『古事記のものがたり』・本のできるまで
その12

「自分の本は自分で売ります。
 “古事記のものがたり”出版までの奮闘記その12


あとは相談じゃ…… 「その一」

さあ、なんとか大量の注文が取れそうだ。がんばって本を作りさえすれば、あの有名神社の宮司さんがきっとガバッーと買い上げてくれるはずなので、すぐに3000部完売してしまうに違いない。ぼくはちょっと余裕さえ出てきた。

しかしお金が借りられたわけではないので、印刷・製本代が足りないのはいまだに変わらない。そこでまたまた二人して考えに考えた結果、中味だけを印刷・製本してもらって、表紙カバーは印刷屋さんに頼まないで自分たちで手作りで作ろうということになった。

本を丸ごと一冊づつ作ることに比べれば、カバーを3000枚作って一冊づつ手作業で本にかける作業なんて簡単なことだ。それに表紙をカラーで印刷するのは結構費用がかかるのでその分節約できるという計算だ。

そうと決まればみどりさんは、いつものようにすばやい行動と広いネットワークを活かしてすぐに、松屋町筋の紙問屋さんの知り合いを紹介してもらう段取りをつけてきた。紙問屋さんは、非常に安い上に注文どおりの形に機械で断裁までしてくれるという。

ぼくは3000枚自分でカッターナイフで切ろうと思っていたのでこれはすごくありがたいことだ。しかし紙の種類がものすごくたくさんあるのでとりあえず紙のサンプルをもらって帰ることにした。

よしこれで本のカバーは何とかなりそうだ。次は表紙のデザインや文字をどうするかだ。まさか一枚一枚手書きするわけにもいかない。そこで考えたのがシール印刷だ。そうだカラーのシールを作ってペタペタ貼っていこう。

ぼくは近くの公園のすぐ前にシール印刷の専門店があったのを思い出して、自転車で飛んで行った。気のよさそうな社長さんが話を聞いてくれて即答で返事が返ってきた。紙質にもよるができるだけ安くしてくれるとのことだった。これで表紙はなんとか格好がつくだろう。

今振り返ってみると、とんでもない発想で動いていたのだが。当時のぼくたちにしてみれば「古事記のものがたり」を本にするために一生懸命だったし、少しでも安く出来ないものかという思いで必死だったのだ。

さて、それはさておき、後はどこの会社に印刷・製本を発注するかだ。

これまでに同時進行で何社かに見積もりを依頼していたので、さっそくFAXで送られてきた見積書を検討する。その中で某地方都市の印刷屋さんがとびぬけて安い見積もりをだしてくれていた。他のに比べて確実に三割は安かった!その上、表紙カバーのカラー印刷代まで含まれての値段だった。

表紙を手作りしなくてもいいなんて、しかも見積書の一番下に「あとは相談…」と書かれていた。僕たちはこれはてっきり相談さえすればもっと安くしてくれるに違いないと判断して、その印刷屋さんに発注することに決めた。

そこの会社の社長さんとは会ったことはなかったけれど、前に小さな小冊子を作ったときに仕事を発注したこともあるので、かなり遠距離にはなるがまったく不安はなかった。

さあ、そうなったら表紙を手作りしようという計画が大変更になった。紙屋さんとシール屋さんにはわけを話して断りを入れた。すぐに表紙のデザインをどうするかという問題が浮上してきた。そこでぼくが表紙を書こうと思いたって色鉛筆で書いたのが下の三枚の絵です。

   

みどりさんはこのぼくの絵を見るなり、黙って例の日本画家の友人に電話した。急いで(ニ、三日で)表紙の絵を描いてくれないかと彼女に電話でお願いしている。

画家さんの答えは簡単だった。「いいよ。古事記のためなら応援するよ!」という返事。

(このときのみどりさんの態度には一時は画家を目指したこともあるぼくのプライドが少し痛んだ。いま見てもぼくの描いた表紙はなかなか味があって面白いと思うのですが…、みなさんどうですか?)

そしてタイトルの「古事記のものがたり」という文字も、近所に住んでいるサロン・ド・パリの会員の女流書道家さんに頼みにいって、すぐに書いてもらってきた。

まったくみどりさんの回りにはいつも不思議な人が存在していると思う。こんなすごい人たちがみどりさんの話を聞いて二つ返事で快く引き受けてくれる、しかも無償で動いてくれるのだから…。

こうして、あっというまに絵も文字も出来上がり、全体の表紙デザインはぼくが担当した。


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