和歌と俳句

與謝野晶子

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御葬送りに やつれぎぬ着る 中の子を かへり見まさで よき道おはせ

父ぞ来ます 御列むかふる 秋の寺 つめたき廊の 敷瓦かな

おもひ子は 名しらぬ罪を 兄に負ひ 御棺遠き 中の間に眠る

母を見れば ありし日に似ぬ 蓮つき 百二十里を 来し父の家

棺にして 今前を過ぎ 堂に入ると 鳴る鐃■の 音さへ聞きぬ

父なうて 島田に似たる 忌髷の いまだふさふか 末の姉妹

二十四に 成れば男と わが言ひし 弟の片頬 よく父に似る

あなかしこ 兄をうらみの 涙さへ まじると知らば まどひまさむ道

御棺に あまり泣く子は 供許らず 萩さく径を 母と行く寺

児を具して 召に具されし さくら月 足ると笑まぜし 御眼も開かぬ

さらば父 地の百里は 隔てありぬ 我家の笑みを 天に見たまへ