雲の峯王冠紅く暮れのこる
熱砂走るひびき少女の重さだけ
吾のものならぬ海岸日傘へ行く
ひかりもの憂しこの世もの憂しきりぎりす
秋耕の石拾ひ投ぐ吾へとなく
明月の下より出でて星懸る
天の川鉄路の欠けの八里ほど
砂に寝て砂の軋むや秋日和
鉄骨のかこむ空間秋の暮
冬の暮いづこの駅も木の腰掛
寒き浜犬嗅ぎあひて別れ去る
山口と標札昼の雪格子
傍に妻病みて雨まじり雪
外套の裾を挟まれしが辞し去る
猫も野の獣ぞ枯野ひた走る
鮭吊し置くに吾が家声稀に
鉄骨の下部を焚火に照されて
歳晩やトラック滴るまで洗ふ
除夜の鐘吾身の奈落より聞ゆ