機上の空論

フライトを楽しむ   翼

 

 翼は機体を持ち上げる力(揚力)を作り出し、飛行中は気体を支える役割を果たします。また、フラップ・エルロン・スポイラーといった機体の運動を制御する装置が附いており、これらを眺めるとパイロット気分が楽しめます。

 今将に離陸しようとしている時、翼を見ると前縁と後縁のフラップが下ろされています。フラップとは翼の面積を広げ、また形を変えて揚力を大きくする装置で、離着陸の際活躍します。後縁のフラップを注意してみると数字がふられた目盛が見えるはずです。これはフラップが下ろされている角度を示しています。同じ機種でも、そのときの重さや気温や湿度、滑走路の長さなどの条件によってこの角度は違ってきます。

 離陸滑走が始まり、速度が上がるにつれと翼の先端から浮き上がって行くのが見えます。翼に生じた揚力が軽い部分から重力に打ち克て行くのです。揚力の発生が目に見えるのです。暫くすると身も心も高揚して来ます。

 機体が浮き上がると脚が上げられ収納される音が響き、ついで電気モーター音が唸ります。フラップが収納されているのです。速度が増せば展開したフラップは最早抵抗となるため引き上げられるのです。旧ソ連製イリューシン62では太いボルトが回転する機構が楽しめます。前縁フラップも閉じられます。上の写真は「エンジンのパワー」でも触れたエールフランスのジャンボ機の前縁フラップが閉じられた直後の様子を拡大したものです。前縁から靄が出ているのが分るでしょうか。見た時は燃料漏れを心配しましたが、実は小さな隙間から空気が押し出されているのです。飛行速度を感じるとともに、飛行機というのはあまり精密に出来ていないという事実を知りました。よく考えればあれだけの大きな力を受ける機体が遊びがなく精密に作られていたら空中分解してしまうということが分ります。これが実感できただけでも有意義なフライトであったと思っています。

 飛行中に方向を転換する際には、エルロンが動きます。翼の後縁の先端などにある板で、それが上がるとそちら側が沈み、下がると浮き上がります。つまり機体を左右に傾ける装置です。これにより飛行機は左折または右折します。これを見ていて面白いのは、エルロンが動いてから傾きを感じるまでに時間差があることです。動いたな、傾くぞ、と思ってから一呼吸してから傾くのです。この時間差の原因を考えるのも大きな楽しみでした。結論として三つのことが浮かび上がりました。一つは翼が柔らかく出来ていることです。つまり、傾ける力が一旦翼に吸収されるのです。次に上下動の距離の問題です。ある角度に機体が傾くとその中心から離れれば離れるほど上下動は大きくなります。平たく言えば気体の中心に近い客席では翼端ほど上下動せず、余程傾いてからしか認知できないのだとも考えられます。最後は勿論機体の重さです。同じ力を加えたときに生じる加速度は質量が大きいほど小さくなりますから。こんな思いを廻らすだけでも楽しい一時を過せます。

 目的地に近付いて来ると、機は速度を落とし高度を下げます。機外から突然ゴッゴーと音が響きます。何事かと窓の外を見ると、翼の上に何枚かの板が立っています。これがスポイラーで、空気抵抗を利用した一種のブレーキです。翼の上の空気の流れを乱し、揚力を減らす役割も果たします。高度が下がるといよいよ空港への進入が始まります。複雑な経路を辿るため、エルロンが活発に動きます。慣れた空港なら地上の景色とあわせてエルロンの動きが予測でき、ドンピシャリの動きがあると感慨一入です。高度が下がるにつれ、再びフラップが電気モーター音とともに展開されます。目盛を見ると5度から少しずつ下ろして行き、最終的には40度程まで下がります。ボーイング737や757ではフラップが展開された時スポイラーが立つと、翼に大きな隙間が出来て下の景色がよく見えます。下の写真は1989年6月デルタ航空B757でメキシコシティーに降りたときのものです。こんなものを見ただけでもウキウキしてしまうのは私のような変わり者だけでしょうか。

 いずれにせよ、皆さんの次のフライトでも翼は注目ですよ。

 

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