったくガタがありません。このベアリングもぴっちり入っています。

 職人さんが腕を振るってリールを作っていた時代のものだったのですね。

 最近ガタやゴロに異常に神経質な人が多いのであえて申し上げておきますが、ここまで寸法をつめてしまうのが必ずしもいい訳ではありません。このリールの場合、このベアリングと軸のはめあいが固いので、サイドカバー(フタ)を外すときメインギア右の小ギアがメインシャフトに強く当たってしまいます。実害はなくても、よくはないでしょう。決していまのリールが生産性重視でガタガタだとかいうことではありません。念のため・・・。

内部機構
 ストッパーはメインギアの背部に爪を掛けるタイプ。まだサイレントストッパーが生まれていないのでカリカリと音がします。まだこのころピニオンに掛けるタイプは小数でした。

 スプール往復はリダクション(減速)方式です。当時まだハンドル1回転で1往復のリールしか使ったことがなかったので、ものすごく高級品に感じました。

 メインギア右はボディーに埋め込まれた真鍮ブッシュで受けています。

外蹴り機構
 脚の付け根から出ているネッシーの頭みたいな突起はベールを返すためのアタリです。当時のアウトスプールリールはほとんど外蹴りでしたが、普通は脚のひざ(?)にアタリが付いていたものです。

 そのアタリを独立させて脚をすっきりさせました。当時BMやバンタムなど斬新なデザインを次々に生み出していたシマノらしいところです。
金太、負けるな?
 いまどきの若い人は「外蹴り」を知らない人が多いので説明いたしますと、このようにベールアームを直接ここに当ててベールを閉じるわけです。痛そう?

 ところで、以前「フライの雑誌」に「マドラーミノーのヘッドの形は製作者のいちもつの形に似てしまう」と書いてありました。これをこのリールに当てはめると、このアタリの形は・・・。

誕生日シール
 別に企業秘密でもないでしょうから書きますが、最初のアルファベットが生産年、次が生産月です、最後はシマノ本社製の意味。年と月はA、B、C・・・と続きますから、やはりこのリールはシマノが釣り具を作り始めて本当に間もない時期のものだったのがわかります。

 まだノウハウが蓄積していないためのトホホな部分と、妙にこだわった部分が同居しているあたり、黎明期の製品らしいなあと思います。

 たとえば、ベールアームを止めているネジもアルミ削り出しです。お金がかかっているだけでなく、コインで外せますし、ベールアームのがたつきを止める効果も大きいでしょう(ステラの六角穴つきボルトよりずっといい)。

 樹脂複合のハンドルクランクも新しい試みといえないでしょうか。

 そして、やはり、特筆すべきはデザインです。アタリを独立させたレッグデザインはいま見ても斬新です。当時の外蹴りリールは機能以前にデザインがいかにも「ブッコミ釣りリール」でした。

 そこへいくとMLのデザインは内蹴りにも負けないものです。そればかりか、外蹴りのデザインを損ねていたアタリをうまく使って、より斬新なものを生み出したといえます。

 外蹴りはベール返し機構がローターにありませんから、うまくやったら軽いローターが作れるでしょう。

 ローターブレーキのない瞬間ストッパー・内蹴りのリールより、ラチェットストッパー・外蹴りのほうが意外に使いやすいかもしれません。あえて外蹴りを使って軽快な回転を追求するというのも面白いだろうなあとか、このリールのデザインを見ているとそんなことまで考えてしまいます。

 これで釣りに行って、昔を思い出すか・・・って? でも、丸2日使ったら逝っちゃうリールだからなあ・・・。(2006/1/14)

SHIMANO