携帯電話の独り言




どうも初めまして。私はT-KSを自分の所有者としていた携帯電話です。


よろしくお願いします、と言いたいところですが、そうは言えない状況にあります。



思えば二年と九ヶ月前、何の因果か私はこのT-KSという男を所有者として持つことになりました。


所有者は初めて携帯電話を契約しようとしたのですが、いきなり非道いことをしてくれました。


契約の時、マニュアル通りに店員が


「eメールはお使いになりますか?」


と確認してきたのですが、この男は


「いや、別にいいです」


と言ったのです。店員も目を丸くしていましたし、私も耳を疑いました。


携帯メールが当然の時代にどうしてこの男はそれを断ったのでしょうか。PCメールはもう七年も使っているくせに。


そしてその後も私はeメールを契約されることはありませんでした。



他にも色々ありました。


アンテナの先のパーツが無くなったからってガムテープを巻かれたり、


アスファルトの上に叩き落とされたり、


「1プレイ100円」と書かれた謎のシールを貼り付けられたり…しかも裏には「コンティニュー200円」。


何でコンティニューの方が高いんですか?



そしつついに昨日…この所有者は


「そろそろ電池が直ぐに切れるようになったなぁ…替え時なのかなぁ…」


と呟いて、黒い油性マジックペンで私のカラーリングの変更を画策したのです。


瞬く間に全身を黒く染められてしまった私…しかしその次の台詞はもっと衝撃的なものでした。


「触っただけで真っ黒になってしまう…もう使えんな」


貴方、私をリストラするために黒く塗ったのですか?


こうして、私はこのT-KSという男を所有者として持つ時を止める時が来ました。



しかし、色々と言ってみても、様々なことがあったのは忘れられません。


マックでハンバーガー百個頼んだ時も、


百キロメートル歩こうとして燃え尽きた時も、


ゲーセンのある音楽ゲームをプレイした後に、「出来るわけねぇよ…この曲」と吐き捨てた時も、


屋久島に向かうアホな旅をしていた時も、


四コマ漫画を読みながら布団の上をゴロンゴロン転がっていた時も、


バーチャやってたせいで待ち人からの電話に気がつかなかった時も…


いつもそばに居たのは私でした。


サヨナラ、私の所有者さん。



(2004/01)



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