[ 前編 ]
「君が好きなんだ!」
「結構。」
万感の思いを込めたマッコイの告白は、たった二言で断られた。
「ちょっとストレートすぎたかな…?」
会議室に一人取り残されたマッコイが呟く。先程の告白失敗を振り返る。
あんなにすっぱり返されるとどうしようもない。
次はもっとゆとりを持って切り出そう。
この組合、この街には素敵な女性がまだまだたくさんいるんだから。
「じんせー楽しまないとねぇ〜。」
誰に言うとでもなくそんな言葉を口にする。つまらないことに時間を使う…
その次にネガティブな気持ちになることがマッコイは嫌いだった。
天気もいいし酒場のケーシーさんの顔を見に行こう!
そう決めてマッコイはバニー服に身をつつんだ彼女のことを思い出す。
彼女が自分に入れてくれるミルクココアはいつも他の男のそれよりわずかに多い。
彼女には長期戦で挑むつもりだった。
会議室のドアを開いた瞬間、廊下を走ってきたバタイと派手にぶつかりそうになった。
「すみません!」
そう言い置いてクラスメートは勢いも落とさず組合の外へ走り出ていく。
真面目な奴だ。相変わらず盗みの練習に走り回っているんだろう。
物心ついた時から盗みをやっているマッコイには、
今更「スリ」の練習なんて興味を引くものではなかった。
それより何より今は恋人GETである。いつでも恋人を愛する準備は出来ている。
どんな危険も顧みず自分は彼女を命懸けで守るだろう・・
あとは恋人を作るだけだった。
階段を降りるところで二人の秘書を従えた組合長がやってきた。軽く会釈してすれ違う。
今日もかわいい姉妹からは良い匂いがし、組合長からはスケベなにおいがした。
いや、厳密にいえば組合長からはスケベそうなにおいだ。
マッコイには自分と同じ「におい」を持つものを嗅ぎ分ける能力があった。
この組合にやたらと女性職員(美人)が多いのは、ひとえに組合長のスケベ心によるもの。
マッコイはそう確信していた。
普段真面目っぽく見える者ほどむっつりスケベなことが多い。
あの「良い子」を絵に描いたようなトレドだって、
この間受付のメルウさんの日記帳を狙っていたぐらいだ。
ムッツリはいけない。
マッコイは思う。
同じスケベならオープンであるべきだ。
いつか気の合うスケベな女性と知り合うことだってあるかもしれないんだから。
ムッツリは何も生み出さない!今度、トレドに教えてやろう。
組合から外に出たところでマッコイは自分の懐が軽くなっていることにようやく気がついた。
「やられた!」
さっきぶつかりかけたバタイだろう。昼飯にと買っておいた『おにぎり』を見事にすられていた。
盗むことには慣れていても、盗まれることにはどうも注意不足だ。
故郷の街では盗むことはあっても、自分が狙われるなんてことは一度もなかったから。
つい先日も大切な『青春のデータ集』を盗まれてしまったばかりだった。
あれは必ず取り戻さなければいけない。
つぶれてしまっているかもしれない『おにぎり』などとは重みが違う。
犯人の検討もついている。組合乗っ取りを公言しているクラスメートのカジェリだ。
彼女は組合に関するありとあらゆる情報を集めていた。
マッコイ秘蔵のデータ集も彼女に奪われたと見て間違いないだろう。
マッコイは何度か彼女からデータ集の奪還を試みていた。
だがその度に彼の手元に残るのは『マヨネーズパン』、略して『マヨパン』だけ。
カジェリはいつもパンを持っていた。むしろパンしか持っていないのではないのだろうか?
マッコイはパン以外の物を彼女から盗んだことがなかった。
彼女の私生活は全くの謎だが、よほどこの『マヨパン』が好きなのだろう。
マッコイ自身は『フランスパン』の方が好きなのだが。
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