櫓を取りて漕ぐや春光そこにあり
山畑に残る蜜柑や春の海
春潮を常に身近や伊豆の旅
下萌の庭を踏みては炉辺に在り
比翼塚守りて小寺や春寒し
萱積みてそこら黄いろし梅の庭
長い文書いてゐるなり春炬燵
岸草に残る雪あり一つづり
杉の花こぼれし磴や物詣
藁塚は減りてゆくらし水温む
枯蔓を吹きほどきをる春の風
春の日の降りそそぎゐる藪黄なり
夕霞片瀬江ノ島灯り合ひ
青麦の丘の近道知りて訪ふ
人来ねば鼓打ちけり花の雨
めりがちの鼓締め打つ花の雨
花散るや鼓あつかふ膝の上
春愁や稽古鼓を仮枕
青籬にこぼれてくぐる落花かな
耕人の憩ひ見るべき宿の花
大空へうすれひろがる落花かな
青籬や落花の庭をたち囲ひ
座敷には鼓出されて花に月
チチポポと鼓打たうよ花月夜
籬根に濃かりし夜の落花かな