機上の空論

対地速度及び航跡の算出法


かつて「にわかナヴィ」と題する一文を書いた。その文末に「機会があれば・・・対地速度も計算できればと思っています。」とある。先日ふとしたことから、その方法を思いついた。それを利用すれば、航跡を地図上に作図することも出来る。ただ、残念ながら、「機上」での考察ではない。また、実際にデータを採って検証した訳でもない。今回ばかりは「『机上』の空論」と題するべきか。

本旨を述べる前に、目的をはっきりさせておきたい。これはあくまで旅客機の一乗客が凡その値を算出して楽しむためのものである。通常の旅客が持たないような特別の機材は使用しない。機上での計測は、目分量でも凡そ見当が付くようにする。(より正確な計測法を考え付いたら、その時再度ここでご紹介する:笑) 多少の誤差は気にしないのが、乗客の気楽さである。必要なものは、地図と長さを測る定規、それと作図用に三角定規一組とコンパスである。実測するには、航空機搭乗のために相当の金額が必要であるが、それは「誤差」としよう。

前書きが長くなったので、本題に入る。先ずは、遠方からでも判別できる二つの目標(山や湖、岬等。見える順にX、Yとする)を選ぶ。これは予め定めておく必要は無い。機上で目に付いたものをで良い。Xを前方45度に見る地点をA、真横(進行方向に対して90度)に見る地点をB、Yついても同様にC、Dとする。計測は、A〜Dの通過時刻と地図から2つの目標間の直線距離を測るだけである。BがCまたはDの後に来る場合もあるが、基本原理は同じなので、A、B、C、Dの順に通過するものとして以下に論ずる。

搭乗機が一定の速度で真直ぐ飛行していれば、以上の数値からその対地速度が計算できる。図1青い太線は右から左へ向かう搭乗機の航路である。また、a、b、cはそれぞれ、AB、BC、CD間に要した時間である。ここで、XYを斜辺とし、BXの一部を一辺とする直角三角形PXY(一部赤で示した)を考える。搭乗機がもしXY間を飛行したら要する時間は、三平方の定理を用いて図に赤字で示したように求めることが出来る。地図から求めた距離をこの時間で割れば、それが対地速度となる。

ここで具体的な数字を使って実感を得て頂こう。数字は、勿論計算しやすいように仕組んである。(笑) a=500秒、b=200秒、c=200秒、x=100000m(100km)とすると、XY間に要する時間は500秒となり、対地速度は、100000m÷500秒=秒速200mとなる。時速に換算すると720kmである。

次にこの航跡を地図上に作図する方法を考えてみよう。図1のような白地では味気ないので、X、Yは岬との想定で図2を描いてみた。これを航跡を記す地図と見立てて、作図法を考えてゆく。とりあえず、赤線でXYを結んである。

作図のポイントは点Pを見つけることである。Pが見つかれば、XPの延長上にBがある。XBの長さは、図1より要する飛行時間が分かっているので、対地速度を計算した後ならその距離も分かる。

では、どうすればPを見つけることが出来るのか。図1よりPX間の飛行時間が分かるので、対地速度から距離も計算できる。先程の「仕組まれた数字」を使うと、飛行時間は500-200=300秒、対地速度秒速200mなので、PはXから200×300=60000m=60kmとなる。そこで、Xを中心とする半径60kmの円を描く。この円周上にPがある。何も円一週分描く必要は無い。搭乗機の出発地と目的地から進行方向が分かり、Xが見える方向から搭乗機の凡その位置が分かるので、コンパスを90度ほど回せば済むであろう。

次に∠XPYが直角であることに注目する。直径の円周角は90度であるとするタレスの定理より、PはXYを直径とする円周上にある。その円の中心はXYの中点である。定規で測っても良いし、XYの垂直二等分線を描いても良い。この円弧と先程描いた円弧との交点がPである。ここまでを図3に示した。海上(図の左下)にもう一つ交点があるが、先述の通り、これはPではない。

ここまで来たら、航跡を記入するまであと一歩である。先述の通り、XPを延長して先ずBを確定する。再び「仕組まれた数字」を使えば、XBの長さは200×500=100000m=100kmである。航跡はYPと平行になるので、Bが定まれば、一組の三角定規を使えば容易く記すことが出来る。以下に図4として完成図を示す。

これまで実際の距離を使って説明してきたが、これは、対地速度という航空マニアをくすぐる魅惑的な数値に惹かれたからである。実際に作図をする際には縮尺換算など手間がかかるので、地図上での距離を使ったほうが便利である。XYが地図上で6cmの場合で考えよう。「仕組まれた数字」では、XY、PXに要する時間はそれぞれ500秒、300秒であった。ここからPXの長さはXPの5分の3であることが分かる。つまりPXは地図上では6cmの5分の3である3.6cmとなる。同様にBXは6cmとなる。

さて、これを実際に試すとなると、いくつかの問題がある。先ずは書き込みが出来る手ごろな地図が無いことだ。地図は縮尺が大きいほど、より正確に作図が出来る。しかし、地図が大きくなれば、コンパスや定規なども大きなものが必要となる。また、実行するためには飛行機に乗らなくてはならない。先立つものが無いことには・・・ ここ暫く「机上」の空論になりそうである。

(2009・08・13 記)


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