和歌と俳句

釈迢空

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大正七年

金富町

この家の針子は いち日笑ひ居り。こがらしゆする障子のなかに

昼さめて こたつに聞けば、まだやめず。弟子をたしなむる家刀自のこゑ

馴れつつも わびしくありけり。家刀自 喰はする飯を三年はみつつ

はじめより 軋みゆすれしこの二階 風の夜ねむる静ごころかも

雇はれ来て、やがて死にゆく小むすめの命をも見し。これの二階に

したに坐て もの言ふすべを知りそめて、よき小をんなとなりにしものを

朝々に 火を持ち来り、炭つげるをさなきそぶり 牀よりぞ見し

よろこびて 消毒を受く。これのみが、わがすることぞ。うなゐ子のため

村の子

笹の葉を喰みつつ 口に泡はけり。愛しき馬や。馬になれる子や

麦芽たつ丘べの村の土ぼこりに 子どもだく踏む。馬のまねして

さ夜なかに 覚めておどろく。夜はの雪 ふりうづむとも 人は知らじな

ひそやかに あゆみをとどむ。夜はの雪踏み行くわれと 人知らめやも

鴉なくお浜離宮の松のうれ つらつら白き 雪のふりはも

足柄の小峰の原に、昼の雪淡らにふりて、雀出てゐる

松むらに、吹雪けぶれる丘のうへ 閑院さまの藁の屋根 見ゆ

藪そとの石橋に出て、道ひろし。夕さざめきて 人つづき来る