山茱萸のふふめるままの冬の枝 傾ける 土の霜はとけたり
山茱萸の 春のさかりはいまだ遠し。母います土を偲びて居らむ
梢高き椚が原に、朝日さし、仰げば 目につく。山繭のから
森の木のほつ枝にのこる山繭のから ひとり すべなき心を持てり
黙ゆく心たへがたし。下向きて その孔見ゆれ。山繭のから
まだ暮れぬ檜原をゆする風のおと、あゆみをとめて、ひとりと知れり
風の音は 暮れしに似たる檜原のなか。梢を見れば、まだあかりあり
枯れ茅の 見おろし遠きどてのもと 穴に吸うはるる 水の音すも
かれ茅のなづさふ川の雪消の水 青みふかくして、上にごりをり
朝来たり ふたたびとほる雪のうへに、鳥の足がた みだれてありけり
檜原の うしろにさがる丘根の側面。斑雪の色は、いまだもくれず
宵の間の冱えはゆるべる夜のくだち 雨ふるらしも。雪道のうへに
きさらぎの朝間の照りに、霜けぶる 茅枯れ原の臥しみだれはも
枯山の梢 さやさや雪散りて、こがらし吹きたつ。山の窪みに
から山の木むらに向きて吐く息を ひとりさびしめり。深く入り来て
冬山の木原の霜の見わたしに、おのづからひらく。いきどほる胸
霜とくる冬草の葉の濡れ色の 目に入りきたる。心なごみに
草の株まじりて黒き冬畑の 畝はぬ土は、霜にふくれたり
よべいねし部屋にさめたる あかつきの目に揺れてゐる 牀の山蘰
さ夜深く醒めて驚く。こは早も 年変りぬる時計のひびき
子どもあまた育つる家に 子らい寝て、親は起き居り。春のいそぎに
いとけなき太郎男の子の、肩はりて横座に坐るを 笑み瞻る親
仲子と 末の女の子の赤ら頬に、つきをかしもよ。おしろいの色
三人子の母となりて、友の妻 つまさびゐるも。春立てる家
おのづから まなこは開く。朝日さし 去年のままなる部屋のもなかに
猿曳きを宿によび入れて、年の朝 のどかに瞻る。猿のをどりを
遠き代の安倍の童子のふるごとを 猿はをどれり。年のはじめに
目の下の冬木の中の村の道 行く人はなし。鴉おりゐる
麦の原の上にひろがる青空を こは 雁わたる。元日の朝
元日は 悠々暮れて、ふゆ草の原 まどかに沈む赤き日のおも
故つびと 山に葛堀り、む月たつ今朝を入るらむ。深き林に