和歌と俳句

後拾遺和歌集

秋

一 二 三 四 五 六 七

赤染衛門
おきもゐぬわがとこよこそ悲しけれ春かへりにし雁も鳴くなり

伊勢大輔
さよふかく旅の空にてなくかりはおのが羽風や夜寒なるらん

白河院御製
さして行く道も忘れてかりがねのきこゆるかたに心をぞやる

良暹法師
あふさかの関の杉むら引くほどはをぶちにみゆる望月の駒

源縁法師
みちのくのあだちの駒はなづめどもけふ逢坂の関まではきぬ

惠慶法師
望月の駒引く時はあふさかの木の下やみも見えずぞありける

源頼家朝臣
暮れゆけば浅茅が原の虫の音もをのへの鹿も聲たてつなり

涼
鹿の音に秋をしるかな高砂のをのへの松はみどりなれども

白河院御製
かひもなき心地こそすれさを鹿のたつ聲もせぬ萩のにしきは

大中臣能宣朝臣
秋はぎのさくにしもなど鹿の鳴くうつろふ花はおのが妻かも

源為善朝臣
秋萩をしがらみふする鹿の音をねたきものからまづぞききつる

安法法師
籬なる萩の下葉の色を見て思ひやりつつ鹿ぞ鳴くなる

能因法師
秋はなほ我が身ならねど高砂のをのへの鹿の妻ぞこふらし

叡覚法師
こよひこそ鹿のね近くきこゆなれやがて垣根は秋の野なれば

藤原長能
宮城野に妻とふ鹿ぞさけぶなる本あらの萩に露やさむけき

大弐三位
秋霧の晴れせぬみねに立つ鹿は聲ばかりこそ人にしらるれ

藤原家経朝臣
鹿の音ぞ寝覚めの床にきこゆなるをのの草臥露や置くらん

江侍従
小倉山たちどもみえぬ夕霧に妻まどはせる鹿ぞなくなる

和泉式部
晴れずのみ物ぞ悲しき秋霧は心のうちに立つにやあるらん

天台座主源心
のこりなき命を惜しと思ふかな宿の秋はぎ散りはつるまで