かがやかに 穂並みゆすれて、吹きとほる 麦原の底の風はほよれり
麦の原の穂だち はるけくおしなみに、照り白む日は 光りしづめり
黒土の畝に、穂立ちのひたさ青に 端正しきかも。麦秀き並ぶ
麦の花 ひそかなれども、目につきて咲きゐる暮れを 風のさびしさ
山岸に 穂麦のあかり照りかへり、あらはなるかも。赤松の幹
夕畑や 黒穂の立ちの まざまざと をちこち見えて さびし。入る日の
夕かげる麦原中道おち窪に、踏み処をぐらく 日は洩り来る
草のうへに 踏みためがたきわが歩み。はだしになれど、いたもすべなし
昼ぎらふ麦原めぐりて来たる音 車かたりと、土橋にかかる
わが山に戻り来にけり。くりやべに、昼を鳴けるは、こほろぎならむ
ゆくりなく 目につきにけり。薔薇の後、庭木のうれの みな�高ネる
わが庭のやつで広葉 ゆすりたち、さやかに ここを風の過ぎゆく
うすぐらき 場すゑのよせの下座の唄。聴けば苦しゑ。その声よきに
白じろと更けぬる よせの畳のうへ。悄然ときてすわりぬ。われは
衢風砂吹き入れて、はなしかの高座のまたたき さびしくありけり
誰一人 客はわらはぬはなしかの工 さびしさ。われも笑はず
高座にあがるすなはち 処女ふたり 扇ひらきぬ。大きなる扇を
新内の語りのとぎれ おどろけば、座頭紫朝は目をあかずをり
「富久」のはなしなかばに 立ちくるは、笑ふに堪へむ心にあらず