『ファントム』 宙組東京公演観劇記(2004年7月17日〜8月29日)


私は『オペラ座の怪人』を10年位前に劇団四季で、唯一度だけ、観たことがある。その時は予備知識もほとんど無いまま友達に誘われていったので、印象としては暗い雰囲気で、仮面を被った醜い男がオペラ座の美しいバレリーナを連れ去り、小船に乗って地下水道を何処までも逃げていくとか、客席真上の天井にあるシャンデリアに怪人が乗っていて、高らかに笑い、すさまじい音と共に舞台に落ちて砕けた記憶が残っている。大仕掛けで響き渡るような歌声と音楽が素晴らしかったように思うが、美しさとはかけ離れた世界で、それっきり私の中でこのミュージカルは遠くに行ってしまっていた。
ところが今年、宝塚宙組で『オペラ座の怪人』をやると聞き、「よし、観るぞ!」と8月の東京公演を密かに楽しみにしていた。まずは大劇場公演を観た人からの評判は上々で、期待は膨らむと言った感じである。
比較的見易い席のチケットも運良く手に入り、猛暑の夏を吹っ飛ばすには最適なオペラ座通いとなった。(笑)

さてさて、その感想はいかに…。オペラ座の怪人『ファントム』盤は、劇団四季バージョンとは視点を変えて、ファントムの生い立ちや素性に重点をおいたもので、人間味溢れる暖かさとか、哀れさが感じ取れる作品になっていた。まるで物語に吸い込まれていくようで、1本物の長さを感じさせない。幕開きのオペラ座の屋上に立つファントムの姿は印象深く、その歌声は力強くも悲痛な叫びにも聞こえ、序幕に相応しく、効果的な演出であった。当然宝塚的な要素を入れ、外見的にも美しく、暗いお話なのに何処となく華やかさもあるから嬉しい。

主役和央ようかの大きさ、器量は素晴らしく、このファントムを丁寧に真剣に演じていた。
醜い顔に心が病み、自分を愛してくれた今は亡き母を慕うファントムの前に現れたクリスティーヌ。そのクリスティーヌ役である花總まりは、美しい声で軽やかに歌い、宝塚ならではの白いドレスもスタイルの良い花ちゃんにはピッタリ!清楚で可愛らしかった。コロコロと綺麗なソプラノをもっと充分に聞かせて欲しいと思った所で、演出上すぐに終わってしまうのが少々残念。
ファントムの実の父親であり、オペラ座前支配人のキャリエールには樹里咲穂。思いやりのある立派な紳士を好演している。一本筋の通った樹里さんの歌は素晴らしく、この人の存在が光っている。ファントムの全ての場面に関わり、終盤の銀橋の場面は、あそこだけが時間が止まり、観るものとしてはどうしても泣けてくるのだ。
もう一人、クリスティーヌを愛するフィリップ伯爵は、歌に定評がある特出の安蘭けい。明るくスッとした二枚目青年で、安定した歌唱力と、最後にクリステーヌを守らんが為にファントムと勇敢に戦う所がいい。
プリマドンナ件オペラ座の新支配人の妻であるカルロッタは、出雲綾がお茶目な悪役ぶりとアルトな歌声をたっぷりと聞かせてくれ、はまり役である。この人がクリステーヌに毒薬を飲ませなかったら、物語はどうなっていただろうかと思ったりして…。(笑)
オペラ座の団員ソレリは彩乃かなみ。とても綺麗で可愛らしく、華やかさもあるのに、伯爵に振られ、歌う場面も少ないのがちょっと気の毒かな……。楽屋番ジャン・クロード役の美郷真也も目立たないが、さりげなく暖かな演技をしているからお見逃しなく〜。

もう一つ、宝塚盤として面白いのは、ファントムに黒天使的な取り巻き集団がいる事!これらが怪しい空気となって、ファントムの存在をより大きくしている。また、舞台背景では奥行きのある地下室の場面が雰囲気もあり、蝋燭などもふんだんに使い、大変良く出来ているなと感心した。それに1本物でも宝塚にはフィナーレと言う豪華なショーが付いているから、さらに満足がいき、得をした感じでもある。

しかし、何と言ってもたか子さん(和央)の力量、それに答えるベテラン花ちゃんのクリスティーヌ、全体を引き締める樹里さん、さわやかな瞳子ちゃん(安蘭)、一味、嫌味を添える出雲組長の歌いっぷりの良さ、そうした宙組全員の結集力が素晴らしい!!
もちろん、言うまでもなく悲哀に満ちた素晴らしい音楽やストーリーがあってこそなのだが、それに答えるように宙組が頑張っていると言う事。
この所、星組の『アイーダ』に次ぐ、宝塚大作1本物ミュージカルとして、好評デビューとなるのではないだろうか。

2004年8月19日yuko記


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