※この文章の内容は、印刷の工程(いわゆる組版)について主張されるものでは全くない。PC上での文章作成作業(ワープロソフトでの文章作成・プリントアウト、webサイトの作成等)についてのみ主張されるものである。
2011年12月4日
2011年12月4日
ここに年月日の二つの表記を挙げた。私は上の表記に大きな違和感を感じる。耐えきれないほどの違和感を感じている。
特に公文書やビジネス文書に多く、時にはwebサイトでも見られるこの表記。即ち、一桁の数字を記する時は全角数字、二桁以上の数字を記する時は半角数字、という表記ルール。年月日に限らず、この「混在」に私は我慢ができない。
この混在ルールは、恐らくかなり古くに発生したものだろう(原稿用紙に手書きで文章を書いていた時代からか、あるいは、日本語ワープロが普及した時代からか)。どちらかと言うと私は自分を保守的だと思っているし、こういった伝統的なルールを大切に思う性質だと認識している。そして、このサイトにおいて、何事かに対して正面から批判的な文章を書くことは避けてきたつもりでもある(大概、後で恥ずかしい思いをするため)。違和感を感じるかどうかなど、好み、価値観の違い、強いて言えば文化の違いでしかないのかもしれない。されど、敢えてここに書かずにはいられないのだ。
混在ルールが何故に問題なのか。端的に言うと、「PC上での」文字に関していえば、半角数字と全角数字は全く別の種類のものだからだ。以下にその説明と、そこから生じる問題点を列挙しよう。
■ある意味で「2011年12月四日」と「2011年12月4日」という表記は同じ
全角数字は半角数字の横幅を2倍にしたものでもなんでもなく、全くの別ものである。考えようによってはアルファベットと漢字ぐらい違う。全角数字はいわゆる2バイト文字、半角数字は1バイト文字である。文字コード表(例えばShift_JIS)を見てもらえば分かるが、「0から9」と「0から9」は全然違うマップに属している。つまり、「2011年12月4日」には2種類の数字が混在しているのである。
■フォントによっては、全角数字と半角数字は字形が大きく違う
例えばMSゴシックだと、文字の高さからして異なっている。
もちろん同サイズでの比較である。これに違和感を感じぬというのか。
■そもそも違うフォントで表示される場合がある
全角文字の表示フォントと半角文字の表示フォントは別々に設定され得る。特に陥りがちな罠がMicrosoft Wordの初期設定で、Wordの本文フォントの初期設定では、全角文字=MS明朝、半角文字=Century、になっている。何も意識せずに混在ルールを適用すると下のように、同じ数字なのに2種類のフォントが混在してしまう。
名字は明朝体、名前はゴシック体で書いてね、と言われるぐらいの違和感。
どうだろうか。PCにおける文字という存在、また、文字表記におけるフォントの重要性、を認識しているのならば、上記のことに違和感を感じるはずだと私は思っている。
さて、では逆に混在させない場合、即ち「2011年12月4日」(全て全角にしてもいいが)という表記に問題はないのだろうか。明らかに言えるのは、「年と月」の間隔と「月と日」の間隔が異なるということである。確かにこれを気持ち悪いと思うのも理解できる。しかも年月日表記が複数ある場合、例えば
2011年12月4日
2011年12月14日
と並べる場合には、末端が揃わなくなる。
が、これは「2011年12月 4日」や「2011年12月04日」のように半角スペースなり「0」なりを入れれば何とかなる。まだ若干の不自然さは感じるかもしれないが、上述した混在ルールの違和感に比べればまだマシである。
以上が、一桁は全角数字・二桁以上は半角数字ルールを――全角数字と半角数字の混在ルールを止めるべし、という私の主張の詳細である。仕事中にこのような表記を見かける度に、私は一人で勝手に絶望的になっている。「今時の人は」「文化侵略だ」と誹られても構わない。混在ルールは撲滅すべきなのである。
…念のため書いておくが、文章全体を見て混在しているのは構わない(例えば見出しの数字は「1.」と全角表記するとか)。上で例に挙げた年月日表記のように、一つのまとまりの中で混在するということが問題なのだ。
もう一つおまけ。この文章の冒頭にある注意書きで、「印刷の工程(いわゆる組版)」は無関係とある。これは何故かと言うと、(日本語の)印刷物を制作する際に重要なのは、印刷されたものの見た目や体裁であって、全角・半角という二元論は意味をなさない。「組版」という語が用いられるような印刷においては、PC上で全角・半角が全く別の文字コードで処理されていようが、印刷の最終成果物は物理的な印刷物、極端に言えばインクの染みだからである。最終的に印刷されたものの体裁が整っていれば問題ないのだ。
そもそも、日本語の文字組では基本的に全角である(仮名も漢字も縦と横の幅が同じ)。ただ、全て全角に揃えてしまうと「2011年12月4日」のように、やや間延びした感が出る。かと言って、数字を全て半角にした「2011年12月4日」では全角6.5文字分になってしまい半端が出る。一行は全角20文字、と決めていた場合、0.5文字だけ余るか足りなくなるし、既に述べたように「年と月」の間隔と「月と日」の間隔が異なる、という問題も発生する。
されど、印刷物の組版においては、全角と半角が混在しても違和感を感じないように微調整を行うことができる。MSゴシックでの数字混在のように、全角と半角で文字の高さが違う、というマヌケなことは修正できるし、全角数字をあからさまに大きく感じないように幅を狭くしたりすることができる。恐らく写植時代もそのような調整はしていただろうし、DTP組版の現在では確実にそのような調整ができる。我流で最低限のことしかできないIllustrator初心者の私ですらできる。
つまり、「組版」と呼ばれるような文字組の工程では、単にPCのワープロソフトで入力してそのままプリントアウトしたり、webサイトにテキストを載せることとは話(次元と言うべきか)が異なるのだ。
…どうでもいいが、ネット上で「私は広告業界出身で文章の体裁を気にしているから(混在ルール)」というような意見を目にした。その方は本当にWordで書類を作成する際、全角数字と半角数字の根本的な見た目の違いを全て微調整して美しくプリントアウトしているのだろうか。もし仮にMSゴシックの数字は全角と半角で高さが違う、ということすら認識していなければ、随分とアレな話になるが。