傭兵ピエール宝塚大劇場公演観劇記〜ジャンヌ・ダルクの恋人〜
〔2003年2月21日〜3月31日〕宝塚大劇場

 

去る3月31日、たか子さん率いる宙組大劇場公演千秋楽をもって、我らが最も応援する伊織直加さん(直ちゃん)が宝塚大劇場の舞台を、沢山の方に見守られながら立派にご卒業なさいました。
少し肌寒さが残った春先、桜の花は5分咲きだったでしょうか〜。緑の袴姿がひときわ美しく、胡蝶蘭で飾られたアーチをくぐり抜けて、大勢の方に見送られながら、15年間勤め上げた宝塚大劇場を後にされた伊織さんの美しいお姿は本当に心に残ります。
私も、これが最後だと思って、宝塚と東京を何度も往復しながら、必死に通い詰めた大劇場…。そして、その大切な最後の日を全て見届けられた事が、とっても幸せでした。
そして、とうとう、伊織さんが宝塚歌劇団最後となる東京公演は、目前に迫りましたが、この辺で、『傭兵ピエール』と言うお芝居を私なりに纏めてみましたので、間違い探しのつもりで目を通して頂くと嬉しいです。

原    作  佐藤 賢一
脚本・演出   石田 昌也
作曲・編曲   西村 耕次  鞍富 真一  
音楽指揮   岡田 良機
振    付  藍  エリナ 入江 利明

配   役

和央 ようか(ピエール) 花總 まり(ジャンヌ・ダルク)
伊織 直加(トマ)  水 夏季(ロベール)
邦 なつき(ヨランド) 箙 かおる(コーション司教)
出雲 綾(イヴォンヌ) 貴柳 みどり(アニエス)
椿 火呂花(ラ・イール) 華宮 あいり(カトリーヌ) 
彩乃 かなみ(ルイーズ)

第1場 
 
異端審問
薄暗い法廷で異端裁判を受けているのは赤い処刑服を着たジャンヌダルク(花總まり)。
コーション司祭(箙かおる)が裁判官の席に座し、「お前の見た者、聞いた声は神の声を真似した、神に姿を変えた悪魔だったかも知れないじゃないか〜」
「いえ、決して!」「お前は悪魔の囁きを神のお言葉と偽り、民衆を戦場に駆り立てた。これは教会に対する冒涜である。」
「私は教会に背いた事など一度もありません」「黙れ、魔女!異端の分際で言い訳など!」
「では、判決を言い渡す。被告ジャンヌダルクを異端と認め、教会法に基づき火あぶりの刑に処す!」と厳しい尋問を投げかけられた末に、ジャンヌに対する判決が下った。

第2場
 火刑場 (炎の踊り)

序曲が流れ、舞台の両端に炎の精が怪しく舞う、火の精が舞う。20名程の炎のダンサー達の中を、赤い死刑服のジャンヌがピエールの名を呼びながら踊り惑う。舞台中央に組まれた火刑台へと連行されるジャンヌ!
【暗黒の中に赤一色、悲愴ながらも綺麗な舞台を創り上げています。炎の精は全員娘役さんです。】

第3場
 アンジューの一角獣

ダンダダダァーン!♪独特のリズムが刻まれると、傭兵部隊がせり上がって来た。
甲冑姿のピエール隊長(和央ようか)を中心に右側にトマ(伊織直加)、左側にロベール(水夏季)、マルク(美郷真也)らが、剣を手に、まるで、絵になるようなポーズで登場。
力強く歌いながら、4人が銀橋を渡る。アンジューの一角獣と呼ばれる傭兵部隊のお披露目である
『♪嵐の中に立ち尽くし〜、死肉の匂い、嗅ぎ分けて〜、命をけずり、戦場に稼ぎ出るさだめなのさ〜、
優しさを 心の奥に閉じ込めた男さ〜、ああ〜我らぁ傭兵部隊〜、アンジューの一角獣〜♪」
ダンダダダァーン!【この力強いリズムが、実に気持ち良いのですよ】

第4場
 カーテン前 (銀橋)
ピエールが主題歌ラ・ピュセルの歌を歌いながら、再び銀橋を渡る。
長身で、甲冑を楽に着こなし、長髪にハッとする程に大きな目、部下に信頼の厚い傭兵隊長としての貫禄は充分なタカ子さん。ラ・ピュセルとの出会いに、自分の人生が変化しつつある事を思いつつ、男らしくも切なく歌った。

 ロレーヌの乙女〜回想〜
ピエール、トマ、ロベール、マルク達男女数十人からなる傭兵部隊は、戦争に参加するばかりではなく、フランスを旅しながら、食料やお金、宝石などを人から奪い、略奪を繰り返しながら生き抜いて来た。
シェフと呼ばれる部隊頭のピエールは、元は貴族の私生児として、裕福に育てられていたが、10歳の時に、戦争で父親と生き別れになってしまった。ある傭兵隊長に拾われて、傭兵として育てられたが、残酷な隊長の考え方ややり方を不審に思い、19歳(?)の時に恩人のシェフを殺し、自分が隊長になった。
大胆で実行力がある上に、人間味のある優しさを持ったピエールの人柄に惚れ込んで、トマやロベール、マルク達部下がいつの間にか集まってきた。

ある日、雪原を通りかかった一行の持ち物から食料、衣類を腕づくで奪おうとした時、少女ラ・ピュセルに出会った。
ピエールは傭兵の習性のごとくに、追いはぎのついでに少女を犯そうとしたところ、「私は神の遣い、神の僕として戦場に行く。フランスを救う為に神から与えられた使命を果たすまで純潔でなければならない。今、自分が汚されるとフランスは滅びる。ランスで、王太子シャルル様が戴冠された暁は、必ず貴方に私の純潔を捧げましょう」と彼女に約束させられた。
「名はジャンヌダルク。戦争が始まったらオルレアンに来てほしい。そうすれば、再会出来るでしょう」と言って、ジャンヌダルクは傭兵達の手から逃れて行った。
何となく狐につまされたような感じのピエールは直ちに略奪を中止し、宿舎に引き上げることにした。

『何故、見逃してしまったのだろう。神の遣い〜、だから?いたずらに手を下すより、期待に胸膨らませる方が人生楽しいから…?なんなんだこの気持ちは?この不思議な気持ちは?』とピエールは思った。
ピエールは再び、ラ・ピュセルの歌を歌いながら銀橋を通り過ぎて行く。
「綺麗な星空だなぁ〜、これじゃ、天使が舞い降りて来たって、可笑しくないかぁ…。」ピエールは夜空の見上げて、そんな事を呟きながら宿舎に戻った。(花道に去る)

第5場
 傭兵の宿舎

宿舎には傭兵達がお気に入りの女達と、酒を飲んだりしてくつろいでいる。
トマ(直ちゃん)は、頭が良くて数字に強い、細やかで気配りが効く人物。ピエールが信頼して、お金の管理を任せている会計係である。それに気の効いた冗談も言うし、一番のピエール思いでもある。腕はさほど強くないらしいが知恵があるので、ピエールの片腕で、いざと言う時に力を出す。
【直ちゃんが創るトマは荒くれだけど、真面目で頭は良い。が、クソ真面目ではないと言うことです。筆者から見れば、顔も断然良くて、ハンサム!!甘さも充分にある。女に持てそう〜なのに、特定の女はいないらしいのです。(笑)】

ピエールのもう一方の片腕は、黒髪のロベール(水夏季)。元修道士で、女に持てて、何かと女のコネがものを言うらしい。トマの柔和な感じに反して、突進型で男っぽい感じ、なかなかの負けず嫌い。トマとはライバルで、常に小競り合いをしている。

あの雪原以来、ふさいでいるシェフの為に、ロベールが1人の女を攫ってきた。
早速、トマが「金が掛るから、断り無しに連れて来るな」と文句を言うが、ピエールを元気付ける為の女だとなれば、仕方がないと諦める。
その女はヴィベット(花影アリス)と言って、戦争でイギリス兵に家族を殺され、家も焼かれてしまったらしい。痩せ過ぎていて品租な感じで、色気がない。
ピエールとしては、やせっぽちで女の魅力に欠けるが、自分の事を思ってくれ、細かに身の回りの世話をしてくれるので、指輪をやったりして「これを売って何か食べろ」と、さり気なく思いやりを示す。
【花影さんとは名前のごとくに控えめで、ヴィベットのしおらしい感じを良く出していて、ぴったりの配役ですね。】

女好きのロベールは、シェフの事を思って女を連れてきたのに、ピエールが相変わらず元気がないので、パァーと女の所にでも繰り出しますかと提案する。
ところが、トマが断じて反対!「明日は大事な閲兵検査があるので、高い給金で雇ってもらわねば生活に響く」と会計係の立場でピシッ!と言う。
「ごもっとも!」とトマの意見に賛成したマルク(美郷真也)。マルクは年かさのせいで、傭兵達の小競り合いの納め役となっているから、部隊には大切な人物なのだ。
【愛嬌のある美郷さんのマルクは好感度大です。】

 サント・クロス大聖堂の前の広場
閲兵検査の当日、上等なフランス兵として雇ってもらう為に、充分に睡眠を取り、ピカピカに磨いた甲冑を着て、検査に臨む傭兵達。会計係のトマを中心にロベール、マルク達が銀橋を渡りながら歌う。
『♪今日は閲兵検査だ、傭兵達の就職試験、甲冑をぴかぴかに磨け!武器の手入れは完璧に!高い給金で雇ってもらおう、顔色の悪い奴は、女に化粧してもらえ、帽子に羽根を付けろ、自分を高く売り込もう〜♪』
ぐるっと廻って元の位置に整列した部下達、最後の決めポーズは笑窪で可愛く…。
【直ちゃんを筆頭に皆チャーミングに決めましたよん〜】

国王役人が2人、厳しい顔をして検査している。一人は鼻髭を付けた月丘七央さん、もう1人は甫純冴さんです。
剣、馬、歳を聞かれると、其々が23歳とか答える中で、「50歳!」と叫んだのはをマルク。言い直して「20歳でぇーす!」と首をかしげて可愛子ちゃん風味、
【客席は大笑い、千秋楽は18歳とさばよんでくれた美郷さんです】
トマやピエールの交渉も虚しく、給金は安いままで、無理やりに承諾させるお役人。
そこへ、名高いラ・イール様のお出ましだ。
ラ・イール様(椿火呂花)は、傭兵と言っても、沢山の傭兵隊長を指揮する国王陛下にも信頼の厚い大隊長である。元よりピエールはこのお方に可愛がられている。目上ではあるが、戦友みたいな間柄。ラ・イールの一声で高い給金が決まった。
【普段、線の細い、とても綺麗な男役の椿さん、今回は太いもみ上げを付けて、ふんぞり返り、低い声を出しています(笑)】

トマは高い給金袋を預かり、ロベール達に見せびらかして嬉しそう。【ここは直ちゃんトマ丸出しです。(笑)】
ラ・イールは、ピエールと命の大切さを語り、再び戦場で会う事を誓い、明日、この広場で救世主の演説があると言い残して去る。

 マダム・ボランの楽しきメゾン
ボラン(鈴奈沙也)とルイーズ(彩乃かなみ)の歌で、場面は女の館となる。なりたくてなったわけでもなく、戦争で家族を亡くしたり、酷い目に合ったりした女達が、生きていく為に仕方なく選んだ男相手の商売、遊郭。
そんな、訳あり女達にピエールは花束を持って行く。この日も特別の部屋に案内され、出会った女はルイーズ。
【かなみちゃんは華があるので、パァーと華やで品の良い女役さんです。爽やかに鼻に抜ける声も良いですね】
ピエールが話すと懐かしいなまりがあり、何処かで見た事があるような〜。アランヴィル時代の幼馴染である事に気が付いたルイーズ。2人は昔話に花が咲いた。その時、ピエールは何とかして、この不幸なルィーズをこの場所から開放してやりたいと思った。

其々がお好みの女と楽しんでいる時、いきなり、素っ頓狂なラッパの音がして、ラ・ピュセル突撃隊が入ってきた。辺りの様子を見るや、ヒステリックな声で「いけません、いけません、汚らわしい、止めなさい!」と騒ぎ立てた。
何ごとかと、奥の部屋からガウンを羽織った
トマさんも出て来ました。寒かったらしく、いきなりくしゃみ!と同時に支えていたズボンが下に落ちる。(大笑)あわてて拾って衣服を整えているトマさん。「汚らわしい、汚らわしい」とトマに向って言うジャンヌ。
【『この僕のこと?』と自分を指差したお茶目な直ちゃんトマ。千秋楽は2度もズボンを落としてくれたんですよ。よほど寒かったのでしょうか?(笑)】
2階から降りて来たピエールは、それがジャンヌダルクとは初め気が付かなかったが、鉄兜を取って初めて判る。2度目の再会である。
【ジャンヌ・ダルクの花ちゃんは、可愛らしい小さな乙女、戦争についての正しい知識も持たないで、一心に神の教え、使命を果たそうとしている少女。甲冑や兜がだぶだぶで痛々しげです。原作のジャンヌもこんな風だったみたいですね。花ちゃんにはその雰囲気がとても出ていて、良くやっているなと思います。】
ジャンヌは、ルィーズとピエールの親しげな様子が少々気に掛かるご様子でますますヒステリックに…。ジャンヌとルィーズの目線に一瞬火花が〜。
そこへ、もう1人の人物が奥からガウン姿で現れた。とびきり上質のガウンを羽織ったラ・イール様だった。(笑)「やっぱり戦場で出会ったな」と笑い合うラ・イールとピエール。
【初めはこの豪傑たる武将姿に無理を感じていた私ですが、最近はゆうかちゃんの線は細いけど、美男子を思わせるラ・イール様に慣れ親しんできた私です。(笑)】
有名人救世主ラ・ピュセルはジャンヌ・ダルクのことだったとラ・イールに聞かされて、初めてそれを知るピエール。

ジャンヌ・ダルクの歌です。銀橋を渡りながら『キリストの花嫁になる運命だと決めてた〜♪、ときめきも知らないで、生きてきた私なの〜』と、初めて恋する不思議な気持ちを歌う。

 サント・クロス大聖堂の前の広場
ジャンヌが広場で神の教えを演説しているところに、ピエールが現れた。雪原での約束を確かめるピエール。「忘れてない」とジャンヌは恥ずかしそうに答え、ピエールとお友達になる事が成立したようだ。
ピエールがジャンヌを宿舎に誘うと、気を良くして、ノコノコと付いていくジャンヌです。

 傭兵の宿舎
トマやロベール達が「救世主様はお固く、ヒステリックだ。冗談すら通じないお方だ。超世間知らずの女だ」と口々に喋っている。そこへ救世主様を連れてピエールが帰宅した。ジャンヌは傭兵達に挨拶をして、案内された椅子に座す。が、突然、女と仲良くしている男達を見つけ、未婚の男女が共に暮らし、仲良くしている様を怪訝そうにを見廻りながら、「直ちに結婚しなさい」と説教を始める。
その場を上手く繕った傭兵達、前夜祭と称して酒盛りをする事になった。フランスの為に戦うつもりのジャンヌは、強い味方を得たつもりで機嫌が良く、居心地も良いらしく、ついお酒を飲み過ぎたのか、イヴォンヌ(出雲綾…お供の1人)が慌てて注意するのも気にせずに、その場でごろりと横になり眠ってしまった。

しかし、ロベールだけはジャンヌの指揮官に入る事が気に入らない。怒って銀橋に出て歌う。水さんロベールの歌です。
『♪女だてらに戦いに口を出して〜、一体何をすると言うのだ、どんな貴族も、勇敢な騎士も、不可能だった事を、あの女が出来ると言うのか〜、あんな小娘に何が出来るものか、戦場は男の仕事場さァ〜仕事場さぁ〜♪』と、何処かへ出て行ってしまう。

その場に寝てしまったジャンヌに、ピエールが上着をかけてやりながら、安らかなその寝顔を見て、ピエールやトマ、マルクがそっと呟く。
「狼の中で眠る子羊一匹」「可愛い寝顔してるなぁ、これじゃ襲う気にもなれねぇや」と静かに微笑むピエール。「眠ってる時だけ天使ですかねぇ〜」と
トマ
「しかし、純粋というか、無知もここまでくれば、たいしたもんですよ」「 この女普通じゃないですねぇ。」「いやぁ普通じゃないのは俺達の方かもかもしれんぞ。俺達が間違っている。いや今のフランスの全てが間違っていてジャンヌだけが神の基、正しい生き方をしているのかもしれん…」
「これは、散々悪事を働いたシェフ殺しのピエール殿のお言葉とは思えませんな」「シェフ、惚れましたね」とトマ。「馬鹿言え!」とピエールが照れるように打ち消す。
【3人の暖かい会話がいいですねぇ。トマもマルクもシェフの気持ちに寄り添う感じで…。】

 戦場
戦場の準備の為、陣地を固めるラ・イールが手下に厳しく指示をしている。
早くもジャンヌが戦場に向って、拍子抜けラッパを鳴らし、突撃を始めた。急いで、アンジューの一角獣も加勢する。文句を言いつつもロベールもピエールの命令に従っている。剣を振り上げたトマとロベールを中心に、戦いをイメージした一角獣のダンスになる。その時、旗を振りかざしたジャンヌめがけて、イギリス兵の矢が彼女に突き刺さった。ジャンヌは負傷したが、フランス軍の圧倒的な勝利となる。

負傷したジャンヌはピエールの看護で快復に向い、目覚めると、可愛いドレスを着せられていた。洋服を着替えさせてくれたのがピエールだと判ると、照れたり、恥ずかしそうにしたりするが、そこへトマとロベールとマルクが入ってきた。
トマは優しい表情で「ジャンヌ、ピエールに悪気はなかったのだよ。ただ君を救いたい一心で〜」とジャンヌにそっと、赤い靴を履かせる。
【直ちゃんトマ、ここがまた、優しくてとっても良いですね!ファンはたまりません〜。】
ジャンヌは外に出て、敵のイギリス兵も含めて転がった死体の一つ一つに、十字架をきり、祈った。
トマが静かな口調で「シェフ殿、救世主、聖女ってのは…、僕達の『魂の指揮官』ってことだったんですかねぇ〜」っとつぶやいた。
ジャンヌは始めて見た恐ろしい光景に、震えが止まらなくなり、ピエールにしっかりと抱きしめてもらう。
そして、ジャンヌは神に一生を捧げる為、ピエールに対する恋心を断ち切ろうと、ピエールに自分の美しい長髪を切ってもらう……。

 マダム・ボランの楽しきメゾン
ルイーズはピエールの用意してくれたお金で、自由な身になれた。ボランが玄関まで見送りに出る。ピエールに心から感謝し、晴れ晴れとした気持ちで郷里に帰るルイーズ(かなみちゃん)。

『ジャンヌにしても、ルイーズにしても、ヴィベットにしても皆、女は聖女なんだ!』と改めて思うピエール。
背景が変わって、宝塚らしい夢の世界が開ける。美しいメロディが流れ、白い騎士姿のピエールを囲み、純白衣装の3人の聖女(花總、彩乃、花影)が舞う。
【自分にかかわった女に本当に優しいピエール!ピエールとて、やっぱり真心で接してやるから女に好かれるんですよね!たぶん、外見も男らしくて、格好が良かったんでしょうけどね!あっ、勿論、宝塚のたか子さんもそれに値する方ですよ!!】

第6場
 ランス大聖堂前

救世主「ラ・ピュセル」の働きのおかげで、フランスは休戦となり、シャルル王太子が戴冠された。
市民達はジャンヌを真の救世主だと思う者や、逆に、怪しいただのインチキ女だと悪口を叩く者もいた。町のよた者2人があまり汚い口を叩くので、ピエールが怒って殴り飛ばしたりした。
とりあえずは、ピエール達傭兵も一仕事が終わり、アランヴィルという田舎町の守備隊長を務めることになった。傭兵達の中には結婚が決まり、その田舎町で暮らそうとする者もいる。

戴冠式の後、短髪になったジャンヌが以前の約束を果たそうと、ピエールの前に現れた。正装姿のトマやロベール、マルクも大聖堂の階段の所でその様子を見守っている。
ピエールはアランヴィルの用心棒になって、仲間と暮らしていく事を伝え、聖女であるジャンヌとの昔の約束は破棄すると言った。それを聞いたジャンヌは、簡単に約束を取消された事、ピエールと別れる事が目前である事に、力を落としたかのごとくにその場を去っていく。

トマ達がそっと、ピエールを励ますように、「シェフ殿、良かったんですかい……。あの娘は救世主を演じる事を苦しんでいる。シェフ殿に助けを求めてるんじゃないですか?」「シェフ殿があの娘の救世主になるべきだったんじゃないですか」「……」
そこへ、めっぽう女らしくなったヴィベットが夕食だと、ピエールを迎えに来た。彼女は一部始終を見ていたのか〜?「あの方の代わりは嫌だ」と、可愛がろうとするピエールの手を拒み、暗闇に駆けて行ってしまった。「夜道は危ないよぉー」とピエールが心配する。

大聖堂のバルコニーに(銀橋を通る)戴冠式を終えたシャルル7世(初嶺磨代…頭の立派な冠にご注目)とコーション司教(箙かおる)、シャルル7世の愛人マニエル(貴柳みどり)が、話しながら現れた。
『多くの市民がジャンヌを称えている。コーション司教を差し置いてその人気は絶大だ。あんなただの田舎娘に、これ以上、神の声だと国を支配されては困る』といった具合にコーションが呟くと、
「つまり、神のお告げは教会の専売特許、神のお言葉を独占してこそ、教会の威信が保てると…、あの娘はコーション様をも、失業させるかも〜…」と、薄笑いを浮かべながらコーションの悔しさをあおるアニエス。
救世主ジャンヌを落とし入れる準備が今、始まろうとしていた…。

 傭兵宿舎前
その夜、ヴィベットは帰って来なかった。翌朝、町外れの傭兵テント村で火事があったらしい。
現場検証から戻ったトマとロベールは「男女の分別も付かないほどの焼死体の中に、この指輪が……」と伝える。ピエールが以前にヴィベットにやった指輪だった……。
放火の際、怪しい2人組を見かけた人もいるとかで、心当たりに気付いたピエールは激怒して剣を持って出掛け、ヴィベットの敵討ちをして帰ってきた。
トマの心の声『俺とロベールにはシェフのしようとしている事が手に取るよう解った…。だが、俺達はシェフを止める事はなかった……』
【何とも哀れなヴィベットの最後ですね。ピエールに気に入られようと、そこはかな色気が出て来て、美しくなって来たのに…。(泣)】

役人に提出する火事の報告書は明らかに嘘っぽかったが、ラ・イールは全てを飲み、上手く繕ってくれるらしく、事は納まった。ラ・イールはピエールに「フランスの休戦もいつまで続くのか判らないが、今度会うのは戦場か、それともあの世か、お互い大勢人を殺してるのだから、天国にはいけないな、次は地獄で会おう」と友情を示して別れる。

アランヴィルに向けての準備が整った頃、ジャンヌが再びお別れを言いに来た。「あばよ、ジャンヌ・ダルク」とピエールは行ってしまった。
1人残されたジャンヌは歌いながら銀橋へ、『キリストの花嫁になる運命だと決めてた〜、ときめきも知らないで〜♪』
そして、
「ピエール、私が聞いた最後の神の言葉は、『ジャンヌよお前は捕らわれるだろう』だったのです」
と、これから起こる事件を予期するかのような言葉を残す。(暗転)

第7場
 平和な日々

アランヴィルの田舎町に来て、平和な日々が流れ、2年が経っていた。
ピエールに世話になったルイーズも、この町で結婚し、居酒屋を営み素朴に暮らしている。亭主は身体の弱い男(夢大輝)【タケちゃんです。か細い感じでコンコンと咳をする】だけれど幸せそう。
皆其々に個性を活かした職を持って働いている。ロベールは女のコネでサン・マルク教会の主任司祭になるとか、なったとか。【修道服を着てます】
トマは元会計係の腕を利かせて、商人となり、立派な商人頭になっていた。茶色のマントに茶の帽子を被り、身なりもなかなか洒落たものです。
【借金取りと言っても、直ちゃんトマは目に可愛さがあり、優しく甘い感じの商人頭さん、それがまた、私のお気に入りです、はい。】

ピエールにトマ、ロベールが集った居酒屋に、黒覆面をしたナーブルの幽霊騎士(寿つかさ)とやらがやって来た。
「ジャンヌ・ダルクが北フランスのルーアンで、魔女の嫌疑を掛けられ、異端審問を受けている。果ては火刑に処される身となるので、ピエール様に単身でジャンヌを救い出して欲しい」と言うのだ。
驚いたピエールは騎士から、一時的に声を奪う薬と、報酬半分の百フランを手に、速、出立する事になった。

第8場
 ラ・ピュセル昇天(カトリーヌの部屋)

ここはルーアンの地。コーション司教の思惑通り、ジャンヌの死刑が明日に決まった。
コーションは牢に入れられているジャンヌの管理を、愛人であるカトリーヌ(華宮あいり)に任せていた為、「最後の管理故、ジャンヌを更に厳しく痛めつけるように」と申し付けて帰って行った。
ピエールは新人の神父になりすまし、カトリーヌに接近していた。

第9場
 ラ・ピュセル昇天(牢獄)

カトリーヌはピエールにべた惚れ〜。ピエールにもジャンヌを痛めつけさせようと牢に案内するが、ピエールの罠に引っ掛かったカトリーヌは首飾りで首を締められ、声を無くす薬を飲まされた。
獄中のジャンヌは散々牢番の男達に痛めつけられ、見るも無残な姿で恐怖におののいていた。ピエールは牢番を短剣で刺し殺し、カトリーヌの服とジャンヌの服(ジャンヌの服は赤い処刑服)を入れ替えさせ、ジャンヌを救い出した。

第10場
 ラ・ピュセル昇天(火刑場)

処刑当日、炎の精が踊る、踊る、プロローグの場面になる。中央の十字架にはジャンヌの代わりに囚人服を着たカトリーヌが貼り付けられていた。火が燃えきった後に検分された時、焼死体には十字架の焼印が残されていた。人々は「聖女だ!真の聖女だった!大変だ!」と叫ぶ。
コーションだけはカトリーヌと判ったようだが、うろたえて狂ったように「もう一度、跡形なく全てを燃やせ!決してジャンヌを聖女にしてはならぬ!」と叫ぶ。

第11場
 ある安宿

やっとの思いで逃げ切って、ある宿に落ち着いたピエールとジャンヌ、ジャンヌは相当疲労している。ピエールは大切な物を預かっているかのように、一つしかないベットをジャンヌの為に何かと心配りをした。
自分が犯してきた過去に対する数々の罪を考えると、自分は聖女である彼女には相応しくないと思う。彼女の自分に対する気持ちは判っていても受け入れることは出来ない。ピエールはそんな事を思いながら、ただただ、任務を果たす為だと彼女を守り続けた。

第12場 
 脱落、そして復活
 (アランヴィルの田舎町)
『カンカンカン!』とけたたましい音がする。無事にジャンヌを幽霊騎士の元へ帰したピエールは、残りの百フランを貰い、毎日、酒びたりで寝て暮らしている。
今日も
トマが見るに見かねて、フライパンを持って寝ているピエールを起こしに来たのだ。紺緑の上質の衣服を着て「起きろ、起きろ、起きて下さいよぉー!」とフライパンを叩くトマさん
「ラ・ピュセルを助け出してから、この一年シェフ殿は朝から晩まで酒びたり、この町の守備隊長なんですから、もっとシャキッ!としてもらわねぇと部下達に示しが付きませんよ。ロベールだってあんたに愛想をつかして出て行ったんですよ」と、ピエールに説教じみた事を言っている。
「実は、先日行商の折に立ち寄った女子修道院で自家製のチーズを頂いたんですが、これがメチャ美味でして〜、このチーズを仕入れて商売すりゃ、いい銭になると踏んだんですが、修道女のおば様方が頑固でして、
『利益目的じゃ売りません!』
【ここの台詞の声がひっくり返って、観客に毎回受けている直ちゃんトマさんです。】
とか抜かしあがって、一切れも卸してくれないんですよ。ですから、傭兵を動かして女子修道院を襲い、力づくでチーズを分けろ!って、脅しをかけたいんです」
「俺は強盗は辞めたんだから、略奪には興味が無い」と眠そうにピエールが言う。とうとう、痺れを切らしたトマ、「あんたは大金を手にして死人になったんだ、腕抜けの酔っ払い野郎が!」
漸く本気で怒り出したピエール、トマは尚もけしかけてピエールをいきり立たせる。殴り合いが始まる。
「今日から俺がシェフだ!」と叫んだトマ直ちゃんは銀橋に出て歌います。

 「シェフは俺だ!」銀橋
『♪男の生き方、ふたつある〜、人に使われる者、人を使う者、陽のあたる人生、陽陰の人生、どうせ男に生まれたからには〜、陽のあたる道を歩こうぜぇ〜、のぼりつめろ男の人生、邪魔する奴ら〜 叩き落せぇ〜♪』
「シェフは俺だ!」
【直ちゃんの男っぽい歌でした。】ー拍手、拍手ー

第13場
 女子修道院前

トマを筆頭に甲冑姿のアンジューの一角獣が修道院の前に整列した。ピエールも一番後ろからノコノコとついて来ている。
トマはピエールを前に出して「何が見えるか」と聞く。力の無い声で「女子修道院」とピエールが答える。「そうだ、チーズの美味しい例の修道院だ、あそこにラ・ピュセルが暮らしている」
「えっ、ジャンヌダルクが?」と確かめたピエールは、窮にトマの横っ面を殴る。トマはほっぺたを押さえて痛そうに「こう言う事は殴る前に言って下さいよ!」と自分の作戦が上手くいったので嬉しそうに文句を言った。
「シェフは俺だ!みんな、面倒掛けたな。これより、女子修道院を襲撃する!」とピエールが叫び、「目的はチーズだ!」「ジャンヌダルクだぁ!」「オォ!」と全員が息を吹き返したように気勢を発した。

 女子修道院
悲鳴の中をドドド乱入した傭兵達。礼拝堂にいたジャンヌを見つけると、ピエールは彼女を抱きしめた。
「お楽しみはそこまでだ!」と突然聞き覚えのある声がした。親衛隊に昇格したロベールだった。「またまた女のコネでな、御領主様に取り入れてもらったんだ。どうだ、立派な制服だろう。」と自慢するロベール。
【なるほど、羽根が付いた帽子と言い、マントと言い、品格が断然違う白と黒の格好良い軍服姿です】
そして、「修道院襲撃の容疑で逮捕する。その女も手引きした罪で逮捕する。あるお方からお前達を逮捕すれば準騎士にしてやると約束を頂いている。出世の為だ悪く思うなよ」とロベールは言った。そこへトマやマルクもロープで捕えられて連行されて来た。「シェフ殿、諦めた方がいいですぜ、外には1個中隊の騎馬兵が待機している。どう考えても勝ち目は…」とトマ。
さらにロベールはピエールに「友達のよしみで大人しく縄に付いてくれれば、トマ達を無罪放免とする。ジャンヌの命も保証する」と約束して、無念そうに剣を捨てたピエールに縄を掛けた。

第14場
 永遠の誓い(宮殿の広間)

逮捕されて、宮殿の広間に連行されたピエールは「殺すんなら殺せ」と開き直っている。
そこは赤いじゅうたんが細長く中央に敷き詰められ、王座にはヨロンド王妃が座していらっしゃる。何故かナーブルの幽霊騎士までそこにいる。シチリア王妃にしてアンジュー公妃であるヨランド・ダラゴン様はピエールに、魔女の嫌疑を掛けられたラ・ピュセルを獄中から救い出した当人である事を確認する。
そして、『ラ・ピュセルの働きはフランスにとって予想を上回る結果をもたらした事、荒くれ者の傭兵達をも十字軍にした。アングル軍はあの娘を殺そうとした。政治はある時は神を利用し、ある時は神をも抹殺しようとするもので、我々は果てにそれを望んだりした事。
神に仕えた救世主はフランス王国の為にどうしても死ななければならず、聖女伝説は死んで永遠の伝説とならなければならない。普通の女として結婚して子を授かれば、聖女伝説はたちまち崩壊してしまうので、政治はそれを恐れた。
しかし、それではヨランド自身の気持ちが修まらないので、ピエールを使ってラピュセル救出命令を出した。ピエールは期待以上に役目を果たし、フランスの英雄を救い、伝説をも完成させてくれた事。ところが、修道院を襲撃した事については断じて処罰を受ける事。』とおっしゃったのだ。

その罰とは〜「ジャンヌと即刻結婚する事です!」……と
更にピエールは、ヨランドからアラニ−の土地と、ピエールダラニー郷と言う名を授かり、貴族となる事を言い渡された。
びっくりしているピエールに幽霊騎士が罰を受けるのかと問い正す。あわてて返事するピエール。
ヨランドはそこまで言い終わると、緊張が取れたかのように、感情的に、立派に育ったピエールに対する嬉しさがこみ上げて来たらしい。
『自分も女であり、若い頃は身分違いの恋に苦しみ、恋人との間に生まれた赤子を育てる事が出来ず、赤子をある貴族に預け、私生児として育ててもらった。その赤子がこんなにも立派になって〜』と、涙を流しかけた所で、幽霊騎士が王妃に退室を勧める。
ヨランドが退室すると、いつの間にかトマやマルク達アンジューの一角獣が、ロベールと同じ近衛兵の軍服姿で立っている。「ロベールだけじゃなく俺達も正式な親衛隊にしてもらったんだよ」とトマが言うと、マルクも「騙して悪かったな」とピエールに謝る。どうやら、ピエールの為に皆して仕組んだようだ。
気が付けば、ルイーズとその亭主も招待されている。「お前を騙していたのは俺達だけじゃないぜ」とトマが言って、幽霊騎士の方を向く。
幽霊騎士が覆面を取り外すと、年老いた父親のアルマン・ドゥ・ラ・フルトがそこにいた。昔、戦場で生き別れになっていたピエールの父親だった……。

そろそろ、花嫁の仕度も整った頃、純白のウエディングドレスのジャンヌが花道から入場となる。ピエールにも白いマントが着せられ、花婿と花嫁が揃った。美しいジャンヌにピエールは「ジャネット、男の格好も悪くはなかったが、やっぱり君にはその格好が一番似合う、とっても綺麗だ」と〜。
「全く花嫁衣装てのは〜魔法だな」「あら、私は魔女ではありませんことよ」と、かわすジャンヌ。
祝福の拍手に送られて、2人は手を繋いで、主題歌を歌いながら銀橋を渡る。ハッピーエンドの幕が降りる。

ー完ー

波瀾に富んだ素晴らしいお話しでしたね!実際、凄く長いお話をよくここまでに舞台化し、判り易く纏めたものだと脚本、演出家さんに感心させられます。
配役も其々、ピッタリでしたね。特に主役のお二人が原作の主人公そのものって感じでした。
宝塚だから上品で美しく、優しい感じが出ていましたけど、本当ならば生死を分ける戦いですから、見るに耐えないものが一杯なんでしょうね。

花ちゃんのラ・ピュセルぶりは、実際、きっと、そうだろうなと思わせる位お上手で、コメディ的な所も可愛かったですね。
たか子さんも大柄加減と言い、個性的な顔立ちと言い、優しさを内に秘める荒くれ者のピエールを良く演じていましたね。
伊織さん、水さん、美郷さんのトマ、ロベール、マルクも、其々に違った個性で、その持ち味が充分に出ていました。
ラ・イールのゆうかちゃんも、若干、腺が細いけど頑張っていましたね。親しみが湧きます。
カトリーヌ、普段は男役の華宮さん、女役も外人さんみたいで綺麗でしたね。少ししか登場しませんでしたけど、印象に残る役です。
直ちゃんも、ゆうかちゃんも、あいりちゃんも、これが最後の舞台なんですねぇ〜、何とも残念です…。
そうそう、かなみちゃん、パァーと華がありますね。今回はルイーズと言うあわれな娼婦役でしたけど、品位があって、印象に残る役柄でした。
花影アリスちゃんのヴィベット、はかなくもピエールを慕って、死んでしまいましたが、好演でしたね。

全体的には良く出来た話だなぁ〜と思いますね。あんなに物事が上手くいくだろうか〜とか、つい、現実的に解釈してしまう私です。(笑)
いえ、やっぱし!神の力、神の導きに他ならないんですよ!!

長々と、だらだらと、纏めが悪くてすみません。あれもこれも書きたいと思ったら、こんなになってしまいました。
読んで下さった方、有難う御座いました。

2003.5/4 yuko記

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