黄昏の 河を渡るや 乗合の 牛等鳴き出ぬ 黄の山の雲
酔ひ痴れて 酒袋如す わが五体 砂に落ち散り 青海をみる
労れはてて 眼には血もなき 旅びとの 今し汝みる やよ暮るる海
船はてて 上れる国は 満天の 星くづのなかに 山匂ひ立つ
山聳ゆ 海よこたはる その間の なぎさに寝ねて 遠き雲見る
遊君の 紅き袖ふり 手をかざし をとこ待つらむ 港早や来よ
大うねり 風にさからひ 青うゆく そのいただきの 白玉の波
大隅の 海を走るや 乗合の 若きが髪の よく匂ふかな
船酔の うら若き母の 胸に倚り 海をよろこぶ やよみどり児よ
落日や 白く光りて 飛魚は 征天降るごとし 秋風の海
船の上に 飼へる一つの 鈴虫の 鳴きしきるかな 月青き海
港口 黒山そびゆ わが船の ちひさなるかな 沖さして行く
帆柱ぞ 寂然として そらをさす 風死せし白昼の 海の青さよ
かたかたと かたき音して 秋更けし 沖の青なみ 帆のしたにうつ
風ひたと 落ちて真鉄の 青空ゆ 星ふりそめぬ つかれし海に
山かげの 闇に吸はれて わが船は みなとに入りぬ 汽笛長う鳴く
南国の 夏の樹木の 青浪の 山はてもなし 一峠越ゆ
夕されば いつしか雲は 降り来て 峯に寝るなり 山ふかき国
月明し 山脈こえて 秋かぜの 流るる夜なり 雲高う照る
秋の蝉 うちみだれ鳴く 夕山の 樹の蔭に立ち ゆく雲を見る