伊織直加サヨナラショーとご挨拶報告記
2003年6月22日(日)東京宝塚劇場
直ちゃんの歩んで来た道及び本人からのメッセージを、宙組組長の出雲綾さんが読み上げます。
伊織直加
1987年 宝塚音楽学校入学 、映画のミュージカルに憧れて受験しました。
1989年 星組公演『春の踊り&デイカ・ディカ・ドゥー』で初舞台。初台詞は、組み回りで行った花組公演『ロマノフの宝石』の「おーい、金が振ってきたぞぉー」でした。
1990年 花組に配属。『ベルサイユのバラ』新人公演の小公子役。『秋…冬へのプレリュード』新人公演のカレルという大役を貰い、どうしたらいいのか途方にくれ、かなりもがいていました。でも、「えーい、やるしかない!」と不思議な度胸だけはありました。
1991年 『小さな花が開いた』は6歳のマタちゃんでバウホールデビューしました。
1993年 バウホール公演『ル・グランモール』のフランツ役、とても印象的な役でした。
1994年 『サラン・愛』の柳君正、『ブラック・ジャック』新人公演のケイン、初めての海外公演『ロンドン公演』に参加。
1995年 『エデンの東』、新人公演のキャル、初主役は嬉しかったと同時に無我夢中、必死でした。
1996年 『ハイペリオン』新人公演主役、『ハウ・ツー・サクシード』では、憧れのブロードウエイミュージカルに出演出来て嬉しかったです。
1997年 バウホール公演『君に恋してラビリンス』のオービット、青春コメディでとても楽しい公演でした。『白い朝』のサブは男の友情に泣けました。
1998年 バウホール公演『エンドレス・ラヴ』で単独初主演、心から嬉しいと思いました。バシームとマークの2役は忘れられません。
2000年 新専科制度に伴い、専科に移動。生粋の花組ッ子、花組育ちで、一度も組み替えを経験したことの無かった私は、不安で一杯でした。でも、今考えれば、ここからが今の私に大きく繋がり、新たな人生勉強でした。
初めてのディナーショー『ラブ・ビート』、やりたい事が山程あって、楽しかったです。
2001年 専科として、月組『大海賊&ジャズマニア』に出演。宙組との出会い『カステル・ミラージュ&ダンシング・スピリット』に出演。
2002年 初めての女役として外部出演、東宝ミュ−ジカル『キス・ミー・ケイト』に出演。今まで男役しかやったことのない私、出来る自信が無く、不安だらけでしたが、常に前向きな私。バレーや発声など1からやり直し、努力しました。バウホール公演『Switch』、同期4人の夢の初共演が実現出来て、とても嬉しかったです。
2003年 最後のディナーショー『Fly Away!』、今までの思い出が一杯詰まった宝箱のような作品でした。お客様と近くで接する事が出来て、幸せでした。
メッセージ
『15年間、この長い年月を宝塚と言う、この夢のような世界で、男役として生き続けて来ました。笑い、涙、楽しかった事、辛かった事、いろいろありました。不器用で、甘えたな私にとっては、ここの全てが人生勉強でした。今、15年掛けて、大きな1つの事をやり終えた気がします。これも、皆様の暖かく見守って下さる愛あってのことだと、本当に幸せを感じています。その皆様に、私から感謝の気持ちを込めて、ありったけの愛を込めて、精一杯、サヨナラショーを務めさせていただきます。最後までごゆっくりご覧下さい。』
出雲組長からのコメント、「直ちゃんは愛情が深く、とても思いやりのある人です。明るくて大らかで、時には大胆でいたずらっ子。内面は純粋でドが付くくらい真面目な人です。ロンドン公演に一緒に行った時、まだ下級生だった直ちゃんはお稽古が終わった後、一人残って、遅くまで練習していたのを印象深く覚えております。そんな下級生の頃からの努力の積み重ねと、明るく前向きな性格が現在の伊織直加を築きあげたのだと思います。」
ー伊織直加サヨナラショー
LOVE PHANTOM (『Switch』から)
客席下手より通路から、私達の意表を突くように「フェーイ!イェーイ!!」と、いきなり、赤いコート姿の直ちゃんが登場です。(直ちゃんらしい〜)煙もパッと上がっていたように思います。今では懐かしい『Switch』ナルディ・トロバトーレを思い出しますね。早くも客席は手拍子です。
『ザ・ビューティーズ』よりフィナーレ曲
舞台に上がると赤いコートを脱ぎ捨て、ダンシング・スピリットのフィナーレで着ていた黒に赤のフリフリシャツ姿で、パステルカラーのソフトドレスの娘役達に囲まれて歌い踊ります。直ちゃんのお相手はピンクドレスの花ちゃんが勤めています。この色彩がとても綺麗だったんですよね。
『ダンシング・スピリット』よりフィナーレナンバー東京バージョン
大階段を駆け上がり、男役ダンサーを引き連れて、格好良く降りてきます。「恋の罠に落ちて〜、〜ように♪、〜これが俺の切り札さぁ〜!♪」直ちゃんに凄く力が入っています。まさしくこれぞ宝塚男役って感じで、格好良さ100倍、凄く気持ち良いです。
『Switch』から「今日の日は去り〜♪、またぁ〜日が昇るぅ〜、〜♪〜、もう少しだけ〜」
上手銀橋へ、反対側の下手からは同じ服装に黄色のフリフリシャツのたか子さんが歌います。直ちゃんと2人だけの歌です。大階段上には直加の電飾が灯りました。銀橋の真ん中で、2人は男役同士のがっちりとした握手を交わします。「どちらからともなく、有難う、しっかりやれよ!」と言い交わすように…。素敵な感動の時が流れます。直ちゃんの胸に付いた白薔薇も印象的でした。
『君に恋してラビリンス』から「素敵じゃないか〜♪」
客席から手拍子が入り、宙組の男役達も一緒に、明るく歌い踊ります。
『おーい、おーい春風さん』
華宮あいりちゃんが1人残って、銀橋を渡りながら歌います。同期の4人が最後に「おーい華宮さーん〜♪」、あいりちゃんも「おーい華宮さーん」と返して終わります。とても可愛かったですよ。
『One Life Two love』
次は椿さん、先程の黒にピンクのシャツ姿です。大劇場の時は「イーハトーブの夢」だったかな。曲目が違っていたように思います。静かな落ち着いた品位が漂う人です。
『Mon Dieu!』
風輝さんがにこやかに、心を込めてしっかりと歌います。同じ黒にオレンジのシャツ姿の水さんが踊り、銀橋までやって来て、彼女の肩に優しく手をかけます。水さんの悲しげな表情が印象的です。
『エデンの東』から「哀しみの烙印」
舞台はいよいよ大詰めです。銀橋上手より、白の素敵な衣装替えした直ちゃんがセリ上がり(確か?大劇場ではそう、東京ではセリ上がりの記憶が飛んでいる私)です。『エデンの東』のキャルですね。
『ハイペリオン』から「Put on the cross my heart」及び「Gift of Love」の2曲
『ENDLESS LOVE』
とうとう、最後の歌です。直ちゃんが歌いだすと、客席は一斉にペンライトを振ります。直ちゃんの目がうるる〜、あの、暗い大きな客席空間に、無数の星が煌くように揺れると、何とも言えない一体感が生まれるのでしょうか…。それを一手に受け止めた直ちゃん。
一生のうち、この同じ感動を味わえる人が、どの位いるでしょうか?その幸せな感動を止まらぬ涙で表現してくれた直ちゃん。大階段上は直加からローマ字のIORI NAOKAの電飾に変わりました。銀橋を渡り切って、舞台に戻ると水さんとかなみちゃんが直ちゃんを迎えるように踊ります。白に正装した宙組生達が、横一列に並んでいます。
直ちゃんは全ての拍手に包まれながら、花ちゃんにふわふわの白い豪華なガウンを掛けてもらい、たか子さんからは白薔薇の束を受け取ります。再び銀橋に向かい、それを一本ずつ客席に投げていきます。『ENDLESS LOVE』の曲が、ずっと続く中、銀橋を渡り終わり、大階段を静かに上がり、中段辺りで、正面に向き直り、その華麗な姿を、いつまでも私達の目に残したまま、サヨナラショーの幕が降りました。
ー卒業生ご挨拶ー
再び、組長が華宮あいり、椿火呂花、風輝マヤさん達の経歴とメッセージを読み上げました。
幕が上がり、大階段上から緑袴姿の華宮さんが降りてきました。最後のご挨拶です。続いて、椿さん、風輝さんのご挨拶です。あいりちゃんは白いハート型の花を、椿さんは赤いバラ、風輝さんは白ゆりと、其々の花束を同期からと組から頂きました。
「直ちゃーん」と組長さんの呼ぶ声に「ハイ!」と答え、大階段上に姿を現わした直ちゃん。もう、男役ではない卒業を前にした緑袴姿の宝塚歌劇団の生徒さんです。中段でお辞儀をして、ゆっくりと階段を降りました。
専科からのお花は箙かおるさんと邦なつきさん、お2人共、直会服姿で伊織直加のネーム入り襷をしていて、客席を和ませて下さいました。なかなかお茶目なお姉様方ですねぇ。同期からのお花は、振付家であり、元花組の宝樹彩さん、彼女の顔を見るなり、堪えていた涙が溢れ出す直ちゃんです。
直ちゃんのご挨拶です。
「すでに涙が止まりません…。Fly away!ついに旅立ちの時が来ました。この15年間、この輝く夢の世界で、とても楽しく、振り返ることなく、ずっと真っすぐに男役として、突き進んでまいりました。何も出来なかった映画好きの、ただの女の子が、こうして、この劇場に通って来れ、この不器用な私が皆様の厳しくもあり、優しい目でここまで育てて頂き、ここまで来れましたのも、皆様の暖かい愛と力強い仲間の支えと、先生方、スタッフの皆様のご指導あっての事と、心より感謝の気持ちで一杯です。」
「皆様が本当に暖かくて〜、宙組のみんなが優しくて〜、この専科の私をこんな最高の形で送り出してくれました。本当に皆の愛を沢山感じて、胸が一杯で御座います。」と、涙を堪える事がとても辛そうに話す直ちゃん。
「今まで頑張って来た私がこんなに泣き虫だとは自分でも思っていませんでした。すみません……」堪えても堪えても後から涙が溢れます。涙の意地悪さん〜〜。ー拍手ー
「沢山の役を演じて来ましたけど、自分の人生は演じるわけにはいきません。ここで学んだ事を糧に、これからも真っすぐに私らしく、素直に生きていきたいと思います。この素晴らしい宝塚で出会えた皆様へのご恩は一生忘れません。沢山の愛と、限りない思いやりと優しさを、本当に有難う御座いました。」
ー拍手、拍手、拍手ー
涙に暮れて話す直ちゃんの姿を見て、私達には、直ちゃんの伝えたい事が一層理解出来たような気がしています。『素の直ちゃん、正直な直ちゃん!だから皆に愛され、貴女が振り巻いて来た暖かさの分だけ、人に暖かく送られるんですよ!』後ろで、かなみちゃんも泣いていました。たか子さんが暖かく暖かく見守ってくれていました。友情って、ほんと素晴らしいです。
「For ever takarazuka」を皆で歌います。客席もおいおいと泣いています。幕が、名残惜しくも降りては、また上がり、また上がり、3回位繰り返してくれました。客席からは直ちゃんコールにあいりちゃんコール、ゆうかちゃんコール、きのみちゃんコール合戦が続きました。最後に4人だけ残った時に直ちゃんが「有難う御座いました」と叫ぶように、笑顔のご挨拶をして、本当に最後の幕が降りました。
2003年7月5日 yuko記